伝蔵荘日誌

2021年8月23日: 愛犬ナナ新たなる発症・そして・・・ GP生

 先月の半ば頃からナナに下痢が続いた。下痢は今まで何回も起きていたが、今回は下痢止を打っても、何時もより効きが悪かった。下痢を起こす前から、ナナの食欲にムラが生じ食べる時は夢中で食べ、翌日は餌から顔を背けるのだ。今年の春過ぎから、それまでのドッグフードは全く食べなくなってしまった。空腹状態でも鼻も付けないのだ。犬用品店に行くとシニア犬用の餌やおやつは多種多様である。シニア犬用牛乳や液体栄養食まで売っている。此れ等を買い込み、日々の餌に変化を付ける努力を続けた。

 7月の初め頃から、老犬専用食にも顔を背け始めた。試しに残り物のウインナーソーセージを与えてみると夢中で食べ始めた。ソーセージには犬には好ましくない塩分の含有量が多い。そこで特別な犬の餌を販売している店に出かけ、塩分ゼロの犬専用ソーセージを何種類か買ってきた。所がこれには見向きもしないのだ。口を付けるか付けないかは、どうやら匂いで判断しているようだ。その日の体調により好みが変化していた。

 下痢が長く続くので、掛かり付けの獣医は血液検査を行った。その結果、腎機能障害が発覚した。貧血状態でもあった。恐らく徐々に進行していたのだろう。直接の治療法はなく、ビタミンと数種類の生理物質を皮下へ注射する関節療法である。60ccの注射計4本である。人であれば静脈への点滴であるが、犬の場合、背中への皮下注射である。注入された液はすぐに腹部に下がり、そこから吸収されるそうだ。昔、飼っていたシーズー犬が同じように腎臓障害を起こし、皮下注射を3ヶ月半毎日行い、命を長らえさせた。腎臓障害を起こした犬の寿命は長くはない。ナナは残された最後の愛犬である。できるだけの事はする覚悟である。

 毎日240tの水分を体内に注入するため、家では水を飲むことは少なくなった。排尿機能をチェックするため、ナナのトイレを定期的に点検している。トイレには排尿の跡が残る。ここの跡が一定の数以上あれば排尿は安定していることになる。犬は同じ箇所には決して排尿しない。ナナは濡れていない場所を探し、トイレ内の匂いを嗅ぎながら乾いた場所を探すのだ。

 ナナの歯は10本程度しかない。犬の歯は42本と言われているが、ナナはそれよりも少なかったと思われる。昨年多くの歯がグラグラになり、入院して獣医師に抜歯して貰った。なんと17本である。この時残りは11本、その後自然に抜け落ちた可能性があるため、今は10本前後と推察している。この歯では餌がまともに噛めない。噛めないだけでなく、餌を咥えることが困難になったのだ。餌を細かくカットして食器に入れるようになった。犬用の缶詰は、いくら細かくしても食べなくなった。歯の不自由なナナは舌ですくって食べるため、ベタベタした餌は食べられなくなっていたのだ。

 餌は乾いた小さいものしか食べなくなった。パンも生のままは苦手で、トーストしたものを好んだ。ビスケットは、物によっては匂いを嗅いだだけで顔を背けてしまった。那須に行った時、お土産に買ってきた専門店のラスクは喜んで食べても、街で売っているラスクには目もくれない。匂いの違いで判断しているようだ。鰹節も好物になった。舌ですくって食べやすいのだろう。唯、何れだけ飲み込めたかは判らない。食後、水を飲んだとき、水入れの中に沢山の鰹節が浮いているからだ。口内に張り付いてしまうのだろう。肉類では牛肉の薄切りを薄醤油で少し味を付けた物は喜んで食べた。砕いた麩やポテトチップ、薩摩芋も時々食べてくれた。唯、食欲に大きな波があった。切り落としハムは顔を背けても、ボンレスには目がない贅沢犬でもある。

 朝一番に皮下注射をすると午前中は寝ており、午後にトイレに行ってから餌場に向かうパターンが定常化した。台所に家人がいるとその前でお座りし、黙って家人を見つめているのだ。何かが欲しいとのサインである。この時でも、気に入った食べ物は口に入れるが、しからざる時は顔を背けてしまう。そんな日々が続いた8月9日、獣医師の診察中に薄黄色の下り物が診察台に流れ出した。獣医師の顔色が変わり、直ぐにエコー検査を始めた。

