伝蔵荘日誌

【伝蔵荘日誌】2020年5月9日: 新型コロナウィルスと高齢者の免疫力 GP生

 猖獗を極めた新型コロナウイルスも、我が国では収束の兆しが見えてきた。最大の感染地である東京でも、同じ傾向を見せているが、油断は禁物である。人は本来、細菌やウィルス感染から身を守る自然免疫力を持っている。新しい抗原に対しては、これに対抗すべく、新たな抗体を産生して対処する獲得免疫機能も有している。今回の新型コロナは悪性であり、世界中で感染者、死亡者が著しく増加しているが、日本の死亡率は極めて低い状態を保っている。感染者数は検査人数の大小によって異なっても、死者数は厳然たる事実である。何故これだけの違いが生じるのか、説得力のある知見はいまだ見られない。

 報道によれば、感染して重症化する割合と死亡者数は、60歳以上が圧倒的に多く、しかも男性割合が6割以上だそうだ。何故か女性の割合は少ない。時事通信は、「イタリアのガン専門誌が、男性ホルモンが症状悪化に関与している」と伝えていた。前立腺ガン患者は、ガン細胞の増殖を防ぐため、男性ホルモンを遮断する治療が行われている。前立腺ガンは、男性ホルモン無しには増殖できないからだ。所謂、ホルモン療法である。ホルモン療法を行っているガン患者は、感染率も重症化する割合も極めて低いとの報告である。女性の感染割合や重症化率が男性より低いのは納得である。自分も2年間に亘るホルモン療法終了後、未だ、男性ホルモンが完全に戻っていない。これも怪我の功名かも知れない。

 肺疾患や糖尿病、高血圧等、高齢者に多い病の持ち主が重症化している。歳と共に人の免疫力は低下するし、病にかかれば免疫力は更に低下する。ところが、免疫力が高いはずの若い人が発症して入院している。体力抜群のスポーツ選手の入院報道には驚かされる。同じ三密状態に属しても無感染者は存在するが、感染者との違いは不明である。

 人の免疫システムは複雑且つ精緻である。外敵が侵入すれば、自然免疫たる好中球、NK細胞、マクロファージが異物たる抗原に攻撃を加える。樹枝細胞は抗原情報をT細胞、B細胞に伝え、B細胞は抗原に対抗する抗体を産生する。活性化されたキラーT細胞も抗原の攻撃に参加する。これらの攻撃をコントロールするのが、サプレッサーと呼ばれるT細胞である。人体にとって未知の抗原を認知したとき、B細胞はこれに対抗する抗体を直に産生出来ない。学習時間が必要である。BCGを初めとするワクチンは、予め弱い病原菌を体内に入れ、抗体産生の準備をすることで、感染を防止する防疫手段である。

 BCG接種がコロナ感染と死亡率を低下させているとの説が流布されている。BCGは結核予防のワクチンであるが、単に結核防止だけで無く、免疫機能をアップさせることはよく知られている。この機能が、新コロナウィルス感染防止にどの様な関わりを持つのか、医学的知見は見聞していない。BCG接種をしていないアメリカやスペイン、イタリア、英国と、接種を行っていたポルトガルとの死亡率の差は歴然である。特に毒性が強いと言われる日本株を接種してきた国の死亡率は、極めて低いようだ。専門家はBCG効果の有無について明言を避けている。自分は昨年冬、膀胱ガン後治療のため、膀胱内にBCGを6回注入した。ガン再発防止の免疫療法である。新コロナウィルスに対して、BCG効果が期待できるのであれば幸いである。

 新コロナウィルスに感染した場合、重症化した途端、時間をおかず死に至る人が多いと聞いている。免疫の働きを高めるインターロイキン6というサイトカインが過剰に分泌され、免疫が正常臓器まで攻撃し、多臓器不全により死に至るそうだ。サイトカインストームと呼ばれる免疫暴走を抑えるため、自己免疫疾患である関節リュウマチ治療薬が治療に使われている。他の細菌やウィルスでは生じ無い免疫暴走が、新コロナウィルスで発症するのは何故なのだろう。

 先日、「新コロナウィルスはT細胞を選択的に攻撃破壊する」との記事を目にした。キラーT細胞が破壊されれば抗原攻撃力が低下するし、サプレッサーT細胞が破壊されれば、抗原攻撃のコントロール機能が麻痺する。その結果、サイトカインの産生をコントロール出来なくなるのかも知れない。しかし、新コロナに感染した人全てに、免疫暴走が起こる訳ではない。感染しても、ある人は無症状、ある人は重症化し、その一部が死に至る。入院患者の治療法は、未だ一般化されない中で、感染者の病状が著しく異なるのは何故なのだろう。

