伝蔵荘日誌

【伝蔵荘日誌】 2021年1月16日 アポロ11号、人類初の月面着陸 T.G

 スカパーで放映されたアポロ11号のドキュメンタリー映画を見る。内容のすべてが当時の実写映像によるもので、作り物のロケシーンはない。スカパーの惹句によれば、「アポロ11号の月面着陸50周年記念で製作されたドキュメンタリー 。新たに発掘された未公開映像で歴史的瞬間を振り返る。1969年7月20日、アポロ11号が月面着陸を成功させた偉業から50周年を記念して製作されたドキュメンタリー。アメリカ国立公文書記録管理局とNASAの協力によって、新たに発掘された未公開映像と1万1000時間以上の音声データのみを用いて構成。その中でも、70mmフィルムで撮影された映像の美しさは圧倒的!緊張感あふれるノーカット映像によって、月面着陸の瞬間を観客が追体験できる点は最大の見どころ。 」と言う。

 1969年と言えば50年も昔のことだ。当時コンピュータ会社の入社5年目の新米社員で、東北大学の大型計算センターに採用された大型コンピュータの担当SEとして東北大に派遣されていた。月面着陸のライブ中継は、仕事をほったらかしてセンター事務室のテレビで職員と一緒に見た覚えがある。このライブ映像は世界中でに配信され、小生を含めて6億人が見ていたというが、着陸船船長のアームストロングがタラップを下りて月面に足を降ろす際、あの有名な「人間にとっては小さな一歩だが、人類にとって偉大な飛躍だ」と語りかけるシーンは今でもはっきり憶えている。ドキュメンタリーの最重要クライマックスシーンだが、当時はテレビの音声が悪く、よく聞こえなかった。正直に言うと、同時通訳がなかったので英語が聞き取れなかった。

 当時は仕事が忙しく、このシーン以外はテレビなど見る暇がなかった。フロリダのケネディ宇宙センターでのロケット打ち上げから、月面着陸して帰還するまでの期間がたった9日間だったことはこのドキュメンタリーで初めて知った。たった9日で38万キロ離れた月を往復したわけだが、人類史上初の快挙がごく短期間に行われたことに、今更ながら驚いた。話は違うが、日本中がほとんど見た東京オリンピックも、一度もテレビで見たことがない。当時入社1年目で、仕事のプログラミング作業が忙しく(当時の新入社員は即戦力だったのだ!)、毎晩会社の計算機センターに寝泊まりして徹夜残業をしていたので、テレビを見られなかったのだ。おかげで残業代が給料の3倍になった。(蛇足だが、今の若い人は仕事をしないで文句ばっかり言ってるね。月たった百時間の残業で自殺したりする!)

 ドキュメンタリーを見ていて今更ながら感心したことがもう一つある。月ロケットが地球周回軌道を離れて月への軌道に乗る際や、着陸船と司令船とのドッキング、司令船の地球への帰還など、ほとんどすべての運行制御が自動化されていたことだ。

 小惑星探査機ハヤブサなど、今では当たり前のことだが、1969年当時はろくなコンピュータも半導体技術もなかった。東北大の大型計算機センターに納入した我が社自慢の超大型コンピュータも、単に図体が大きいだけで、性能は今使っているたった6万円の自作パソコンより低かったのだ。そんな時代に、あれほど精密な自動化制御が出来ていたのは驚きである。地球帰還軌道に乗せるためのロケット噴射は、進行方向がほんのわずかずれただけで軌道を大きく外れてしまう。噴射のタイミングがほんのわずか違っただけで地球には帰れない。そんな精密なコントロールは手動では不可能、自動化するしかない。それがあの時代の、今に較べればはるかに貧弱なデジタル技術で可能にしていたことが驚きである。つい20年前まで、ロケットはおろか旧式プロペラ機の零戦やグラマンが飛び回っていた時代だったのだ。

 21世紀の今、当時と比べてロケット技術も、それを支えるIT技術もはるかに進歩している。コンピュータ性能も、当時はなかったインターネットも、IT技術の進歩は格段の差である。今の技術でアポロを作ったら、はるかに容易で高性能なものになるだろう。月旅行も夢ではない。しかしながらその進んだ最新技術の応用は、GAFAに代表されるグーグル検索やユーチューブや、フェイスブック、ツイッター、スマホなど、チマチマした世界に閉じこもっている。金儲け以外はせいぜいアメリカ大統領選挙に混乱を振りまくだけの、内向き技術にとどまっている。アポロの60年代のような夢が見られない。自閉症的で外の世界へ向かっての発展が見られない。なんとも情けない時代になったものだ。

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