伝蔵荘日誌

【伝蔵荘日誌】 2020年7月24日: 高齢者の血管力は健康の源  GP生

 幼少期の冬、自分は祖母に抱かれて寝ていた。祖母は「おまえは暖かい、湯たんぽと同じだ」と言われた記憶が鮮明である。毎夜、祖母から「おまえは嫡男だ。跡取りだ」とささやかれたトラウマは、成人しても消えなかった。祖母は特別の思いで自分を可愛がってくれたのだろう。歳をとっても血行の良さは変わらず、冬の寒さには人一倍強かった。高齢期になっても、血行を意識することは無かった。

 6年前の前立腺ガン治療後に排尿障害が始まり、2年前の腎盂ガンと膀胱ガンの治療を行ってから排尿障害が更に酷くなった。この経過は日誌に何回か投稿している。昨年11月、腎経絡への鍼灸と漢方薬治療を始めた。初日、中医鍼灸師から「下肢と顔に浮腫が生じている事、踝の黒ずみ、腹部と下腹部、下肢の冷えが激しい」との指摘を受けた。原因は血行不良であった。それまで血行不良など考えた事が無かったから、愕然とした思いであった。

 高齢者は誰にでも血行不良が起こる事を思い知らされた。自分の場合、一つしか無い腎臓の機能低下は致命的となる。腎臓と膀胱機能が低下すれば、排尿障害が生じ、排出されない水分が浮腫を生じさせる。下肢の冷えも重なり、血行が悪化したと思われる。下肢が膀胱代わりとなったのだ。血流さえあば、腎臓も膀胱も冷えること無く正常に機能しただろう。全ての原因は血流の結滞であり、漢方で言う「お血」であった。血流が低下すれば冷えが生じ、冷えれば血流は更に結滞する悪循環は、血管力の低下にあったのだ。

 血流は血管力に依存している。血管力とは、血管が弾力性を保ち、血液がサラサラで流れ易い性質を維持する力である。血管力が衰えれば、血流は悪化する。酷くなれば血圧は上昇し、脳血管が破損すれば、命を落とすことにもなろう。祖父、祖母とも、終戦直後に相次いで死去している。何れも、血管力の低下による脳溢血であった。

 自分の排尿障害は、鍼灸治療や漢方薬、超短波治療器や遠赤外線治療器の積極的活用で、正常な高齢者のレベルまで改善された。下肢や下腹部の冷えは無くなり、下肢の浮腫も消え、歩行も楽になった。血管力が向上し、腎臓や膀胱機能が活性化した結果である。TG君は、毎日長時間の散歩を欠かすことはない。羽鳥湖仙人たるAt君は、晴れの日には山野を散策している。二人に血行障害は無縁であろう。高齢者は歩く事が少なくなると、血行が悪くなり、歩く事が苦痛になる。更に歩かなくなり、悪循環が始まる。血管力低下は、高齢者に静かに忍び寄っているのだ。

 前回の日誌に書いた様に、新コロナの影響で4ヶ月間スポーツジムから遠ざかっていた。ジムではプール前に血圧を測定し記録してきた。プール後の体重測定と合わせて、健康管理の基本としていたのだ。泌尿器ガンの治療前、上の血圧は120台、下は60台で安定した値であった。治療後血圧は次第に上昇し、3度の測定では初回、上が140台、3回目は130前後がパターンであった。所が7月初めに測定した所、初回値は上が122,3回目は何と108であった。目を疑う驚きの数字である。その後の測定でも、初回値は120台、3回目は110台、時々110以下であった。4ヶ月間鍼灸は休んだが、温熱療法と漢方薬服用は継続していた。何がここまで血圧を劇的に変化させたのだろう。

