伝蔵荘日誌

【伝蔵荘日誌】 2021年5月13日 老犬への老々介護 GP生

 我が家では現在、15歳半と13歳のメスのシーズー犬を飼っている。シースズー犬の寿命は永くて16歳から17歳であるから、共に老犬と言って良いだろう。シーズー犬は頭の良い犬が多い様だ。頭の良さはそれぞれの個性に強く表れてくる。犬は老化の進行により運動能力は衰えても、本来の個性が際立ってくる。人と同じなのかも知れない。犬達は二匹とも手が掛かるようになってきた。犬達だけでなく、飼い主達の老化も進行し、最近は当に老々介護である。

 15歳半のシーズー犬チャコは、若い時には全く手が掛からない犬であった。我が家に来て1年後に不妊手術を施した為、年2回の生理の処置は不要であった。素直な性格と賢さ、そしてまん丸い眼で人を見つめる仕草が特徴で、家庭内では人気ナンバーワンであった。嬉しい時やお客さんが来た時は、大喜びで部屋の中や玄関の外でクルクルと回ったものだ。トイレも1回で覚え、粗相はしたことは無かった。お座り、お手、お代わりも直ぐに覚え、食事の時も「待て」の一言で、「よし」の声を聞くまで、よだれを垂らしながら何時までも座り続けていた。

 そのチャコの行動が14歳頃から次第に乱れてきた。最初に現れたのがトイレである。粗相が増えてきたのだ。最近では、トイレの手前の床やカーペットに粗相をするようになった。カーペットでの排尿の始末は面倒である。犬のトイレ用デオシートで尿を完全に吸収させ、その後水を何回かかけ吸収を繰り返さなければならない。糞は台所がトイレになって仕舞った。朝夕二回の食事後にチャコは排尿をするのが習慣である。食事後トイレに行き、臭いを嗅ぎながらクルクルと回り出し、暫くすると排尿体勢にるのだ。昨年までは粗相はあったが、トイレにも足を向けていた。酷くなったのは眼の治療を行ってからだ。

 今年の2月初め、チャコの右目の目ヤニが激しくなった。掛かりつけの獣医の診断は眼球に傷が付いているためで、眼科専門医見て貰った方が良いと勧められた。早速車で専門医に連れて行き診察を受けた。眼の傷は大きく完治するには手術が早いが、高齢のため麻酔は命に関わる場合があり、抗生剤を1日3回、ドライアイ薬を3回投薬するように言われた。眼球の傷は自分の爪で引っ掻いて生じたと説明された。更なる引っ掻きを防ぐため、専用の透明シールドを首に巻かれた。このままでは食事も水飲みも不便になるため小さな台の上に食器をのせた。2週間投薬を続け、眼球の傷は幸い完治した。

 首のシールドをしている内に、トイレに行くのが面倒で、リビング全体がトイレになって仕舞った。シールドが外れ、再度トイレを教えたが元に戻る事は無かった。老化の進行により、学習能力が衰えていたのだ。今は犬用のオムツを着けている。食事が終わるとトイレに連れて行き、オムツを外して用を足し、終わればまた付ける日が続いている。オムツの締め付けをゆるめにし、糞をした時に重みで外れるようにした。お尻の汚れを防ぐためである。チャコの糞は大量である。

 最近、チャコは耳が遠くなった。名前を呼んでも顔を上げなくなったのだ。「チャコご飯だよ」とか「おやつだよ」とか声を掛けても、顔は全く動かなくなってしまった。おやつを与える時、「お座り」と声を掛けても立ったままだ。腰を押すとお座りをする。おやつを与え、「待て」と声を掛けても首を突っ込んで来る。食事時になり寝ているチャコに「チャコご飯だよ」と声を掛けてもピクリともしないので、黙って身体を動かすと、自分の食器の前に歩いてくる様になった。ボディタッチによるトーキングである。

 昨年末頃から、チャコの歩き方がぎこちなくなってきた。腰がフラフラし安定しないのだ。トイレの時も中腰が出来ず、尻が下がってしまう。後ろ足の関節が弱ってきたようだ。チャコは食欲旺盛で、いくら食べても下痢とは無縁である。歳をとっても食欲は衰えない。若い時に不妊手術をしたためか、ホルモンのバランスが崩れ太り気味である。カラダが重いことも脚の関節に負担を掛けたのかも知れない。7歳頃から、関節に良い栄養素が入った餌を食べさせてきたが、老化に追いつかれて仕舞った。歩けなくなったら人間なら車椅子だが、犬用の歩行器具を考えなければならない。クルクル回って喜ぶ姿は、もう見られない。

