伝蔵荘日誌

【伝蔵荘日誌】2022年5月27日: ウクライナ、遊覧船、誤送金、その他諸々 T.G.

 かれこれ2ヶ月、伝蔵荘日誌を書いていない。こんなことははじめてだ。歳を取って気力がなくなったのか、世事に関心が向かなくなったのか、その両方だろう。これではいけないと、“気力を振り絞って”書くことにする。

 2月24日に始まったウクライナ戦争がいまだに続いている。終わる見込みがない。プーチンは戦争ではなく軍事作戦だという。戦争には目的があるが作戦にはない。いくらでも変更出来る。目的がなければ終わらせようがない。少なくともあと数年は続くだろう。変な戦争である。

 ウクライナ戦争はアメリカとロシア、中国の代理戦争である。アメリカはこれを奇貨としてロシアを徹底的に弱体化しようと目論んでいる。ウクライナは地政学的状況からその手先に使われているのだ。アメリカは自国兵士を派遣せず、代理戦争をしてくれるウクライナに大量の武器弾薬を送り続けている。それを可能にするために、バイデンは第二次大戦以来の武器貸与法を成立させた。武器貸与法は支那事変で日本軍と戦う蒋介石に武器弾薬を送るために、ルーズベルトが作った法律である。これを実行に移すために、軍事物資を輸送する援蒋ルートまで作った。このお陰で蒋介石は日本軍を苦しめることが可能になり、大陸と太平洋の二正面作戦をとらざるをえなくなった日本は負けた。バイデンはその再現を目論んでいる。日中戦争は4年続いたが、同じ代理戦争であるウクライナの戦いもあと数年は続くだろう。その結果、かっての日本と同じように、ロシアも弱体化させられるだろう。

 武器貸与法によって、アメリカの軍需産業は沸き立っている。ロッキードマーチン社製の対戦車ミサイル、ジャベリンが、ロシア軍の戦車を破壊し続けている。バイデンは1発2000万円のジャベリンをさらに5000発ウクライナに送るという。そんな大量のストックはアメリカにもない。急遽大増産する必要がある。その他の武器兵器も同じ状況だろう。アメリカの軍需産業はウハウハに違いない。GDPも大幅増で、アメリカの経済成長に寄与するだろう。

 第二次世界大戦が勃発する少し前、アメリカは大不況のどん底にあった。ルーズベルトは経済活性化のために、アメリカが世界の武器庫になる決断をする。その結果生まれたのが武器貸与法である。蒋介石中国以外にも、ヒットラードイツに対抗するイギリス、フランス、ソ連などに大量の軍事物資を送り続けた。それを可能にする工業力がアメリカにはあった。なかったのは需要で、戦争が需要を生んだ。まさにケインズ主義経済の極致と言える。スターリングラードでソ連がヒットラーに勝てたのはアメリカのお陰である。これがなければ負けていた。今のロシアはなかっただろう。武器貸与法でアメリカ経済は沸き立ち、大不況から脱出することが出来た。戦後は冷戦もあってアメリカ経済が一人勝ちし、世界一の超大国になれた。対中国戦略として、バイデンアメリカはそれを狙っている。真の目的はロシア弱体化ではなく。中国封じ込めなのだ。

 コロナが一段落し、ウクライナ戦争にも飽きてテレビ局が困り始めたら、突如として格好のニュース種が転がり込んできた。知床の遊覧船沈没事故と、山口の給付金誤送金事件である。テレビは朝から晩までこのニュースで持ちきりである。にわか評論家が輩出し、あれやこれやご託を並べている。

 遊覧船事故については、こんな危険な海域に、こんな不釣り合いな安手の遊覧船が毎日運行していたことに今さらながら驚く。国交省当局はこのような危うい遊覧船運航をなぜ許可していたのだろう。当時の知床は海水温5度。沈没して海上に投げ出された乗客は、5分で身体動かなくなり、20分で意識を失うと言う。助かるはずがない。それが分かっていながら、救命器具も搭載させず、いざというときの救急手段も用意せず、乗客運搬を許可するとは、もはや気違い沙汰(これ差別表現だそうでATOKは変換してくれません)、国交省を含む関係者全員の未必の故意としか言い様がない。ニュースでは船長の過失や遊覧船会社の経営責任追及ばかりに終始しているが、この事故の異様さ、悲惨さはそれを越えている。監督官庁の責任がきつく問われてしかるべきではないか。

 給付金誤送金事件である。山口県阿武町で誤って振り込まれた4630万円をめぐる事件が連日テレビのトップニュースになって、てんやわんやの大騒ぎである。羽鳥湖の仙人、Sa君の話では、彼の住む福島県天栄村でも同じような誤送金事故は起きており、金額も1億2千万円とはるかに多額だそうである。それでも話題にならなかったのは、すぐに回収出来たからだという。どうやら誤送金事故はほかの地域でもあちこちで多発しているらしい。幸か不幸か阿武町の場合は、誤送金を受けた人物が如何にも怪しげな人物で、ネットカジノで使い果たしたなどとエキセントリックな物言いをしたので話題になった。それに輪を掛けて町役場の事後処置がいい加減に過ぎた。テレビのニュースショウの話題にはぴったりだ。

 財政規律を度外視した医療予算や臨時給付金の垂れ流しはコロナに始まる。この2年間で総額10兆円規模に及ぶ大盤振る舞いである。振り込みなど煩雑な給付事務は、ほとんどが市町村など自治体に任されている。こんなに急ごしらえの事務処理を、デジタル化がまったく進んでいない日本の役所に任せたら、手違いが起きないはずがない。案の定あちこちで頻発している。おそらく阿武町のように相当規模の金額が杜撰な処理で誤って振り込まれ、回収出来ず、垂れ流しにされているケースが各地で起きているに違いない。これはもはや国家規模のスキャンダルと言っていい。給付金はいわばあぶく銭である。働いて手にした金ではない。誰だって突然身に覚えのない大金が振り込まれたら驚く。阿武町の犯人に限らず、心得違いを起こす輩がいても何の不思議もない。そういう意味でコロナに始まる巨額の臨時予算や給付金垂れ流しは罪深い。役人のみならず、真っ当な国民の倫理観や勤労意欲を大いにスポイルしたに違いない。

 緊急避難的コロナ対策が一段落した今、岸田総理はもう少しまともな政策運営で吏道を刷新し、国家の立て直しを計るべきではないか。そうしないと日本のポテンシャルがますます失われる。

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