伝蔵荘日誌

【伝蔵荘日誌】2022年1月30日: 老人支配国家、日本の危機 T.G.

 今月号の文藝春秋に、フランスの知の巨人エマニュエル・トッドの「2022年はどうなる、老人支配国家に明日はない」と言うインタビュー記事を載せている。話の前段で今のコロナ騒ぎについて次のように述べている。

「新型コロナは「老人支配」が続いていることを示しています。コロナ死者のほとんどは高齢者で、現役世代はわずかしかいません。コロナは高齢者の寿命を縮めましたたが、人口動態全体に与えるインパクトは少ない。コロナ対策は、老人の健康を守るために若者と現役世代の生活に多大な犠牲を強いています。日本のように(コロナ対策に成功し)高齢者の死亡率を抑えた国は、今後出生率の減少と、自粛生活が全世代の寿命にもたらす悪影響の方が大きくなってくるでしょう。社会が存続する上で、高齢者の寿命より重要なのは出生率であることを忘れてはいけません。現在12歳以下の子供に対しワクチン接種義務が取り沙汰されていますが、(コロナリスクがほとんどない)子供を含めた社会全体で感染を抑えることは、リスクの高い高齢者には有益ですが、これは「老人支配」の極みとも言えます」

 誠に至言である。それに加えて次のようにも言っている。

 「老人支配は先進国共通の現象です。現時点で各国の中位年齢は、日本48.9歳、ドイツ47.4歳、フランス41.9歳、アメリカ38.6歳です。民主主義社会は「創造的破壊」で進歩してきましたが、高齢化が進んだ現在、それにブレーキがかかっています。民主主義国家では普通選挙が大きな役割を果たしますが、それが「老人支配」の道具に化しています。有権者の高齢化で、「何もしない老人が」力を持ち、「生産する若者」が阻害されているのです。70歳にもなる私のような高齢者からは、投票権を剥奪すべきではないかと思うほどです。労働する人々、子供を作る人々ほど社会の中心にいるべきで、彼らに政治権力を持たせるべきです」

 トッドが言うように、現在の日本のコロナ対策を見ていると、老人の健康を守るために社会や若者や、ひいては日本経済に多大な犠牲強いているとしか思えない。まさに老人支配国家である。厚労省の統計によれば、コロナ前の例年、毎年インフルエンザに1000万人感染し、1万人以上死んでいる。感染者数も死者数もコロナより多い。その危険性はおそらく今のオミクロン株を上回っているだろう。そうであれば、現在のコロナに対する「濃厚接触者への外出自粛要請」、「入院勧告、強制入院」、「就業制限」、無症状者への適用」、「交通制限」などと言うむちゃくちゃな法的措置は必要ないのではないか。インフル並みにすべきではないのか。これと同等な無茶をやっている国は中国ぐらいのものだろう。中国は典型的な老人支配の国で、それが引き起こした人口減少でやがて滅びる運命にある。トッドもそう言っている。悪名高い一人っ子政策は、自分たちの取り分を減らしたくない老人達がやったものなのだ。

 トッドはこのインタビューの中で、日本に対して核武装を強く奨めている。以前からの彼の持論であるのだが、これも傾聴に値する意見である。

 「日本は同盟国アメリカの演劇的軍事行動に巻き込まれるリスクが高まっています。安全保障に日米同盟が不可欠だとしても、米国に盲従する必要はありません。核の不均衡は地政学的な不均衡を招きます。広島長崎の悲劇は米国が唯一の核保有国だったときに起きました。中国と北朝鮮が核を保有し、米国も同盟国として信頼に欠けるとすれば、日本に唯一残された選択肢は核保有しかありません。「米国の核の傘」はフィクションに過ぎません。使用するリスクが最大である核兵器は、原理的に自国防衛にしか使えないからです。アメリカが日本防衛のために核兵器を使うことはあり得ません。自国フランスは核兵器を保持していますが、攻撃的なナショナリズム表明でも、パワーゲームの中での力の誇示でもありません。核は戦争を不可能にするもので、パワーゲームの埒外に自分を置くことに過ぎません。」

 これは通常言われる核の相互確証破壊(MAD)を指しており、世界常識の一つです。大いに同感、大いに賛成です。核兵器は神社でもらうお守りのお札で、使うものではありません。神棚に飾っておくだけでいいのです。だから憲法9条違反にもなりません。お守りのお札は戦力ではないのだから。

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