伝蔵荘日誌

【伝蔵荘日誌】 2020年8月8日: シーズー犬ナナの健康管理 GP生

 シーズー犬ナナは、今老齢期の入り口に立っている。12年以上前、街道筋に面した昔からの犬屋に立ち寄った時、小さいシーズー犬が眼にとまった。抱き上げた時、魅力的な眼に魅了されてしまった。当時、5歳のダックスフンドと3歳のシーズー犬を飼っていたので、三匹目はとの思いに駆られたが、シーズー犬の魅力には勝てなかった。その場で、購入を決めたのがナナであった。

 当時から、ナナは自己主張が強い犬で、小さい身体で部屋の中を走り回り、好き勝手なことをしていた。何しろ生後2ヶ月半の幼犬である。他の犬達にじゃれ付くので、引っ込みがちで、気の弱いシーズー犬チャコは、ナナから逃げ回っていた。人に甘える事だけに長けた、お馬鹿犬ダックスフンドのショコラは、ナナの積極性に無抵抗であった。背中に乗られても、為されるがままであった。ナナとチャコはいつまで経っても打ち解けることが無く、この二匹の間をショコラが取り持っている感じであった。ナナは手の掛からない犬である。「お座り、お手、待て」等の躾は、覚えるのに時間が掛からなかった。トイレは一度の間違いもなかった。飼い主の言葉を理解するのも早かった。ショコラが何回も粗相を繰り返すのと大違いである。こうして、個性も性格も違う三匹の生活が始まった。

 犬にとって、健康の第一条件は餌にある。昔、家庭内の残飯が犬達の主食であった時代、皆短命であった。今は亡きシーズー犬ムックは、餌の好みが激しく、何回も餌を替え、最後は国産の餌に落ち着いた。ムックは最後に腎臓を患い、僅か9歳と8ヶ月でこの世を去った。頭の良い賢い犬であり、佳犬薄命の思いである。早死にの遠因は餌にあると考え、以降、餌は慎重に選択をし、三匹にはサイエンスダイエットPROを与えた。7歳を超えてから老犬用のPROに替えた。共に、栄養成分の材料と配合に優れた餌である。

 ナナの体調は、7歳ぐらいまでは問題が無かったが、それ以降、体毛の脱落が少しずつ始まった。胸や尾の脱毛が目立ち、抜け落ちた胸の皮膚は赤味を増していった。皮膚アレルギーを発症したようだ。獣医師はステロイド剤で抑えられると言うが、最後の手段である。常用は避けたかった。ナナの皮膚アレルギーは、生来の体質に依るもので、加齢の進行により発症したと考えた。通常、餌のタンパク源は四つ足動物である。これがアレルギー源ではないかと推測した。ロイヤルカナン製の病理用餌に、七面鳥の肉をタンパク源とした「スキンサポート」が有る。皮膚に問題のある犬専用食である。早速これに切り替えた。主成分以外にも、皮膚に良い栄養素が加えられていた。

 もう一つの対策は、ボディ・シャンプー剤の変更である。シーズー犬は体毛の伸び方が極めて早い犬である。手を加えないと目鼻が毛に埋もれてしまう。延びた毛の汚れも激しいのだ。夏場は、サマーカットで毛先を極端に短くしないと暑さで参ってしまう。シーズー犬は家庭内で飼いやすい性格の犬であるが、手が掛かる犬である事に間違いは無い。ナナはこのシャンプー後、皮膚が赤く腫れる様になった。犬用シャンプー剤によるアレルギー反応である。人用シャンプーでもアレルギーを発症した。行き着いた先が、オリーブ油を主成分とし、全てが天然由来の材料を使用した手作りのベビー用石けんである。これを使用すると皮膚の赤味が少し消えるのだ。トリミング屋さんにこの石けんを預け、10日毎シャンプーやカットを行って貰った。餌とシャンプーにより、皮膚アレルギーの進行は、暫く止めることが出来た。

 所が2年前の春に、悪性リンパ腫が発症した。関節部のリンパ管に発生したシコリは、次第に大きく成っていったのだ。白血球数は10万をオーバし、リンバ球数も9万を超えた。治療法は抗ガン剤の注射である。患部がリンパ管であるので、抗ガン剤の効果が期待できるとは納得であった。この時、定期的に注射する抗ガン剤の補助薬として、ステロイド剤を毎日食事に混ぜて服用させた。この結果、ナナの皮膚アレルギーは完全に姿を消したのだ。

 半年に及ぶ抗ガン剤治療により、ナナのリンパ腫は完治し、ステロイド剤の投与も終了した。ガン治療後、ナナの目つきが厳しくなり、以前の魅力的な眼から余裕が消えてしまった。雌犬は生きている限り、シーズンと呼ばれる生理現象が年2回生じるが、ナナは抗ガン剤治療後完全に止まってしまったのだ。目つきが替わったのは、女性ホルモンの停止も関係しているのかも知れない。人も犬も抗ガン剤の投与は、身体に大きな負担を掛ける治療法である。ナナは小さな身体で、過酷な治療に良く耐えてくれた。

