伝蔵荘日誌

【伝蔵荘日誌】2021年12月13日: 日本の大問題、少子化と対中国 T.G.

 今日のフェースブックにMaさんが「今の米中の対立は、日本は対岸の火事ではない。国のスタンスが、外交が、経済の強さが関わる複雑な安全保障の高まりを、我々はどう捉えるか。」と問題提起しておられる。それに対して「今の日本の大問題は少子化と対中国の二つですね。それ以外は小さい話。この二つを誤ると日本が滅びます。」とコメントを返した。

 中国が増長し始めたのは10年前のオバマ時代である。経済成長で日本を追い越した中国が、当時のオバマ政権に太平洋を米中で東西に二分する2G論を持ちかける。オバマはにわかには乗らなかったが、部下のライス補佐官に講演で、米中両国の「新大国関係」構築への意欲を明らかにし、米中の二大大国で世界を仕切るG2論を容認する考えを示唆させている。独裁者習近平の野望に秋波を送ったに等しい。これに味を占めた習近平は、南沙諸島の埋め立てと国土化を実行に移すようになる。それに対してオバマアメリカは戦略的忍耐と称してなにもせず、なすがままにさせた。アメリカの歴史上、最低の大統領と言っていい。今では九段線と称して南シナ海のほとんどを中国が実効支配しているが、もはやアメリカは手も足も出せない。さすがのアメリカもたまりかねて動き出し、バイデン政権が民主主義をテーマに中国囲い込み作戦に踏み切ったが、すでに時遅し。その程度のことで今の中国は痛くも痒くもない。世界の中国支配に向けて着々と手を打っている。日本もその対象国の一つだ。

 それに対して日本の反応、動きは鈍い。特に親中派の岸田政権は何も手を打とうとしない。バイデンが新疆ウイグル地区の人権問題を盾に北京オリンピックの外交的ボイコットを呼びかけているが、「日本の国益を見て考える」などと煮え切らない。どう考えても中国対応の国益と言ったら商売しかないだろう。独裁国家と商売抜きの国益や価値観が一致するわけがない。商売に差し支えることはしたくないと言っているのと同じだ。これでは中国対応に苦慮している諸外国には説得力がない。方針を示さず顔色をうかがうばかりでは日本の信用を失う。そのことを岸田はどう考えているのか。首相は国家指導者であり、金儲けしか念頭にない経団連会長とは違うのだ。

 戦前、日露戦争勝利で得た権益を元に満州国を創った日本は、満蒙は日本の生命線と称して諸外国の妬みや批判を一顧だにしなかった。挙げ句の果てに国連を脱退した。満州に多額の投資をしておいしい商売にしていた財界も政府の満蒙方針を煽った。それが後々日米開戦の原因の一つになった。日本軍はハルノートで要求された中国、満州からの無条件撤退を蹴って真珠湾に殴り込んだが、財界が先頭に立って軍部に対し日米開戦を煽ったに等しい。

 日本企業はすでに中国に多大な投資をしている。対中国で批判的な姿勢を示すと商売に差し支える。輸出入も減る。中国ほどの商売相手はほかにいないから止めるわけにはいかない。戦前の満蒙と同じく、経済的な中国依存が日本の生命線になっている。日本の財界や産業界や、それが生み出す国家財政が人質に取られている。それが岸田に「国益を見て考える」と言わせているのだろう。まるで戦前の「満蒙は日本の生命線」と同じで、デジャブを見ているようだ。

 前任者の安倍はそこを頑張って、少しでも日本の独自外交を示そうと日米豪印のクアッドを創り、開かれたインド太平洋構想を世界に知らしめた。それで外交のバランスをとった。それと同程度の知恵も出せず、単純に中国依存を日本の生命線扱いしていたら、戦前と同じようにやがて日本は滅びるだろう。戦前、日本の満州権益を妬んで日本イジメをしたアメリカも正義とは言えないが、それが外交というものだ。国際外交に正義は要らない。今後アメリカは対中国戦略であれこれ自分勝手な注文を出し、日本に押しつけ、中国はそれに対して自分勝手に対抗するだろうが、それに日本が振り回され、いつまで経っても確たる態度と講堂を示せなければ、日本は相手にされず滅びるだろう。

 かってヨーロッパ戦線でイギリス軍はダンケルクに追い詰められた。首相チャーチルは、あくまで抗戦か、屈服して和戦か、二つに一つの選択を迫られる。抗戦すれば20万の兵士がドーバー海峡に沈められる。かねてからドイツとの融和を主張する政敵のチェンバレンの意に沿って和戦すれば、講和条件としてイギリスはドイツの信託統治を受け入れざるを得なくなるだろう。ヒットラーはそうなった場合の国王の扱いなど、条件すら示したと言われる。追い詰められたチャーチルは、議会の猛反対を振り切って断固徹底抗戦を決断した。その的確な政治判断が現在のイギリス存続に繋がっている。状況のきわどさは別として、今の岸田が置かれた立場は当時のチャーチルに似ている。岸田にその自覚があるかどうか。自覚した上で「国益に沿った判断」を言っているのか、大いに疑問だ。習近平は21世紀のヒットラーなのだ。歴史を振り返れば、懸命のダンケルク撤退作戦が成功して、結果として20万の兵士は失われなかったのだが、それはまた別の話である。

 今後巨大化した中国と付き合うには、商売に限った話だけでは済まない。国家権益にかかわるいろいろな要求を出してくるだろう。そのことは一帯一路などの、極めて乱暴で侵略的な外交戦略を見れば分かる。日本が投下した巨額の対中投資は、何があっても日本には持ち帰ることは出来ない。進出にあたり、中国に都合いいそういう契約条件を飲まされている。その結果、いくら無法で阿漕なことをされても逆らえないのは、10年前の反日暴動を見ればよく分かる。工場、商店焼き討ちなど、あれほど法理に背いた理不尽なことをされても、トヨタやパナソニックやヨーカドーはとうとう中国から撤退出来ず、いまだに中国に取り込まれている。独裁国家中国は、国際秩序やルールに沿って共存共栄出来る相手ではないのだ。日本人は身に沁みてそれを知るべきだ。

 もう一つの少子化は、それ以上に難しく、より深刻な問題である。今の状態を放置したら、50年後に日本が世界地図から消えている可能性大である。COP26で2050年までにCO2排出ゼロ、カーボンフリーなんて呑気なことを言っている場合ではない。おそらく岸田は何も考えていないだろう。意味のない給付金や子ども手当騒ぎを見ていれば分かる。その頃まで生きながらえて、無残な日本の姿を見ることがないのが唯一の救いではあるが。

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