伝蔵荘日誌

【伝蔵荘日誌】2020年4月17日: コロナ情勢、中間報告 T.G.

 緊急事態宣言から1週間たった。東京都の感染者総数は依然として増え続けているが、4月11日の197人をピークに増加数が下がり始め、16日現在は146人と漸減している。国内感染者数は、クルーズ船を除き、16日現在で 8705人、死亡者数 179人にとどまっている。これは存外善戦健闘しているとは言えないだろうか。少なくとも、欧米のような感染爆発はとりあえず回避できている。

 16日付のロイターによれば、全世界の感染者数2,055,634人、死者数136,667人、最も多い国はアメリカで、おのおの636,604人、30,885人、以下スペイン(177,633、18,578人)、イタリア(165,155、21,645)、フランス(132,886、17,167)ドイツ(131,009、3,804)、英国(98,476、12,868)中国(82,341、3,342)と続いている。いずれも日本とは比べものにならない、桁違いのけたたましい数字である。国際比較でも、日本の感染者数(クルーズ船を含み9,434、191)は韓国(10,591、229)に次ぐ24位に過ぎない。

 日本のこの頑張りはいろいろな理由や事情があるだろうが、最も特筆すべきは厚労省内に設けられたクラスター対策チームの活躍ではないだろうか。2月25日に厚労省内に設置されたこのチームは押谷東北大教授と西浦北大教授がリーダーとなり、感染拡大防止対策として徹底して感染経路を辿ってクラスター潰しを行った。その結果、かろうじて感染爆発を押さえてきた。アメリカをはじめとする諸外国は、そういう戦略なしに闇雲にPCR検査に頼ったので感染爆発を招いたのではなかろうか。

 PCR検査は感染予防策ではない。単なる検査である。いくらPCR検査をやっても感染拡大は止められない。PCR検査は不完全で精度が低く、5〜7割の確度しかない。陽性者であることの判定は出来るが、陰性者であることの判断は不確実である。だからいくら検査しても無症状感染者を見つけられず、野放しになる。戦略なしのPCR検査依存は、無意味を通り越して害悪ですらある。その証拠が欧米が招いた感染爆発と桁違いの感染者数だろう。日本は対策チームの確たる戦略のもとで必要最小限のPCR検査にとどめ、感染防止に繋げた。それが功を奏して、欧米、中国と比較して桁違いに少ない感染者数にとどまっている。

 最近、諸外国から日本のコロナ対応が不十分だと批判を受けて、なぜPCR検査を増やさないのかという声が大きくなっている。テレビの朝のコロナショーでは各局お抱えの芸者ドクターが出てきてPCR検査の大合唱である。いつまでも馬鹿の一つ覚えのクラスター潰しではないだろうと。さっさとPCR検査をやれと。日本で出来ないのなら韓国に頼めと。いつの時代も大衆は愚かである。マスコミのポピュリズムがその上塗りをしている。PCR検査一本槍で今の惨状を招いた欧米を見ていないのか。そもそも感染爆発した欧米が日本のやり方にケチを付けられるのか。

 韓国のコロナ対策を見習えという声があるが、結果を見れば日本のやり方が決して劣っているわけではない。むしろ優れている。人口比で見れば、韓国の感染者数と死亡者数は日本の3倍以上の大きさである。コロナが完全終息したわけでもなく、今現在も増加している。徹底したPCR検査と医療対応、ITを駆使した感染者追跡管理の手際の良さは褒められてもいいが、あれは徴兵制もある戦時体制下の国だから出来ることで、日本は真似できない。スマホを介した個人情報利用の国民監視など、同じことを民主主義国日本でやったら大騒動になる。内閣がひっくり返る。コロナどころではなくなる。

 安倍政権のコロナ対応策が不評である。緊急事態宣言が遅きに失する、自粛なんて甘っちょろい、金の振りまき方が足りないと、マスコミがさんざん囃し立てるので、支持率がどんどん下がっている。今選挙をやったら負けるだろう。安倍が駄目ならどいつに総理をやらせるのか。公明党に押し切られて、一律10万円配布が決まった。ポピュリズムの最たるものである。戦争の最中は得てしてこうなる。「欲しがりません、勝つまでは」とか「鬼畜米英」、「進め一億火の玉だ」などと安上がりなポピュリズムで国民を煽り立てる。そうしないと政治が出来ない。どんな馬鹿でもやる。10万円一律配布はその馬鹿の一つだろう。

 そもそも日本は欧米、中国、韓国とは同じことは出来ない。かの国は非常事態に備えた憲法や法律がある。非常事態の最たるものは戦争である。戦時下であれば戒厳令、徴兵、調達、都市封鎖など、国民の自由や権利を度外視した政策がいくらでもうてる。日本には同じことは出来ない。憲法には国民の権利と自由が最優先で、冒すべからずと書かれている。どこの国の憲法にもある非常事態の対処条項がない。最大の非常事態である戦争ですら否定されていて、「平和を愛する諸国民の公正と信義を信頼した」日本には、コロナも戦争も起きないことになっている。こんな国に都市封鎖など出来るはずがない。せいぜいが自粛止まりである。安倍が悪いのではない。誰がやっても同じなのだ。コロナが終わったらさっさと憲法改正しよう。

 クラスター対策チームの善戦健闘にもかかわらず、感染ルートが追えない感染者が増え始めた。このままでは感染爆発が起きかねない。これを押しとどめるため、対策チームの西浦教授がかねてから人との接触を8割削減すべしと提案してきたが、やっと政府が採択して緊急事態宣言に盛り込んだ。遅きに失したが、やらないよりはるかにマシだ。これにマスコミや国民から反発が起きている。そんなこと出来っこない。無理なこと言うなと。安倍の手ぬるさを批判していたのが、手のひら返しをしている。これもポピュリズムの馬鹿さ加減だ。馬鹿は相手にしていても仕方がない。

 感染は人の接触で起きる。それ以外では起きない。全国民が人との接触を二週間断ったらコロナウイルスは消滅する。それははっきりしている。西浦教授は危機管理と疫学統計の世界的なスペシャリストである。条件を整えて計算したら、対人接触を8割減らしたら2週間で感染者数を一桁に下げられるという結果が出た。ゼロは難しいが、8割なら出来るだろうと。6割、7割では駄目だと。母集団が大きい統計の正確さは数学で証明されている。素人のいい加減な思いつきではない。これを国民が受け入れて守れるかどうか。それがこの先の感染状況を左右することは間違いない。これが出来たら日本は世界のコロナ優等生になるだろう。出来なかったら国が壊れるだろう。国民がマスコミや野党ほど愚かでないことを信じたい。

 今の日本、コロナ問題で頼りになるのはクラスター対策班だけだ。彼らの戦略と提言を信頼して、2週間先を待とう。今やれることはそれしかない。はたしてどうなることか。

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