 ドロドロの液は子宮からの分泌物で、子宮蓄膿症の疑いが高いと言われた。犬は何尾もの子犬を一度に出産する。この胎児を宿す部分は。子宮の左右に伸びている。子宮蓄膿症はこの部分が炎症を起こし、膿が貯まる病だそうだ。治療法は子宮摘手術しか無い。今のナナには出来ない相談である。体力が著しく低下しているからだ。食か細くなってから久しい。ヘモグロビンが減少して貧血も続いている。まともな食事がとれなくなった弊害である。抗生剤の注射を行ったが、効果は限られている。炎症を起こしている部位が部位である。抗生剤が炎症場所には僅かしか届かないからだ。それでも打たないよりましである。栄養剤と抗生剤の皮下注射が始まった。

 獣医師によればナナの食欲不振は腎臓障害よりも子宮蓄膿症の影響の方が大きいとの事であった。いずれも徐々に進行していたのだろう。ナナは7歳ぐらいまでは何の問題も無かった。シーズー犬の平均寿命は13歳から15歳と言われている。チャコは15歳8ヶ月で急逝した。ナナは8歳を過ぎる頃から皮膚が赤く腫れる皮膚アレルギーを発症し、抗アレルギー薬の服用を始めた。所が10歳を過ぎた頃、悪性リンパ腫を発症した。獣医大病院で抗ガン剤治療を続け、半年後に完治した。抗がん剤の注射は獣医大病院へ定期的に通い、平行して抗アレルギー薬を家で服用した。完治に伴い抗アレルギー薬の服用が止まると、皮膚アレルギーは以前にも増して激しく発症した。抗アレルギー薬の過剰摂取による反動である。

 ナナはアレルギー体質であるようだ。口内粘膜も皮膚の一種であり、当然アレルギーも発症していた筈だ。歯がグラグラになり抜け落ちたのもアレルギーが根本原因ではないかと推測している。下痢をしやすい体質も同じ要因であろう。大病、難病に耐えてきたナナに二つの病が同時に発症した。

 食欲不振は子宮蓄膿症毒の影響が大きいそうだ。更に、腎機能が衰えによる尿毒である。8月半ば頃から食欲の波が大きくなり、全く食さない日も生じた。昨日はポテトチップ僅か3枚である。それでも排尿のたびにトイレに出かけるのだ。栄養不良と貧血のためふらふらと歩き。食べる時も両前足は大の字に開き、まともなお座りが出来なくなってしまった。前足に力が入らず踏ん張れないのだ。食べないことによる体力低下と貧血のダブルパンチである。今日のナナは何も口に入れていない。

 旧盆の休診日にも、獣医師にお願いして皮下注射を打って貰った。今日も日曜であるが、朝一番に手当てをして貰った。「まだ皮下注射は出来るが、いつまで効果があるかは判らない。呼吸が早くなり、心拍数も多くなっている。心臓に負担がかかり、突然死も避けられない。吐き気はないが、吐き気が生じたら終わりが近くなる。ナナは心臓、肺機能が高く生命力が旺盛だから命を保っている」とは獣医師の説明である。今朝6時に起床したら、ナナが玄関に座っていた。玄関は死んだチャコが何時も寝ていた場所である。時々、ナナはフラフラする足で玄関に来て、チャコを探しているようだ。チャコが死んで1ヶ月近くになる。まるでチャコの後を追っているように思えた。

 ダックス犬ショコラもシーズー犬チャコも前触れも無く急死した。いずれも平均寿命を超えていた。愛犬が死ぬことは辛く悲しいことであるが、突然死は諦めがつきやすい。心臓や肺だけでなく、ナナは気性も強い犬である。生きる意欲が他の二匹に比べ強いのだろう。ナナは自分が犬屋で一目惚れしたシーズーである。どんなに手が掛かろうと、ナナが生きる意欲を失わない限り、手当は続けるつもりだ。13歳6ヶ月になるナナの命が尽きるのは、目前であろう。朝起きた時、息をしているか寝床をのぞき込むのが習慣になってしまった。その日が来る事は覚悟している。年寄りの長患いは家族に迷惑をかける。自分も病を得たら、ショコラやチャコのように有りたいと思っている。

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