伝蔵荘日誌

【伝蔵荘日誌】2021年9月11日: 排尿障害の切り札・漢方薬安固丹 GP生

 先月末、膀胱ガン6ヶ月点検のため慈恵医大病院泌尿器科を訪れた。一週間前、放射線科での定期検診前に、尿の生検、胸部と腹部のCT検査を行っている。生検は尿中のガン細胞の有無を調べる検査で、培養のため結果は一週間を要する。膀胱ガン定期検査の主役は尿道から挿入する膀胱内視鏡検査である。膀胱内の目視と映像により、CTでは発見できない微細なガンを見つけ出す切り札的検査である。手術も切除器具の付いた内視鏡によって行った。

 この膀胱内視鏡検査については、以前この日誌にも書いたことがある。器具の挿入時、言葉では表現できない苦痛を伴う検査である。検査前に尿道に麻酔処理を行うが、かなり太い内視鏡による圧迫痛にはさすが我慢が出来ず、挿入完了までうめき声を押さえる事が出来ない。今回も覚悟を決め、検査台に腰をかけ両足を開いた。所が内視鏡が途中から奥に入らない何時もの現象が生じた。尿道の一部が狭窄していて内視鏡の挿入を妨げるためだ。普通、尿道は弾力性を有している。尿道だけでなくこれに接する組織も弾力を有しているため、通常であれば多少の苦痛が有っても、あっという間に挿入は完結する。主治医は緊急を要する検査ではないので、無理はせず中断した。生検とCT検査で異常が認められなかったからだ。

 内視鏡の挿入が出来なかったのは尿道だけでなく、周囲の組織が弾力性を失い硬化しているためだ。部位は膀胱の出口周辺である。このあたりの尿道は、前立腺の内部を通過している。前立腺ガンの放射線治療時、この部分の組織も放射線に晒され、組織が変質したと思われる。通常の放射線治療である外部照射では、このようなことは生じない。照射時に放射線が周囲の臓器に影響を与えるのを防ぐため、強い放射線は使用せず、照射回数を増すことでガンを消滅する手法であるからだ。このため前立腺ガンが再発し易いのも事実である。

 自分の受けた治療は、前立腺に20本の中空針を刺し、内部に強力な放射線物質を30分近く循環させる最新の治療である。都合2回行っている。お陰で先月の定期検査で放射線科の主治医から「ほぼ完治」のお墨付きを貰った。この強力な放射線は、がん細胞を殲滅すると同時に、前立腺と膀胱の前立腺接触部に大きな影響を与えた。この部分の組織が変質し、硬化し弾力性を失ったと思われる。更にその後、膀胱ガン発症により手術を行っている。膀胱全体も弾力性を失っているのだ。

 これらが原因で起こる障害は頻尿である。治療後、一日20回を超えるトイレ行きが生じた。家庭内で種々の対策が功を奏し、トイレ行きの安定化にこぎ着けた。しかし、さらなる排尿障害が発症した。尿漏れである。尿意を催さなくとも自然に尿が漏れてしまうのだ。尿意を催した瞬間は、即、尿が激しく漏れ出してくる。対策は紙パンツを履くしかなかった。紙パンツは高価であるため、専用紙パッドを使用してパンツの寿命を延ばした。

 ところが今年の春頃から就寝中の尿漏れが激しくなった。半年ごとの膀胱内視鏡検査も影響しているのかもしれない。半年前の検査では、内視鏡が入らず特殊な器具を使って無理に尿道を拡大している。加齢も後押しをしているのだろう。尿意があれば夜間のトイレ行きとなるが、自然に漏れてしまい、朝にはひどい状態になっているのだ。就寝中、尿意を催さないため、目覚める事無く漏れてしまう。使用している専用パッドは排尿2回分の吸収力である。これでは間に合わなくなり、夜間用の4回分パッドを購入して対処した。

 頻尿は漢方薬・杞菊地黄丸で対処している。尿漏れ用漢方薬は、寡聞にして知らない。そこで腎機能維持のため毎週通っている中医鍼灸師に相談をした。腎機能維持のために服用している冠元顆粒や亀鹿仙は、全てこの中医鍼灸師の処方である。この結果腎機能を表すクレアチニン値が低下したことは、以前の日誌にも書いた通りである。「尿漏れの漢方薬はありませんか?」との鍼灸師への問いかけは、半分ダメ元であった。ところが有ったのだ。しかも、最近発売された漢方薬である。日本でも尿漏れに悩む患者が多くなったのだろう。取り寄せてくれるとの答えであった。それが安固丹である。正式には星火安固丹と呼ばれている。中国では以前から使用されている漢方薬だそうだ。有効成分は10種類の生薬である。

 一瓶180粒、朝と就寝前に6錠ずつの服用であるから一瓶は半月分である。7月半ばから服用を始めた。漢方薬は医師が処方する薬と異なり、即効性はない。漢方薬の成分である生薬が発揮するメカニズムは判らない。時間をかけて身体の何かを変えていくのだろう。長期服用を行わなければ結果は得られない。経験から効果を感じるのは2,3ヶ月先である。今回も同じ想いで安固丹の服用を始めた。

 アレと思ったのは、服用して4週間が過ぎた頃だ。一日のトイレ行きの回数が増えだしたのだ。夜間も突然目覚め、何となくトイレに行きたい気分になった。明確な尿意は感じなかったがトイレではかなりの排尿量である。安固丹は就寝直前にも服用している。目覚めるのは就寝後、3,4時間を経過した頃であった。最近では、いくらか尿意を覚えて目覚めることも多くなった。安固丹服用以前は、就寝中のトイレ行きは月2,3日であったのが、先月は17日を数えた。当然就寝中の尿漏れは激減した。夜間用パッドも不要になり、就寝前にパッドを交換する事も無くなった。

 この変化が安固丹の服用がもたらしたことは間違いない。膀胱出口と前立腺の変質は漢方薬といえども治療不可能である。何が尿漏れを減少させたのだろう。考えられるのは排尿の自覚である。膀胱に尿がたまると脳に信号が発せられ、脳から排尿指令が下り排出が行われると聞いている。膀胱が信号を発しない限り、排尿意識は生じない。そのまま膀胱に尿がたまれば自然オーバーしてしまう。途中の尿道は半開きだ。これが夜間の激しい尿漏れの原因と推察した。

 安固丹は尿漏れそのものを止めるのではなく、衰えた膀胱機能を活性化させたのだろう。中医鍼灸師に推測を伝えると、「安固丹は膀胱機能を正常化する働きがある」との事であった。膀胱過敏症と言われる症状がある。少し尿が貯まるとすぐ尿意を催すのだ。これが頻尿の原因である。杞菊地黄丸は膀胱過敏症に効果がある漢方薬だ。安固丹は地黄丸と共に膀胱機能正常化のため働いてくれたのだ。それでも少量の自然尿漏れは起きる。膀胱出口と尿道弾力性の低下で如何ともしがたい。この程度の尿漏れは我慢できる範疇だ。

 最近は以前より起床時間が1〜2時間延びている。2回、3回の夜間トイレ行きは睡眠不足の要因になるが、安固丹服用後は、トイレ行きの後熟睡出来るためだ。メリハリのある就寝は安固丹のお陰である。加齢が進行するにつれ、身体異常は避けられない。歳だと諦めてしまう事無く、どうすれば良いかと模索する姿勢が解決をもたらしてくれた。生きている限り、自分の身体と真正面から向き合い、全ての細胞を使い切ったとき、あの世に戻るのが最高の幸せであると考えている。悔いの無い余生を過ごす努力だけは、惜しまないで居たいと思っている。

目次に戻る