伝蔵荘日誌

【伝蔵荘日誌】2021年10月12日: フェースブックとジャズ T.G.

 友人に勧められてフェースブックを始めた。年寄りの暇つぶしである。ページを開くと、おまえも何か書けと要求される。そう言われても人様に読ませるような気が利いた文章がそうそう書けるわけがない。思いついて趣味のジャズの話を書くことにした。こんな独りよがりの話に他人が興味を持つわけがない。日誌と同じ自己満足である。そう思いついて、これを伝蔵荘日誌にまとめて載せることにした。日誌の手抜きである。最近は手抜きが多い。
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【10月7日】 現役の頃、会社帰りに秋葉原で途中下車し、石丸電気にCDを買いに行きました。何気なく手に取った廉価版ジャズCDを衝動買いし、家に帰って聴いたら、その中にレイ・ブライアントのGolden Earrings(黄金の耳飾り)が入っていいました。ステレオ録音が始まる前の1957年に収録された演奏で、バランスも音質も決してよくない音源でしたが、ビートのきいたベースに乗せてブライアントのピアノが奏でる4ビートの即興演奏がまさしくジャズ。題名の Golden Earrings は古い東欧の民謡だそうですが、最初に日本人好みの哀切な短調のメロディーを繰り返した後、ややテンポをおいて即興演奏に移る。この切り返しのスリリングさがたまらない。実に新鮮な感じで、それまで聞いていた音楽とはまったく違いました。

 それまではクラシック音楽一辺倒で、モーツアルト、バッハ、ヘンデルしか聴きませんでしたが、これを聴いていっぺんにジャズにのめり込みました。今では聴く音楽の半分以上がジャズです。レイ・ブライアントはジャズピアニストとしては一流とは言えませんが、小生にとっていわばジャズを教えてくれた神様、恩人です。まだ仕事をしていた頃、アメリカ出張の飛行機で偶然レイ・ブライアントと乗り合わせました。青山のブルーノートにでも来日していたのでしょう。よほどサインを貰いに行こうかと思いましたが、いい歳をしてサインでもあるまいと思いとどまりました。その後しばらくして亡くなったと聞き、いささか後悔しました。

【10月8日】 久し振りに古いCDを引っ張り出して、バド・パウエルのDear Old Stockholm(懐かしのストックホルム)を聴きました。Dear Old Stockholmはジャズのスタンダードナンバーの一つで、大好きな曲です。過去多くのジャズプレーヤーが演奏していますが、その中のベストワンはなんと言ってもバド・パウエルのピアノトリオ演奏でしょう。ジャズ好きなら誰でも知っている超有名演奏です。

 バド・パウエルはチャーリー・パーカー、ディジー・ガレスピーと並ぶビバップジャズの創始者、モダンジャズピアノの神様です。当時のジャズミュージシャンの例に漏れず、晩年はドラッグとアルコール中毒に苦しみました。彼のDear Old Stockholm>はその頃パリで録音された古典的名演奏で、薬物の影響か時々ピアノの指がもつれたりするのはご愛敬ですが、いかにもパウエルらしいメリハリのきいたピアノタッチであることは変わりません。時々引っ張り出して楽しんでいます。まあ聴いて見て下され。

【10月9日】 好きなジャズの名曲に「The Old Country」があります。日本語訳したらさしずめ「故郷」だろうと思っていたら、まったく違う。Old Countryの正しい意味、ニュアンスは、「移民にとっての祖国、故国」なんだと。そうとは知らなかった。アメリカ人ならさしずめイギリス、ヨーロッパ、アフリカを指すのでしょうね。今頃はベトナム、アフガンも入るのかな。こういう訳ありのニュアンスは、皇紀2600年、万世一系の日本人には分かりません。それはさておき、The Old Countryはいろいろなジャズミュージシャンが演奏していますが、お気に入りは Nat Adderley Quintetの演奏です。 ナット・アダレイはトランペット奏者で、有名なアルトサックス奏者、キャノンポール・アダレイの弟です。兄弟そろって一流のジャズミュージシャンとは才能があるのでしょうね。ナット・アダレイの抑えめで渋いトランペットの音色を堪能して下さい。 ナット・アダレイ The Old Country

【10月10日】 夭折したジャズミュージシャンにかかわるジャズの名曲が幾つかあります。代表作はベルギーの名ギタリスト、ジャンゴ・ラインハルトを偲んで、MJQのジョン・ルイスが作曲したジャンゴ(Django)、モダンジャズ初期にディジー・ガレスピー、チャーリー・パーカー等と共演したトランペット奏者、クリフォード・ブラウンの追悼曲、アイ・リメンバー・クリフォード(I Remember Clifford)の2曲でしょう。今ではジャズのスタンダードナンバーになっています。

 MJQ((Modern Jazz Quartet)は1952年に結成された黒人カルテットで、ピアノのジョン・ルイス、ビブラフォンのミルト・ジャクソンが傑出しています。4人全員がブラックタイにブラックスーツをビシッと決め込んで演奏するスタイルは、ファンキーが売り物のジャズでは珍しい。バッハを思わせるような端正な演奏もそれに輪をかけています。事実、ジョン・ルイスは平均律クラビーアなど、幾つかのバッハ名曲をジャズ演奏しています。その名ピアニスト、ジョン・ルイスが作曲し、MJQが演奏したジャンゴです。 Django(東京青山のブルーノートでの演奏)

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