伝蔵荘日誌

【伝蔵荘日誌】 2020年7月14日: NTT、5G網でNECに6億円出資へ T.G

 「NTT、5G網で国内連合 NECに600億円出資へ」と言う6月24日付けの記事が日経新聞に載った。NECは元々富士通、沖電気と並ぶNTT御三家と呼ばれ、かっては売り上げの3分の1がNTT(旧日本電信電話公社)向けの電話通信網設備であった。それがいつの間にか消え去って、今では日本の電話通信設備のほとんどは外国製である。エリクソン、ノキア、ファーウエイなどの外国通信企業に席巻されている。NECの姿はない。それが復活するのだと言う。事情はともあれ、とりあえずNECOBとしてはめでたい限りである。早速会社同期のAk君にメールを書いた。

「Ak君:日経新聞に「NTT、5G網で国内連合 NECに600億円出資へ」という記事が載りました。これは久しぶりにいいニュースですね。NTTが5G通信網構築を国産勢で始める。その提携先がNEC。通信、電話はもともとNTT御三家のNECのお家芸だった。その復活。トランプのファーウエイ締め出しが功を奏した。 これで日本の通信業とNECが復活できるでしょう。 そのうち株価が上がるか。」

 Ak君からいつものように打てば響くような返事があった。

 「う〜ん、時期的に遅すぎます。喜んでばかりは居られません。5Gの基本特許、周辺特許は数千におよび、基本的な部分はファーウェイ他、外国勢(中国、アメリカ、EU)が握ってます。NECが製造技術が抜きん出ていると思いませんし、今から、5Gの新技術を開発するには遅すぎます。NTTがNEC機器を優先して購入する点はメリットですが、NTTが5Gの基本技術を多く持っていて相乗効果があるとも思いません。その上、キャリアは4社あり、昔の一社時代と違い、他の3社に売り込めるか?例えばソフトバンクは何処と提携するか等?単純ではありません。しかし、今となっては良い解決策はないのでこれで頑張ってほしいですね。」

 それに対して次のような返事を出した。

「言われるとおりですね。5Gも含めて日本の通信技術は後れをとりましたね。今ではNTTなどキャリアはNECや日本の技術、製品を当てにしていません。NTTも5Gはすっかりファーウエイを視野に入れています。NECなど眼中になかった。それがトランプの米中戦争で風向きが変わりました。もう日本を含めて欧米も5Gにファーウエイを使うわけにはいかなくなった。 NTTもソフトバンクも。もし使ったらアメリカから厳しい制裁に遭います。イギリスはファーウエイの5G導入を考えていたが、それをやめてノキアや我がNECなどとのコンソーシアムに切り替えた。あの中国びいきのドイツでさえファーウエイに距離を置き始めています。

 5Gで先行したファーウエイは世界中に5Gを売り込む作戦でしたが、もうそれは出来なくなった。アメリカから半導体技術をシャットアウトされたので、このままでは5G製品も作れなくなる。ファーウエイと言っても中身はその程度なのです。アメリカや日本の技術をパクり回ってやっているだけなのです。そうかといって、NECが急に大したことが出来るようにはなりませんが、少なくとも今までのように蚊帳の外ではなくなった。ファーウエイに全部持って行かれることはなくなった。頑張ればやがては西側コンソ-しアムの中でそこそこの注文はとれるようになるでしょう。せっかく千載一遇のチャンスが訪れたのだから、NECの若い人たちに頑張ってもらいたいものです。そういう期待を込めて。T.G.」

 しばらくしてAk君からこういう厳しい見方もあると、「対ファーウェイ国産5G連合で蘇る、日本メーカー中国携帯市場「惨敗」の記憶」 言う東京大学の丸山教授の記事が送られてきた。内容は、「電話通信事業で諸外国に後れを取った国内企業が、今更NTTと組んで何が出来るのか。国内だけで成長を遂げてきた企業が、発想や哲学の転換もなく、お互いの傷を舐め合うような資本提携で終わるようでは、未来はない」とケチョンケチョンである。早速Ak君にメールを送った。

