伝蔵荘日誌

2021年8月18日: 末期高齢者の定期ガン検診 GP生

 治療後のガン定期検診のため、慈恵医大病院に出かけた。前立腺ガンの放射線治療が終了してから既に7年半、腎盂ガンの腎臓摘出手術終えてから既に3年が経過した。しばらくは3ヶ月おきの検診が続き、それが6ヶ月に延び、昨年より1年間隔となった。術後の安定が続いたためで、患者にとって喜ばしいことである。今回も血液検査、尿検そしてCT検査を行った。血液検査のポイントはPSAとクレアニチン、尿検は細胞診である。細胞診は結果が出るまで1週間を要する。来週は膀胱ガンの内視鏡検査が待っている。

 前立腺ガンは進行するにつれPSA値は上昇する。ガンだけでなく、加齢の進行につれて肥大した前立腺でもPSA 値は少しずつ上昇し始める。4.0以下であれば問題なしと診断されるが、オーバーすれば要注意である。肥大でも10近くまで上がる場合もあるようで、この前後の値を示すと、前立腺に10本以上の針を刺し細胞を採取してガンの有無を確認することになる。20以上の場合は、PSAだけで間違いなくガンと宣告される。自分の場合48であったから文句なしだった。定期検査ではこのPSAの変化が安定化しているか、上昇するかが分かれ道となる。治療後のPSA値が2.0を超えれば再発である。

 放射線治療後、2年間ホルモン療法を続けた。前立腺ガンは男性ホルモンなしでは増殖も活動もできないため、この間PSA値は0である。ホルモン療法終了後、男性ホルモンが復活するにつれPSA値は徐々に上昇し始めた。半年後0.04,1年後0.09に上昇し、2年後に0.17まで上昇した。2.0までにはまだ余裕があっても、細胞検査をしない限りガンの有無は判らない。再発の可能性はゼロではないのだ。幸いこれがピークで、その後は緩やかな低下を続けた。そして今回の値は0.06であった。放射線科の主治医は「ほぼ完治」と明言してくれた。治療開始後、定期検診は10年間継続し、その間再発がなければ完治宣言となると言われていたが、2年半早い完治宣言であった。それでも残りの期間に何が起こるか判らないいのが人体である。

 前立腺より遙かに心配な臓器が腎臓である。腎臓は肝臓と同様、沈黙の臓器だ。気が付いたときは手遅れとの例も多いようだ。自分の場合、突然排尿時に出血し、検査の結果左腎臓の腎盂部に発ガンしたと判明した。初期のガンであり、他部への転移もなく腎臓摘出手術で対処できた。問題は治療後である。残りの腎臓で2個分の働きが求められる。腎臓が過負荷に陥る可能性があるからだ。泌尿器科の主治医は、一つでも最大70パーセントの働きをすると話してくれたが、残り30パーセントが問題なのだ。

 腎機能を表すマーカーは、クレアニチン値と尿素窒素の値である。これらが上昇すれば腎機能が衰えていることになる。特にクレアニチン値は重要である。この値が7.0をオーバーすれば人工透析に一直線であるからだ。腎機能の低下を放置すれば、老廃物が体内に蓄積し、短い間に命を失うことになる。人工透析は全身の血液を抜き出し処理し、老廃物を抜き取って体内に戻す操作で、いわば人工腎臓の役割を果たしている。通常週3回、一回に4,5時間はかかる治療だ。

 透析を行った日は勿論、翌日も通常生活は無理である。食事も窒素制限のため肉や魚類はコントロールが必要で、野菜も調理前に何時間か水につけカリウムを除去することになる。窒素とカリウムの除去は腎臓の大きな役割であるが、腎機能不全になれば、これらの成分は人体に不可欠であっても、過剰摂取は老廃物が増加につながるからだ。水分も制限される。排尿機能が衰えていると摂取水分は体内、特に血液中に溜まり、透析時に人体へ負担増になるためである。透析が終わったとき、コップ一杯の水を少しずつ旨そうに飲んでいた父の姿が目に浮かぶ。

 6年間に及んだ亡き父の透析生活を間近に見て、本人だけでなく家族に多大な負担をかける人工透析だけは御免との思いを強く持っていた。所が、その自分が腎臓一つで生きなければならない状況に置かれてしまった。主治医は内視鏡手術で見事な腕を発揮してくれた。しかし、術後の生活管理は全て患者の責任であり、現代医学では対処の方法が無いのだ。

 治療後、始めたのが赤外線治療器による下腹部の加温と下肢を暖めることにより、血液循環を向上せる試みであった。その後、就寝中に遠赤外線マットによる加温を試みた。手術後1年が過ぎた頃、縁あって優秀な中医鍼灸師の治療を受けることになった。漢方薬を主体にし、週一回の腎機能活性化と血流促進の鍼灸治療である。漢方薬は血流を良くする還元顆粒、腎機能を活性化する亀鹿仙、そして排尿を改善する地黄丸である。還元顆粒の説明を受けたとき、貰ったパンフレットにクレアにチンが7.0をオーバーした患者が、還元顆粒を服用した結果、人工透析を免れた症例が幾つか書かれていた。心強い内容であった。血流が腎機能改善の要であったのだ。水分の排出機能が衰えた腎臓は、下肢や顔にむくみをもたらし、周囲からボケ顔などと言われることになる。

 腎臓摘出後のクレアにチン値は1.33であった。基準値上限が1.07であるから24パーセント増である。その後増減を繰り返し、1年後1.36となり、その後緩やかに低下を続け、今回の値はなんと1.26であった。上限値の18%オーバーである。1.3台を保ってくれれば御の字と思っていたが、なんと低下したのだ。信じられない思いであった。漢方薬と鍼灸治療の成果である。食生活もどちらかと言えば高タンパク食である。そのためか尿素窒素値は少し高めであった。推定糸球体濾過量上限値を10%オーバーしていた。主治医はギリギリセーフとの診断であった。還元顆粒の副効果として血圧が著しく低下した。血流は健康の基礎であると思い知った。

 前立腺ガン治療終了後から、毎日排尿状態を記録してきた。就寝時前の排尿時間、就寝中の排尿時間、そして起床時の排尿時間を記録し、後は24時間の排尿回数および特記事項の記入である。温熱療法や漢方薬や鍼灸治療により、排尿に変化が生じているのがよく理解できた。2ヶ月前から服用を始めた安固丹は、尿漏れの特効薬として最近販売された漢方薬である。最近夜間の尿漏れが減少し、排尿にけじめがついてきた感じである。

 加齢の進行により、末期高齢者の身体事情や代謝は変化してくる。老化により、衰えが進行しているといった方が良いだろう。老化の進行を止めることはできなくとも、遅らせることは可能と信じている。偶然の機会により、60代に学んだ分子栄養学は食生活に変化をもたらし、健康維持に貢献してくれた。三回にわたる泌尿器系のガン治療に耐え、良い方向に進んでいるのも、分子栄養学の知見のお陰と思っている。昨年、ピロリ菌による胃の出血に伴う極度の貧血からも、時間は要したが回復した。末期高齢者といえども健康責任は自身にあることを実感している。残された余生がどうなるか想像外であるにしても、健康管理に対する努力は生きている限りである。

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