伝蔵荘日誌

【伝蔵荘日誌】 2021年7月19日 老犬チャコとの意思疎通 GP生

 犬は人と共に歳をとる。犬の寿命は大型犬は短く、小型種は長い傾向がある。昔、飼っていたゴールデンリトリバーは肝臓病で12年8ヶ月の生涯をを終えた。我が家の最長犬はシーズ犬のチャコである。今年9月で16才を迎える。人で言えば後期高齢者であろう。チャコの事は、5月の日誌に書いたばかりである。その後暫くして、そのチャコが全く歩けなくなってしまった。後ろ足の関節が異常をきたし、立つことすら出来なくなった。人で言えば車椅子生活であろう。

 犬達の日常は、朝夕の食事、大小の排泄、定期的な水飲み、後は睡眠である。外出はトリミングと獣医通いのみである。若い時は部屋の中を歩き回っていたが、歳をとるにつれ寝ているときが多くなった。チャコは自力で身体を横たえることも出来なくなって仕舞った。死に物狂いの努力で、自力で身体を起こしている。何れそれすら出来なくなるだろう。歩行がおぼつかなくなり始めた頃、犬専用オムツを着け始めた。トイレで中腰が出来ず、腰を排泄の中に落とし込んでしまうためだ。オムツ交換の時、排泄口周辺から尾の付け根にかけてアルコールテッシュで周囲を拭いている。

 食事の時は餌入れまで連れて行き、座らさなければならない。食後は必ず水を飲むので、隣の水場に移してあげる。最初は食事や水飲みの際、身体の後ろを支え、健康時と同じ姿勢を保つようにしていた。これではこちらが堪らない。食器や水入れに下駄を履かせ、チャコがお座り状態で食べられる様、工夫を凝らした。チャコは食後必ず排尿をするので、オムツを交換して一件落着である。

 チャコは小さい時から温和しい犬で、自己主張は全くしなかった。吠えとは全く無縁であった。ただ嬉しいときはグーグーと喉を鳴らし、悦びを表現していた。チャコは死んだダックスの様にベタベタする事は無く、他の犬達より常に一歩後ろに座り、何かを求めるときは真ん丸い眼でじっと見つめていた。我が家では人気No.1も宜なるかなである。自己主張が極めい強いシーズ犬ナナとは真逆の性格である。

 そのチャコが歩行困難になり、自力で何も出来なくなってから、次第に性格が変わってきた。何かを求める時、突然大声でわめき始めるのだ。小声の時は猫が鳴くような声を発し、大声を発するときは、当に赤子の泣き声である。当初は何を求めているのか判らなかった。食事は朝8時と夕方5時と決まっているので、食事の要求は行わない。

 チャコの好みの寝室は玄関の一角である。暑がりのチャコにはここが快適なのだろう。先日の真夜中、チャコの大声にたたき起こされた。何事かと思い玄関に行くと玄関の土間でチャコがもがいていた。土間のタイルは冷ややかであるので、這っていって下に落ち寝たのは良いが、今度は登れなくなり騒いだのだ。土間から抱き起こし専用寝床に寝かせてから暫くして、また大声に起こされた。何を要求しているのか判らず、取りあえず水呑場へ連れて行くと勢い良く飲み始めたのだ。騒ぎすぎて喉が渇いたのかも知れない。飲み終わってから暫くして、自分の見つめている。オムツを確認すると濡れていた。オムツ交換後、玄関の寝床に連れて行くと朝までグッスリであった。

 経験を重ねるとチャコの鳴き声と状況から、何を求めているのかが判るようになった。最近チャコもオムツ生活に慣れてきたようだ。オムツが尿で汚れると小さな声でミャーミャーと泣き、排便で身体をずらすこともままならないと時は、ギャーギャーと声が大きくなる。オムツを着けるときも協力的になった感がある。チャコは食事の後は必ず水を飲む。元気な頃は、その後トイレに直行したものだ。オムツに慣れて来てから、食事の後トイレに向かって身体をずらす仕草を始めた。長年の習慣を身体が覚えているのだろう。

 犬も生存のため、身体不自由の生活に慣れてくるようだ。最近は曲がったまま全く動かない後ろ足を引きずって目的の場所に移動し始めた。見ていても痛々しい姿である。玄関の寝床から水呑場までは距離がある。水呑場に向かって歩き始めても、途中の僅かな段差が超えられず、立ち往生狩ることになる。その時チャコは、小さな鳴き声をあげるのだ。チャコは横になった状態から身体を起こし座ることは出来ても、その逆の動作は出来ない。何時までも座り続けている。たまたま座っているチャコに目をやると丸い目で見つめられる。何時までも見つめ続けるのだ。身体を横にしてお腹をさするとグーグーと悦びの声を上げ続ける。横にしてくれと眼が訴えていたのだ。

 脚が不自由になりたてのチャコは、元気が無く食欲も落ちてきた。寿命も長くはないのではと心配もした。犬は食欲が落ちたら永い事はないのは、何回も経験している。食べている内は大丈夫なのだ。チャコの食欲を増すため、今までの専用食にふりかけを加えたり、他の犬食を混ぜたり工夫をしてきた。老犬用餌の豊富さは驚くばかりである。犬の専門店に行かずとも大型スーパーで手に入る。全て国産品である。ロイヤルカナンとかサイエンスダイエット等の有名メーカー品はともかく、メイドイン○○的な餌は目にすることは無い。犬を愛する飼い主であれば、良品しか選択しないからだ。チャコが生活への順応し、食欲が戻ってきたことに安堵している。

 チャコとの試行錯誤の付き合いにより、最近ではチャコとの意思疎通が図れるようになった。チャコが大声で、ギャーギャー泣くことが少なくなった事に現れている。チャコも飼い主の行動を理解する様になってきたように思える。夜、突然起こされることも無くなった。就寝前の措置を行えば、チャコは夜間も安泰なのた。これもチャコとの意思疎通の結果であろう。

 犬屋で並ぶ犬は生後2,3ヶ月、可愛い盛りである。犬も10歳を過ぎると中年になり、仕草も小さい頃と違いが出て来る。病気もするし、次第に手かが掛かるようになってくる。老犬になれば尚更である。その頃に犬達は家族の一員として無くてはならない存在となっている。一切手が掛からなかったチャコも要介護犬になって仕舞った。それでも気持と意思が通じ合うことは、喜びでもある。愛おしさが増してくるのを感じる。

 一緒に生活するシーズー犬ナナもダックス犬ショコラが元気な内は、チャコと疎遠であった。お互いに近づかないのだ。それがショコラが居なくなってから、二匹の距離が次第に近づき、二匹並んでお座りしておやつを待つようになった。動けないチャコをナナの側に座らせると二匹とも何時までも座り続け、微笑ましい姿を見せてくれる。ナナも一頃の食欲不振から回復した。シーズの寿命は16,7歳である。今は少しでも永く生きて欲しいと願っている。

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