 思い当たる節が一つだけ有った。漢方薬の冠元顆粒である。この薬は昨年11月、鍼灸治療を始めた時から、朝食前に服用していた。冠元顆粒は血流を改善する漢方薬である。腎機能と血流は不可分の関係にあり、腎臓への血流を高めるのが目的であった。冠元顆粒は、人工透析を食い止める治療薬として期待されている漢方薬でもある。 自分は2月半ばから、冠元顆粒を朝夜2回の服用を始めた。冠元顆粒には、血中の中性脂肪を低下させる薬効がある。前立腺ガンのホルモン療法後、副作用の代謝異常により、血中の中性脂肪が大幅に増加した。治療終了後も、基準値越えが継続していた。期待を込めて、冠元顆粒の2回服用を始めた。冠元顆粒は、血圧を下げる働きも知られているが、昨年11月の服用開始時には考慮外であった。4が月近く服用を継続しても、血圧に変化は無かった。朝夕2回の服用を始めて直ぐにジムは閉館となり、この間血圧測定は行っていない。このブランクの間、増量された冠元顆粒が血管力を向上させたとしか思えないのだ。

 冠元顆粒や温熱療法の相乗効果で血圧が低下したのは、血管の弾力性が保たれていた事に起因する。血管への加温は、弾力低下を防ぐ有効な手段である。血管が硬化状態であれば、ここまでの効果は期待できなかったであろう。少量のアルコールは血流を促進し、血圧を低下させる働きがある。これは血管の弾力性が有る場合あり、硬化状態では逆効果となろう。血管力が維持される要因は、血管の栄養摂取である。祖父母の如く、戦中戦後に高齢者の脳溢血が多かったのは、栄養不足に起因している。飽食の現代でも、高齢者は血管栄養の摂取は必須である。

 血管は内皮細胞たる内膜、平滑筋細胞から成る中膜、そして弾性を有する外膜から構成されている。昔、大航海時代、航海中に多数の乗組員が壊血病に罹患したのは、野菜類が摂取出来ず、ビタミンC不足から外膜が破れた為である。外膜の主成分はタンパク質であり、ビタミンC無しに弾力構造が保てないからだ。血管の栄養摂取は、血管力維持の必要条件である。

 十分条件は、血液の質を高め、血管内膜を保護する事である。ドロドロの血液は、血圧を高め、サラサラは血圧を低下させる事は周知である。血中の中性脂肪やコレステロールが増加すれば、ドロドロの要因となる。更に中性脂肪は、HDLコレステロールを減少させ、LDLコレステロールを増加させる。内膜細胞や血中のLDLコレステロールが、活性酸素により酸化されれば、動脈硬化が発症する。呼吸により取り込まれた酸素が、エネルギー産生に利用される際、酸素の2%が酸化力の強い活性酸素に替わると言われている。高齢者の激しい運動が好ましくないのは、吸入酸素量が増えると同時に、発生する活性酸素量も増加するからだ。

 血液中の活性酸素を防ぐには、抗酸化物質の摂取が不可欠である。若い時は、自らの身体が抗酸化物質たるSODを大量に産生出来た。だから、激しい運動でも異状は生じ無かった。残念ながら高齢者の身体は昔と同じ能力は保ち得ないのだ。ならば、抗酸化物質たるビタミンEやC、アントシアニン等を含む食品を積極的に摂取する必要がある。ビタミンEには血流を促進する働きもある。冠元顆粒には6種類の生薬が含まれており、その内の一つ丹参(たんじん)には抗酸化作用がある。自分は長年、中性脂肪だけで無く、LDLも高値であるが、動脈硬化は生じていない。抗酸化物質を摂取しているからだと信じている。血流を促進し、抗酸化力を有する冠元顆粒は、強力な助っ人である。血圧まで下げてくれた。

 人は高齢化が進につれ、残念ながら代謝機能が退化することは避けられない。血管力も同じである。努力しても若い時の血管力に戻ることは無い。努力しなければ更に衰える事になる。血液は栄養物や酸素の補給、老廃物等の排出だけで無く、免疫物質やホルモンの循環に深く関わっている。血流が滞れば、身体の各所で異常が発生する。高齢者が健康な日常を過ごすためには、血管力を維持する事が必須なのだ。高齢者は、栄養に留意すると同時に、歩く事で下肢の血流を保つ事である。自らの努力が、血管力を高め、健康に繋がるのだ。鍼灸治療や漢方薬は、自らの努力が至らぬ場合の補助である。高齢者の血管力は健康の源であるのだ。

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