伝蔵荘日誌

【伝蔵荘日誌】 2021年7月11日 末期高齢者の排尿障害再発 GP生

 平成25年に発症した前立腺ガンは、放射線治療と2年半に亘るホルモン療法の結果、現在完治に近づいている。定期検診も1年毎に延びた。昨年の検診で放射線科の主治医から、あと3年異常が無ければ完治と宣言された。それまで生きていればのことだが。発症から10年を経て完治宣告とは、ガンとは厄介な病である。前立腺ガンの増殖に男性ホルモンは不可欠であるから、男性ホルモンを止めることでガンを縮小させる事ができる。縮小したガンに放射線を照射するのが通常治療である。問題は何れも副作用を伴うことだ。

 男性ホルモンは生殖だけで無く、身体の代謝にも大きく影響を与えている。男性ホルモンを2年半止めたことにより、血液中の中性脂肪が増大した。400をオーバーしたこともある。ホルモン療法を止めても中性脂肪値は中々減少しなかった。後期高齢者となれば、産生は元に戻らないのだ。現在も基準値オーバーが続いている。放射線治療の副作用で最も大きいのは男性機能の喪失である。高齢者には不要になった機能であっても、中年期の男性にとっては深刻な問題となろう。

 長く悩まされるのは頻尿である。成人男性の排尿は一日6,7回と言われ、10回を超えれば頻尿と診断される。放射線治療後、20回を超える日が長く続いたのだ。これが数ヶ月継続し、次第に回数が減少したが、それでも14,5回であった。10回前後に落ち着くのに何年か要した。通常の放射線治療は外部照射である。患部に集中して照射しても、周囲への影響を避けるため、強力な放射線は使用出来ない。自分が受けた治療は、前立腺に20本の中空針を刺し、その中に放射性物質を20分以上循環させる最新の治療であった。局所への照射であるため、外部照射とは比較にならない放射線を照射された。従って、再発率は極めて低いと説明された。周辺臓器への影響は極めて小さくとも、前立腺のど真ん中に尿道が存在し、膀胱下部は前立腺に密着している。前立腺ガンは周辺部に分付するため、これらの部位への影響は避けられない。

 放射線に照射された尿道や膀胱下部、特に尿道との接続部は大きな影響を受けることになる。弾力を失い伸縮性に影響が出ている可能性は否定出来ない。膀胱の神経伝達機能にも影響しているのかも知れない。膀胱に少し尿が溜まると排尿したくなるのはその影響かも知れない。頻尿はトイレ行きの回数が増えるため、外出時はトイレの場所を常に意識していた。電車に乗る前と下車後はトイレ直行である。車の運転中は特に厄介で、我慢出来ず路上排尿をしたこともある。

 三年前の7月、腎盂ガンが発症し左腎臓摘出施術を行った。同じ年の12月、今度は膀胱ガンが発症し内視鏡手術により腫瘍摘出を行った。膀胱ガン治療後に新たな排尿障害が始まった。尿漏れである。尿意を催すこと無く、尿が漏れ出してくるのだ。就寝中の尿漏れは量が多いのが特徴である。前立腺に密着する膀胱出口の筋肉が放射線の影響により硬化したのに加え、膀胱内視鏡手術が何らかの影響を及ぼしたと考えられる。対策は唯ひとつ、紙パンツの着用である。毎日紙パンツを取り替えることになった。紙パンツの欠点は高価であることだ。暫くして尿取りバットの併用を始めた。

 排尿は膀胱に尿が溜まると膀胱内の神経を刺激し、脳から排尿指令が送られてくることで尿意を催される。前立腺ガンや膀胱ガンの治療に依り、膀胱が過敏症に陥っていることも考えられる。一つしか無い腎臓機能を高める対策を色々行ってきた。鍼灸治療、漢方薬、サプリ、赤外線温熱療法等である。これらの総合的効果により腎機能だけで無く、頻尿も改善され、一日10回を下回り、平均8回までになった。尿漏れ量も安定傾向であった。膀胱ガン治療後、排尿記録も喜ばしい数値を示し続けた。

