伝蔵荘日誌

【伝蔵荘日誌】 2021年5月20日 コロナワクチン T.G

 高齢者のコロナワクチン接種が始まっている。東京、神奈川の友人達からワクチン接種の予約が取れたと知らせが届いているのに、我が市はいつまで経っても何の連絡もない。じりじりしていたら、遅ればせながらやっと届いた。早速ネット予約したら、あっけなく近くのかかり付け医の予約が取れた。5月25日の第一回接種である。二回目はもう一度予約が必要である。

 日本のコロナワクチン接種は海外に較べてまったく進んでいない。一回以上接種した人の割合は今日現在わずか4%。それに対してイギリス(55%)、チリ(49%)、アメリカ(48%)、カナダ(48%)、ドイツ(38%)、イタリア(33%)、フランス(31%)に大きく後れをとっている。韓国(8%)やインドネシア(6%)より低い。日本政府のコロナ対策の最大の失敗だろう。失敗というより不作為に近い。

 イギリスは一時コロナ最盛期に1日あたり6万人近い感染者を出していた。人口比で言えば日本の40倍に当たる壮絶な数字である。それが今ではその3%の2千人ペースに落ちている。最近の日本の感染者数とほぼ同等である。そのため飲食店の営業を通常通り再開し、マスク着用義務もやめた。国民は日常生活を取り戻せている。これはコロナワクチンの絶大な効果と言って過言でない。幾らロックダウンを繰り返しても収まらなかった感染者数が、ワクチンを打ちまくったら30分の1に激減した。ワクチンによる集団免疫そのものである。その激減した数字と今の日本の感染者数は人口比でほぼ同じである。そのことをブログに「さざ波」と書いた評論家の高橋洋一氏はマスコミの袋だたきに遭った。一種の社会的ヒステリーである。

 欧米はコロナ当初から緊急事態宣言よりはるかに強烈なロックダウンを繰り返した。にもかかわらず感染の勢いは止まらなかった。ワクチン接種率が上がったらやっと収まった。ワクチンの絶大な威力と言うほかない。そのおかげでイギリスもアメリカも経済活動を再開出来ている。GDPも上向いている。先進国でGDPがいまだに下向いているのは日本だけだ。これはひとえに政府の責任だろう。政府やマスコミは、緊急事態宣言が無意味で何の効果もないことに気づくべきである。主たるコロナ感染源は飲食店や飲酒ではないのだ。それなのに一向に飲食店イジメをやめようとしない。かって政府分科会の尾身会長自身が、「感染源が飲食店というエビデンスはない」と言っている。そう言う台詞を吐いた男がエビデンスなしの緊急事態宣言を提案し、政府に実行させる。こういう愚かな分科会はない方がいい。

 コロナ対応の初動を誤ったイギリスはジョンソン首相自らがコロナに感染し、苦しんだ。その批判を浴びたジョンソンは、まだコロナワクチンなど影も形もなかった昨年の4月に、コロナワクチン・タスクフォースを立ち上げる。政府の保健省内ではなく、外部の辣腕企業家をリーダに選び、各界各部門の専門家を集結したチームを作り、戦略を一任した。リーダに選任された女性企業家は、ジョンソンに対して「タスクフォースが出した結論を、政府が二日以内に決済すること」を条件に引き受けたという。戦略の迅速な実行がコロナ対策として最重要、かつ不可欠と考えたのだ。それが大いに寄与し、世界に先んじて昨年11月頃までに人口に倍するワクチン量を確保し、12月初めからの大規模接種開始が可能になった。

 日本では、民間のタスクフォースが出した結論に、政府がわずか二日で決済を下ろすことなどとても考えられない。最低でも2ヶ月は待たされるだろう。そもそもタスクフォースを役人の手が届かない外部組織にすることなどあり得ない。そんな馬鹿げたことは誰も考えないし、仮にアイデアが出ても、役人と族議員が寄って集って潰してしまうだろう。イギリスのタスクフォースは、まだワクチン開発中だった企業と濃密なやりとりをし、数万人必要な第3相認証試験の被験者をボランティアで集めて開発協力をしたという。そういうことの繰り返し努力で、必要量を集めることが出来たと言う。日本政府のワクチン戦略を担当した厚労省は、ファイザーなど欧米企業の出先の日本支社社員相手にワクチン買い付けの交渉をしただけである。そんなことで喉から手が出るような、世界中から引き手あまたのワクチンが手に入るわけがない。結局は必要量のワクチン確保が不透明なまま、ワクチン接種を始めなければならなかった。

 パンデミックは戦争と同レベルの国家危機である。同じ議会制民主主義の国でありながら、イギリスと日本は危機に際する戦略や対処の仕方がまったく違う。片方は国家指導者である首相自ら国民の先頭にたって陣頭指揮を執るが、他方は役人任せで自分ではなにもしない。その結果生まれる決断の遅さ、戦略の欠如で常に失敗している。そのことは歴史を見れば分かる。

 第二次世界大戦のダンケルクはイギリス最大の危機だった。ドイツ軍にフランス西部のダンケルクに追い詰められた数十万のイギリス軍兵士救出を巡って、首相のチャーチルと野党が議会で対立した。チャーチルの政敵でドイツに融和的なチェンバレンがヒットラーとの交渉を主張するが、チャーチルはそれを蹴って敢然と撤退作戦を実行し、成功させた。有名なダンケルクの戦いである。これがイギリス人の結束を生み、チャーチルの指導力の元、対ドイツの戦争に勝利した。あのときチェンバレンの言うままにヒトラーと交渉していたら、イギリスは交換条件としてドイツの信託統治を受けることになり、今のイギリスはなかっただろう。方や日本は、無為無策のままルーズベルトに追い詰められた近衛文麿が、首相の責を放り出し、陸軍大臣の東条英機に首相の座を譲った。東条英機は単なる軍人であって、政治家でも国家指導者でもない。そういう無能な男に唯々諾々と戦争指導を任せ、挙げ句に国を滅ぼした。

 今回のコロナがそれに似ている。コロナ初期の昨年5月、何の策も見いだせず、にっちもさっちもいかなくなった安部が首相の座を放り出し、菅に譲った。その頃イギリスはすでに戦略的なワクチン確保に動いていた。譲られた菅にはそういう力量などなく、役人と取り巻きの言うまま、緊急事態宣言だ、まん延防止等重点措置だと、字面は大袈裟だが根拠も中身も効果もない愚策を繰り返すだけ。ワクチンに至っては自らなにも手を打たず役人任せ。インドネシアや韓国にも後塵を拝する始末である。国家指導者としては最低、失格と言うほかない。今の日本がもう一度戦争をやったら、必ず負けるだろう。イギリスのように、危機に際して国家指導者が国民の先頭に立ち、陣頭指揮をとって戦う風土がない。

目次に戻る