 13歳のシーズー犬ナナのことは、この日誌に何回か書いてきた。買い物帰りに立ち寄った犬屋で一目惚れした犬であるから、特別な思い入れが有る。ナナが特別な体質の犬であることが判ったのは、9歳を過ぎた頃からだ。皮膚アレルギーの持ち主で通常食では皮膚が赤くなり、加齢が進行するにつれ毛が抜け始めたのだ。餌を皮膚専用食に切り替えたが進行が少し遅らせただけである。3年前に悪性リンパ腫に罹り、抗ガン剤と併用してステロイド剤を半年投与した。この間皮膚の炎症は現れなかったが、治療終了後、皮膚の炎症は更に激しくなった。ステロイド剤を長期投与した結果である。現在はステロイド剤を1日おきに服用させている。それでも完治は無理である。

 治療後ナナの目ヤニが激しくなってきた。酷い時は眼全体が黄色い目ヤニで覆われてしまうのだ。原因はドライアイである。日本獣医生命科学大学の附属病院で診断を仰ぎ、犬専用目薬を処方して貰った。この薬により目ヤニは収まってきたが、一日3回の点薬が続いた。その後、人間用のドライアイ薬に切り替えた。効果は専門薬と同等であり、町の薬局で安く手に入るのが大きなメリットである。点眼薬と並行して食事にビタミンAとビタミンE、Cを加え始めた。人の眼球は紫外線から角膜を守るため、ビタミンAとCが多いことが知られている。犬の眼球にどの様に作用するか試してみた。所が2週間もしない内にナナの目ヤニが完全に消えてしまったのだ。ドライアイの点眼は不要になった。ナナは他の犬よりビタミンを多く必要とする体質なのだろう。

 人の消化器系の粘膜は外皮と同じ性質を有するそうだ。犬の場合も恐らく同じであろう。ナナは皮膚アレルギーを持っているから、胃腸にアレルギーがあるかは判らないにしても、働きが劣っていることは間違い無い。消化の悪い食べ物を口にしたときや、食べ過ぎたとき必ず下痢を起こすのだ。掛かりつけの獣医によれば犬の下痢には季節性があるそうだ。春先には一寸したことでよく下痢を起こしていた。ナナは現在、歯が11本しかない。1年前グラグラの歯16本を一度に抜いた。餌の食べ方がおかしいので、確認した結果である。成犬の歯は42本であるから、治療したとき既に15本も抜けていたのだ。その後、ナナの餌の選択に悩まされる事になった。

 チャコは餌を殆どかまず飲み込んでしまう。一度に飲み込みすぎて喉に引っかけ呼吸が出来ず、ひっくり返りバタバタする状態を何回も起こした。老化の結果である。現在はドライフーズをミキサーに掛け与えている。ナナは丁寧に噛むため11本の歯では噛めなくなり、餌を残すようになった。ミキサーにかけ粉状にすると噛めないため途中で辞めてしまう。栄養バランスと皮膚アレルギー、それに柔らかさを兼ねた餌を試行錯誤で与えている。最近では子供の偏食と同じような事を起こす様になった。気に入らなければ臭いを嗅で横を向いてしまうのだ。最近与えている柔らかい餌は、大きすぎるので食事前にカットしている。

 それでもナナは食べ過ぎれば下痢を起こす。通常は朝と夕方の二食であるが、ナナは朝、昼、3時、夕方、夜と5回に分けて与えている。胃腸に負担を与えないためだ。餌の種類は全て異なっている。食事の時間は極めて長い。11本の歯で丁寧に噛んでいるからだ。ナナの糞の状態は毎回チェックしている。糞の量と色、柔らかさが餌を選択する材料になるからだ。

 二匹ともこれから先、更に手が掛かるであろう。手をかけただけ愛おしさは増してくる。普段は寝ていても、食事時やおやつ時には起きてくる。時間が過ぎても貰えないときは、座って人の顔をじっと見つめている。早くしてと眼で訴えている。チャコとナナが居なくなっても、新たに犬を飼うことは出来ない。この二匹が生涯最後の犬である。犬への老々介護はこれからも続くであろう。更に手が掛かることは間違い無い。それでも二匹が家族の一員として、少しでも永く側に居て欲しいと願っている。

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