 ところが先月末から排尿回数が一日10回を固える日が続き、尿漏れ量も大きくなってきた。特に夜間の排尿量が多く、紙パットが吸収仕切れない事もあった。対策は2枚並べてのセットとなる。鍼灸治療と漢方薬による治療効果は、腎臓機能を示すクレアニチン値が低下傾向を示していた。膀胱も柔軟性を増してきていた。排尿に勢いが出てきたことで裏付けられる。排尿回数の増加は、接種する水分量が増加している事と無関係では無い。問題は漏れる尿量が増加する原因である。これが分からない。老化の進行により膀胱筋肉、特に尿道周辺の筋肉が老化したと考えれば納得ではあるが。現実は、徐々にではなく突然に生じている。

 就寝中に漏れる量は排尿1回分以上である。尿意は全く催さない。睡眠が深ければを催しても感じ無いのかも知れない。現代医学では尿漏れを治療する手段はない。頻尿ですら治療法は無いのだ。先日、お世話になっている中医鍼灸師に相談したところ、最近発売になった尿漏れの漢方薬があると聞き、取り寄せて貰った。星火安固丹(せいかあんこたん)と呼ばれる薬である。9種類の薬草が主成分で、これらは全て中国産である。中医鍼灸師の話では、この漢方薬は膀胱の筋肉の柔軟性を増すことで尿漏れを防ぐ効果があるとのことであった。朝と就寝前に各6錠服用で、まずは1ヶ月様子を見ようと言うことになった。このような漢方薬が発売される事は、尿漏れに悩む人が増加しているのだろう。

 現在4種類の漢方薬を飲んでいる。腎機能改善の主役はこれらの薬であり、鍼灸治療は脇役と言って良いだろう。星火安固丹はもう一方の主役として登場した。腎機能改善の漢方薬は1年9ヶ月飲み続け、結果は明白である。漢方薬は即効性は無く、継続が命である。星火安固丹の効果を実感できるのは何時頃になるだろう。

 人は加齢の進行につれ、固有の弱点が現れてくる。老後に問題を生じない身体の保有者は希である。自分の知る限り、羽鳥湖仙人唯一人である。身体は両親の遺伝子の合作である以上、どちらかの特性が顕著になり、親の弱点も遺伝することになる。自分の母は肉体上の弱点は極めて少ない女性であった。自分の身体の基本は母親からの遺伝が強く、体型、顔形は間違い無く母の遺伝である。色白で細面、すらっとした体型、当時のハンサムボーイの典型であった父には、自分を含め兄弟は誰一人似ていない。自分が父親似であれば、人生は変わっていたかも知れない。

 ところが父の唯一の弱点が腎臓であった。73才で人工透析が始まり、80才を目前として心不全で逝去した。4年間のシベリア抑留にもめげず、帰国後も家族のために身を粉にして働き、病気一つしなかった父が腎臓機能を失ったのだ。50歳後半に急性腎炎で入院したのは、予兆であったのだ。自分は父の弱点を遺伝してる事に間違いは無い。70才を過ぎてから、三回のガンは全て泌尿器である。幸いなことに、偶然が重なり早期発見につながり、幸運と思われる人との縁により、優れた医師達の治療を受けた。目に見えない力に守られているとの想いが強い。

 ガンの治療は全て終え、今は定期検診を続けている。腎臓を除き他は肉体生存に大きな影響を及ぼすことはない。これも両親から頑健な躰を受け継いだお陰である。頻尿と尿漏れは生活に影響を及ぼしていても、致命的な問題ではない。トイレ行きと紙パンツ+パッドの交換で済むことで、日常生活に差し障りがでることはない。星火安固丹の効果を楽しみにしている。末期高齢期を迎え、排尿障害程度での悩みは贅沢の内に入るだろう。病を克服し今を生きることが出来るのは、両親の優れた遺伝子のお陰である。お盆を迎え、両親には感謝の気持ちで、仏壇前で手を合わせている。

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