伝蔵荘日誌

【伝蔵荘日誌】2020年5月5日: 緊急事態宣言延長とPCR検査 T.G.

 政府が緊急事態宣言の1ヶ月延長を決めた。延長した理由がよく分からない。感染者増大の傾向が押さえられたら解除すると言っていたはずだ。緊急事態宣言は4月7日に発令され、すでに一月が過ぎている。日本の感染者数は4月12日をピークに下がり続けている。それなのに国民の経済的負担が大きく、国家経済を大幅毀損させる自粛を根拠もなく続けさせるのは間違いなのではないか。もし続けるとしたらその根拠となる数字を示し、それに基づいた出口戦略を示すべきではないか。昨夜の安倍首相の演説を聞いても、それらが何一つ示されていないのは大いに問題だ。

 宣言延長の翌朝のテレビショーでは、相変わらず飽きもせず、馬鹿の一つ覚えのようにPCR検査不足の話をしている。これほど重要で国民から求められているPCR検査をなぜ拡充できないのか。きちんと対策に盛り込めないのか。政府は何をしているのかと口を揃えて糾弾している。中にはコロナ優等生の韓国に助けてもらえなどと馬鹿を言い出す輩がいる。開いた口が塞がらない。馬鹿も休み休み言え。法制度がまるで違う国と、同じことが出来るわけがなかろう。

 PCR検査はやるに越したことはないし、他国に比べて検査不足であることは確かだが、今の落ち着いたコロナ情勢では大した問題ではなかろう。それよりもっと大切なことがほかに幾らもあるだろう。今の時点では対策の重点を国民の経済的支援に切り替えるべきだろう。こういうマスコミの低レベルの問題意識と見当違いの報道が国民に誤った認識を植え付け、不安感を煽り、政府の対策の邪魔をしているのではなかろうか

 PCR検査についてである。確かに日本の検査数は諸外国より断然少ない。100万人あたりの検査数は欧米、韓国の100分の1以下で桁違いに少ない。しかしPCR検査は医療の目的ではない。単なる手段の一つに過ぎない。何が目的かと言えば、コロナ患者数と死者数を押さえて少なくすることだ。この点では日本は世界の優等生である。人口あたりの感染者数はアメリカの50分の1、ドイツの40分の1、コロナ優等生の韓国の4分の1、死者数は同じくアメリカの300分の1、ドイツの50分の1、韓国の4分の1に過ぎないのだ。PCR検査の不足にかかわらず、結果は諸外国より断然優れている。PCR検査が手段であって目的ではないことの証左である。仮に手段を誤っていたとしても、結果が目的に合っていればそれでいいのだ。感染症対策で重要なのは理屈ではなく実績である。PCR検査を増やせば感染者や死者数が減るとでも言うのか。もしそうならPCR検査やりまくりの欧米で感染爆発が起きるはずがない。

 感染者数とPCR検査数に因果関係が認められないのと同じように、日本の感染者数、死者数が他国に比べて異常に少ないことの理由は分かっていない。手洗いマスクの習慣とか、靴を脱いで部屋に上がる生活などが取りざたされるが、それがこれほどの、桁違いの差を生むものだろうか。世界の七不思議である。もしその理由が分かったら、世界のコロナ対策が一変するだろう。

 感染症対策の切り札と言われるロックダウンがそれほどの効果を生まなかったのも不思議である。ニューヨークもパリもロンドンも、ロックダウンした後に感染爆発が起きた。要するに今回の新型コロナウイルスには従来の感染症対策がほとんど当てはまらないのだ。そうと分かったらやり方を変えなければならない。

 虎ノ門ニースのコメンテーターで工学博士の武田邦彦氏は科学は結果がすべてだという。結果にそぐわない理論は間違いなのだから改めるべきだという。それが科学だと言う。実にもっともである。感染症対策は科学である。科学的知見に基づいた3密対策と8割自粛で期待した効果が出なければ、間違いなのだから改めるべきだという。ロックダウンで効果が出なければ、間違った対策なのだからやめるべきだという。ロックダウンはたやすく出来るわけではない。凄まじい経済損失を生むのだ。自粛も同じである。今回の緊急事態宣言延長にはその反省と、それに代わる新たな対策が皆無である。政府と国民がもたれ合い、何の思慮も考えもなく、今までのやり方をぐずぐず続けるだけ。実に嘆かわしい。

 再延長に際して盛り込むべき課題はPCR検査などではなく、出口戦略としての経済対策だろう。今の状態を放置したら日本経済が壊滅する。給付金の配布を急ぎ、支援金を効果的に積みますことが最優先課題だろう。そうしないとコロナが収まったとき、多くの企業や商店が潰れ、失業者があふれて、経済が立ち直れなくなる。それではコロナ終息の意味がない。感染爆発した欧米でもそろそろそロックダウンを解除し、経済回復に向けて動き出している。日本にはそういった前向きの危機管理対策は打てないものか。いつまで3密、自粛、PCR検査の三題噺に明け暮れているつもりか。そうこうしているうちに日本経済は再起不能に陥ることだろう。

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