 暫くして、ナナの皮膚アレルギーが、以前に増して激しく再発した。餌とシャンプーでコントロール出来るレベルを超えていた。ステロイド剤の長期投与による反動である。恐れていた事態であった。皮膚アレルギーは次第に全身に広がり、背中から脱毛が始まった。ナナが後ろ足で身体を掻くことが多くなり、その度に毛が抜け落ちた。獣医師に相談すると、副作用の少ない犬専用の抗アレルギー剤を勧めてくれた。新薬アポギル錠である。価格はステロイド剤よりかなり高価であるが、副作用が少ない事に賭けることにした。暫く、服用した結果、皮膚の赤味は幾らか薄くなっても、ナナが後ろ足で身体を掻く動作が止まることはなかった。そこで、ステロイド剤とアポギル錠を一日おきに投与することにした。この結果、脱毛は止まり背中の赤味は消えたが、胸の赤味が完全に消えることは無かった。この処方はナナが生きている限り、継続する事になるだろう。ステロイド剤の副作用に、どう対処するかが課題であった。

 10歳を過ぎる頃から、ナナは下痢を起こしやすくなった。人も犬も、胃や腸の内膜は外皮に相当する。皮膚に炎症を起こしやすい体質であれば、消化器系の内膜も同じであろう。ナナの胃腸内膜にも、似たようなトラブルが発症していると想像した。激しい下痢症状の場合は、獣医師による下痢止めと抗生剤の注射で完治するが、日々の胃腸管理が大切である。そこでビオフェルミン錠を、朝夕の食事に1錠ずつ加えることにした。ビタミンBの錠剤は、ステロイド剤を常用し始めた時から餌に加えている。ステロイド剤の副作用を少しでも緩和するため増量した。

 昨年、ナナは傷んだ歯を17本抜歯し、残りは11本しか残っていない。抜歯後の食事に苦労したことは、以前日誌に投稿した。6月から、ドライフーズ用ササミ振りかけの代わりに、柔らかい焼き芋を混ぜて食べさせいてる。各種錠剤を焼き芋で包むため、飲み残しが生じない上、焼き芋の植物繊維が腸の安定に期待しての献立である。更に、3月からビタミンCの錠剤を与えている。人に換算すると一日3,700r相当である。ビタミンCの過剰分は、尿と一緒に排出されるので弊害は一切無い。排尿の色を日々点検することで、ビタミンCの体内での利用状況をチェックしている。

 抗ガン剤の治療後、ナナは目やにが激しくなった。ドライアイが発症したようだ。抗ガン剤の副作用に拠るものなのか、または体質なのかは判らない。恐らく体質であろう。獣医師から犬用点眼薬が処方され、一時は目やには少なくなったが、時間の経過と共に効果は薄れてきた。そこでビタミンAやC配合の人用点眼薬や漢方系点眼薬、ドライアイ改善点眼薬等色々試したが、効果は今一であった。所が、7月頃から目やにの発生が少なくなってきたのだ。考えられる要因はビタミンCの投与である。人の眼にはビタミンAとCが集まっていることは知られている。眼を保護する人体の合目的作用である。犬の眼も同じ効果が発揮されたと推察した。そこで点眼薬を「涙と同じ成分を再現した」と謳うロートドライアイに替えた。一日3回の点眼であるが、目やにの発生は減少した。ビタミンCは、耳内部の炎症や皮膚のアレルギー抑制にも効果があるようだ。更に、耳内や皮膚から出る独特の悪臭が感じられなくなったのは、ビタミンCによる効果と思われる。

 最近、ナナは一頃より元気を取り戻した感がする。それまでは昼間も寝床で寝ていることが多く、外出から帰った時、玄関に出迎えることもも無くなった。所が最近、元気な頃と同じように、朝起こしに来るようになったのだ。早朝、ベッドの側に来て「起きろ起きろ」と吠えるのだ。起きるまで吠え続けている。早い時は、5時半頃起こされる。ベッドから出て新聞を玄関のポストに取りに行くと、嬉しそうに一緒に付いて来るのだ。淋しくて起こすのだろうが、満足したナナは自分の寝床に直行である。身勝手さは、若い時からナナの特質であった。とんでもない時間に起こされるのは、迷惑の極みであるが、病や体調不良を繰り返してきたナナが、復活してくれたことは喜びである。

 幾ら健康に留意しても小型犬の寿命は、15から17歳が限度である。加齢の進行につれ、多体調不良に悩まされてきたナナが、小型犬の平均寿命を全うできるか否かは判らない。今は元気を取り戻していても、突然急変するのがナナである。自分は、新たな犬を飼うことは出来ない歳になってしまった。ショコラ亡き後、急に親しさを増したナナとチャコが、共に行動する姿を何時まで楽しめるだろうか。

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