 持病を持つ高齢者が重症化し、死亡する確率が高いのは、免疫力の低下に起因する事は理解出来る。それでも発病しなかったり、軽症で完治する高齢者も多く見られる。人は加齢の進行に従い、免疫力のみならず代謝機能や身体機能の低下は避けられない。羽鳥湖仙人と呼ばれるAt君のように、傘寿にして、趣味のカメラを胸に毎日山野をウォーキングする者もいれば、小病を繰り返しても大病せず、日常を過ごしている者もいる。一概に高齢者と言っても、身体状態は千差万別である。新型コロナウィルスに感染した高齢者の発症と症状は、個々の免疫力の違いが現れているように思える。

 高齢者にとって、健康維持の要諦は免疫力の低下防止である。免疫力維持の三要素は、「栄養、睡眠、血流」と考えている。若い時は、何れが足らずとも若さがカバーしてくれた。かってワンダーフォーゲル部の合宿で、飯盒飯主体の粗食に耐え、重いザックを背に何日も山歩きが出来たのは、遙か昔の事である。今は、努力しなければ体調不良に悩まされる歳になってしまった。高齢者が自己の免疫管理に手抜きをすれば、しっぺ返しを食らうのは必然である。

 免疫細胞の多岐に亘る働きを考えれば、基本は「栄養」であろう。免疫細胞は、食物からの栄養素摂取無しに産生出来ないからだ。タンパク質、ビタミン、ミネラルの必要十分な摂取が必須である。もし新コロナフィルスがT細胞を無力化すれば、人体は不足したT細胞の増産に掛かるはずだ。これは人体の合目的性機能であるからだ。T細胞の栄養素が不足すれば、壊されるT細胞の方が産生量を上回ることになる。司令塔を失った免疫は、コントロール不能となろう。逆であれば新コロナウィルスは体内で消滅する。そして新しい獲得抗体が更なる感染を防ぐことになる。特に抗体は、含硫アミノ酸たるメチオニンやシスティンが不足すれば、産生されない。これらを含む全ての必須アミノ酸を十分に含有する食品は、卵のみだ。更に、抗体産生にはビタミンCの存在が不可欠である。

 免疫は就寝中に造られると聞いている。質の良い熟睡は免疫向上の基本であろう。睡眠は、昼間の身体状況に影響されるから、身体を動かすことが少ない高齢者は、深い睡眠と縁が遠くなる可能性がある。我が身を省みても、腎臓摘出以来、身体を動かす機会がめっきり減ってしまった。要注意である。高齢者にとって、質の良い睡眠を確保するには、工夫と努力が必要である。運動することが少ない高齢者は、要注意である。

 日頃意識しないが、「血流」は免疫力の基礎である。血流が衰えると腹部の体温が低下しがちになる。免疫の7割は腸管免疫であり、腹部の体温が低下すれば免疫力も衰えてくる。高齢者は、下半身の血流が結滞しがちで、血流が悪化すれば、下肢の浮腫となって現れる。下肢の血流低下は腹部での血流結滞を招き、腹部体温低下の遠因となる。高齢者の頻尿は、膀胱温低下による機能劣化が遠因である。このことは、この冬、我が身で体験済みだ。今年2月、排尿障害改善のため超短波治療器による加温を、更に3月に遠赤外線治療器による全身の加温も始めた。その結果、4月の中旬以降、排尿機能が著しく改善された。腹部や下肢の加温が血流改善に繋がり、膀胱の弾力性が復活した結果である。これら治療は、意図せず腸管免疫アップに繋がった事は間違い無い。日々、山野を歩き回っている羽鳥湖仙人は、下肢の体温低下と無縁である。

 免疫力の高い筈の若い人が感染したり、一部で入院加療が必要とされるのは、前述した「栄養、睡眠、血流」の何れかに問題があった可能性がある。血流が滞る年齢でないから、他の二つが要因であろう。日常生活で三密を避け、手洗い、マスク着用を励行したとしても、眼に見えないウィルス対策に100%絶対はない。テレビ朝日ニュースが「北里大学を中心とするグループが、新型コロナウィルスを抑える抗体を作ることに成功した」と報じていた。ワクチンが開発され、治療法が確定するまでは、感染防止の最後の砦は免疫力である。今は、万が一に備え免疫力を高める努力が、自身と家族の健康を守ることに繋がると信じている。

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