伝蔵荘日誌

【伝蔵荘日誌】2021年11月2日: 立憲民主共産党の大失敗 T.G.

 元ドイツ首相、ヘルムート・コールは1982年から98年まで、東西ドイツの統合を挟んで16年間ドイツの首相を務めた大政治家である。前半は西ドイツの首相であった。政治に打ち込むあまり選挙活動をしなかったので、いつの選挙でも比例代表でやっとこさ当選できたというから面白い。比例当選を軽んじる日本の政治世界とは大分違う。日本では比例当選の首相などまずあり得ない。選挙活動に精力を費やしていては、肝心の政治でいい仕事は出来ない。その比例当選の大首相がやり遂げた最大の仕事が東西ドイツの統一であった。

 今回の選挙で自民党の甘利幹事長が選挙区で落選した。かろうじて比例で復活当選したが、立憲民主と朝日新聞が野党共闘の最大の成果だと喜んでいる。自民党の中でも責任論が起きていて、幹事長を辞任するらしい。どちらも見当違いというか、大間違いである。甘利氏はコールに似ていて元々選挙に強くない。選挙区では常に接戦だった。野党票が立憲、共産に分散されたのでかろうじて勝っていたが、過去には負けたこともある。今回は野党共闘で共産党が候補者を引っ込めたので負けた。野党共闘の結果ではあるが、それによって甘利氏の得票数が減ったわけではない。得票数は前回と変わっていないのだ。

 甘利氏については前々からその政治力を大いに買っていた。その業績の一例がTTPである。国内に巻き上がるTTP反対論、アメリカの造反などに悩まされながら、担当大臣として孤軍奮闘、熾烈な外交交渉をまとめ上げた。その政治力量、国際感覚は見事としか言い様がない。TTPはいまではイギリス、中国、台湾などが加入を求めるようになり、国際的価値が大いに高まっている。政治家甘利の最大の功績と言っていい。これに匹敵する外交成果は、最近では首相安倍がまとめ上げた「自由で開かれたインド太平洋構想」と、その成果である日米豪印のクアッドぐらいである。今回の甘利の敗因に、政治と金の問題が取り沙汰されている。経済再生担当大臣時代に大臣室で業者から50万円を受け取った疑惑である。甘利氏はあれこれ反論しているが、火のないところに煙は立たない。多少のことはあったに違いない。

 東西ドイツ統一後、統一のマイナス面が一挙にドイツを襲う。疲弊した東ドイツ経済の穴を埋めるため経済力の大幅ダウン、大量の失業者発生などである。その結果コール率いるキリスト教民主同盟は総選挙で敗れ、野に下る。コール自身は政治資金スキャンダルで政界から永久追放されるが、彼は最後まで疑惑資金の使途を明かさなかった。統一工作の一環で、ゴルバチョフの懐柔資金に使ったのでないかと言う憶測があるが、あながち的外れではないだろう。ドイツ統一のような一世一代の大仕事が、清廉潔白だけの政治家に出来るわけがないのだ。甘利氏程度の金銭疑惑は大した問題ではない。政治家は清濁併せ呑む仕事で、仏様のような清廉潔白では政治は出来ない。疑惑のマイナスより、政治家としての彼の力量と成果が大幅に上回っている。今回の甘利氏の得票数は前回と変わっていない。敗因は共産票が立憲票に積み上がったからで、金銭疑惑が原因ではない。

 今回の選挙では、立憲民主と共産党の野党共闘が功を奏し、自民党惨敗、過半数維持出来ず、政権交代の気運が高まるともっぱらの前評判だったが、蓋を開けてみたら、自民大健闘、立憲共産党の惨敗と、その正反対の結果に終わった。マスコミの世論調査のいい加減さをあらためて知らされた。自民の獲得議席数161は選挙前より15減っているが、依然として安定的に国会運営ができる「絶対安定多数」である。事前予想の過半数割れに較べれば30議席も多い。大勝利と言ってよい。15減ったのは今までの議席数が多すぎたのだ。幹事長として党員の選挙区を飛び回り、自分は落選しても党を勝利に導いた甘利氏は、辞任する必要などさらさらない。

 それに較べて立憲民主、共産党はお粗末だ。獲得議席数は、立憲−14、共産−2と、選挙前より16も減らしている。あえて共産との共闘という、悪魔に魂を売るような禁じ手まで使った選挙戦略としては、大失敗と言っていい。にもかかわらず、枝野と朝日新聞朝刊の見出しは「野党共闘は一定の成果を上げた」と言い張っている。増やすための戦略で結果減ったのだから、「一定の成果」であるわけがない。いくら何でも強弁に過ぎる。党首の枝野はともかくとして、朝日新聞がそういうヨイショ報道をするのはおかしい。まるで政党の機関誌で、ジャーナリズム失格である。立憲民主が最近の共産党の融和路線に騙されて自滅したとしか言い様がない。これではいつまでたっても政権政党にはなれない。立憲民主共産党戦略の大失態と言わざるを得ない。

 テレビの若いコメンテーターが、最近の若者は共産党に違和感がない。普通のリベラル政党と思っている。だから今回の野党共闘がうまく行かなくても、次の選挙では効果を発揮するだろうという。確かに今頃の若者は共産主義の血塗られた歴史を知らない。共産主義の意味も分からない。この100年、世界中に共産主義の嵐が吹き荒れ、各地に悲劇が巻き起こり、1億近い人間が虐殺された歴史を知らない。文科省が歴史教育を怠ったからだ。その歴史を知らない若者達も、共産党のいかがわしさ、胡散臭さを肌で感じているのだろう。それが今回の立憲民主共産党戦略がうまく行かなかった原因だろう。枝野は目を覚ますべきだ。

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