 「Ak君。 現実問題としてNTT、NEC連合軍がファーウエイを凌駕する5G網を作れる公算は 今のところありません。この記事の言うとおりです。5G通信網は500m間隔で中継局を置かなければならない。4Gとは比較にならない膨大な設備投資が必要です。競争力の根源は技術でなくコストが命。NECは逆立ちしてもファーウエイと同じ低価格製品は作れない。この東大の先生の言うとおりです。
 でもね、これは責任のない評論家の意見ですね。今の世界情勢(特に米中関係)を度外視して、学者先生のうんちくを書いているだけです。こうやって、かっては日本の独壇場であった半導体技術や通信技術がみな中国、韓国に持て行かれてしまった。今頃武漢にたくさん滞在している日本人は金で引き抜かれた技術者ばかりです。NECのOBもたくさん行っていることでしょう。そうなってしまったことの反省は皆無です。東大の先生の言うことを聞いていると、日本は滅びます。

 自民党の一部と日本の経団連は親中国です。アメリカより中国に寄りかかって生きていきたい。その方が儲かるし楽だ。トランプなんかくそ食らえです。でもそれは永久には続く話ではないでしょう。中国なしでは生きていけなくなった日本は、やがて一国一制度の香港化します。アメリカがファーウエイを閉め出したのは日本にとって千載一遇のチャンスです。否が応でも自分で作らなければいけなくなった。多少コスト高でも今ならNTTも使ってくれる。他のキャリアも使わざるを得ない。アメリカが中国の封じ込め政策に転換したこの機会を逃してはいけない。頑張るときは今しかない。

 でも評論家の東大の先生はそういう風には考えない。中国にもたれかかっている方が安上がりで楽だ。日本製5Gなどさっさと諦めた方がいいと。日本の将来など眼中にない東大なんか必要ありません。さっさと潰した方が日本のためです。そういえば今回のコロナ騒動で東大の先生はまず顔を出さなかったですね。天下の東大の先生は汚れ役なんかしたくないのでしょう。」

 それに対してAk君から返事が来た。

 「 T.G.君。 だいぶお怒りの様子、お気持ちは解ります。現在の体たらくは何も東大の先生が悪いのではなく、原因の大きな一つは民主党政権時代、全世界が金融緩和で自国の経済をバックウップした時、日本のみ緊縮財政で円高が急進し、国内企業は生産拠点を海外に移さざるを得なくなった。生き残る為、中心が其処に集中し、生産技術の移転、技術の移転をやむなくされた点でしょう。移転先が中国が主体であった点が一層不幸、不運でした。
 アメリカが中国政策の過去の失敗に今頃気づき、180度方向転換し、そのおこぼれ(漁夫の利)で5G関連が注目を集めていますが、このチャンスを生かして成功させる為の施策が、現在の情勢を冷静に判断してこの程度(NEC+NTT、600億出資)で良いのか?十分なのか?  出来ればアメリカ同様、政府も含めて日本全体として対中国戦略を熟考し、その中で5Gに関する西側諸国としての日本の役割をポジショニングする必要があるのではないか。対中国政索の基本戦略が無い故に、その時々、人それぞれ、企業夫々、政策夫々、その場限りの対応に終始しやすくなります。5G対応も成り行き、その場限りの対応でなければ良いのですが?
 何れにしろ、基本は自己責任ですからNECも戦略をたて、設計、生産技術を磨き、マーケットを見間違えず、速度感(これが重要)をもって頑張ってほしいと思います。Ak」

 それに対して次のような返事を書いた。

 「 腹立ち紛れについ筆が滑りました。今の世界情勢の中、何事につけ日本のノー天気ぶりにはあきれ返っています。悪いのはNECやNTTだけでなく、日本の政財界がすべてそうです。政府が中国に強く出ようとすると、自民党二階派、経団連がこぞって反対に回る。中国市場を失うと日本は生きていけないと。習近平の国賓招致は大事だと。

 思い出しましたが、Ng氏が社長をやっていた頃、社長室で彼と話したことがあります。採算がとれない半導体事業とビッグローブ事業を売り飛ばすと言います。半導体なんか儲からない、台湾のファウンドリに任せておけばいいと。インターネットなんか金にならん屑事業だと。当時Ng社長はNECをITカンパニーにすると豪語していたので、驚いてそれはいかがなものかと忠言しましたが、聞き耳は持たず、実際にその通りになってしまいました。仕事がなくなったNECのエンジニアが大勢サムスンやファーウェイに引き抜かれました。それが今のサムスン、ファーウエイを作った。敵に塩を送ったようなものです。ビッグローブにいたIT技術者たちは今頃どこで何をやっているんでしょうか。そうやって日本のIT産業は勝手に転んで自壊しました。悪い種をまいたのは先見性を欠いたあの頃の日本の経営者たちですが、その責任は我にもあるでしょう。年寄りの愚痴でしょうか。

目次に戻る