伝蔵荘日誌

【伝蔵荘日誌】2020年1月4日: 令和二年元旦の目標 T.G.

 正月の三が日が過ぎた。1年の百分の一である。歳をとると時間がたつのが速い。1年などあっという間だろう。

 暮れの大晦日にOt君が息を引き取った。会社同期の親しい友人である。昨年5月のサクの会では同期仲間と伝蔵荘ゴルフを楽しんでいた。体重80キロの巨漢で、ドライバーの飛距離も相変わらずだった。それがたった半年寝込んだだけであっけなく亡くなってしまった。亡き友を忍んで、明日のお通夜には参列しようと思っている。合掌。

 スタンフォード大学の研究によると、人間の老化はリニアに緩やかに進むのではなく、段階的に急激に進むのだという。その節目は34歳、60歳、78歳だという。その先は大方が死んでしまうのでデータがない。タンパク質の新陳代謝の関係だと言うが、まだ若くて体力のある34歳、60歳の頃はその自覚がない。自分もそうだったが、せいぜいが風邪を引きやすくなった程度で通り過ぎてしまう。それに比べて78歳の最後の節目は深刻である。半数近くがその節目を乗り越えられないのだ。そのことは平均寿命で分かる。Ot君もその一人だったのだろう。なんの病かは分かっていたが、病状の不自然なほどの急激な進み方から見てそれしか思いつかない。

 暮れ正月のテレビ番組を見ていて感心したことがある。一つは「ご長寿早押しクイズ」である。80代から90代のお年寄り3人を舞台に上げて司会者が質問をする。それにお年寄りがボタンを押して回答するのだが、いずれもトンチンカンで的外れ。その滑稽な惚けぶりを観客が見て大笑いする内容である。自分も最初のうちは笑って見ていたが、途中からあることに気がついて笑えなくなった。この年齢だと半数以上がすでに死んでいるのだ。生きていても寝たきりか要介護状態で、舞台に上がって元気よくボタンを押すことも出来ない。司会者と当意即妙の掛け合い漫才などまず不可能だ。それをいかにも楽しそうにこなす3人のご老人は希なスーパーご長寿なのだと気がついた。笑いものにするなど大間違い。自分もこういうスーパー老人にあやかりたいものだとつくづく感心した。

 もう一つの番組はテレビ朝日の「ポツンと一軒家」である。グーグル地図で人里離れた一軒家を見つけ、そこを探し当てて訪ねるという内容である。ほとんどが山深い山中で、車がやっと通れるような荒れた山道を辿って行き着く。住人のほとんどはお年寄りである。80代も少なくない。中には90代もいる。ご夫婦も多い。ご高齢でも例外なく車を使っている。車がなければ買い物にも行けないし、暮らしていけないのだ。急勾配の曲がりくねった山道で軽自動車を軽々乗りこなしている。昨今喧しい免許返上など無縁の世界である。山中で孤独に暮らす住人を、驚きと一種奇異な目で視聴者に見せるのが番組の趣旨だが、いつも感心させられるのはその正反対であることだ。いずれのお年寄りも決して孤独ではなく、夫婦共々生きがいを持って楽しそうに暮らしている。78歳の節目を難なく通過した、スーパーご長寿なのだ。羽鳥湖の仙人もこれに近いが、ぜひ見習いたいものである。

 落語研究会のOh君からメール年賀状が届いた。冒頭の年始挨拶の後、日本の千兆円の借金の心配を長々と書いている。「可愛い孫達、その子孫に大きな負担を負わせることになり、考えただけで気が重くなってきます」と日本の将来を憂慮する内容である。あまりに心配そうなので返事を書いた。

 「Oh君、千兆円の借金などまったく心配要りません。あれは金持ちの使い道がない金の置き場所であって、返す必要などないのです。日銀が1万円札を刷ればいくらでも返せますが、返され方が困ります。なんせ使い道のない金ですから。むしろ金がいくらもあるのに使い道がない日本を心配すべきでしょう。日本がそうなった最大の原因は少子化です。人口が減れば経済活動はシュリンクします。買うものがないし、買わせる人もいない。日本の最大で最も深刻な問題は少子化であって、国の借金ではありません。少子化の深刻さに比べれば、財政金融や安全保障などどうでもいい軽微な問題です。」

 「終戦直後の昭和22年の日本は人口8千万人、出生数は260万人でした。現在の人口は1億2千万人ですが、昨年の令和元年の出生数はわずか86万人。貧しかった終戦直後の3分の1です。元となる人口を勘案したらさらにひどい数字です。これでは国が保ちません。何をやっても駄目です。この問題は金では救えません。」

 「少子化の最大の原因は昔ほど子供を産まなくなったこともあるでしょうが、それにも増して大きいのは男女が結婚しないことです。昔はほとんどの男女が一生のうちに一度は結婚しましたが、現在では男性の24%、女性の13%は生涯結婚しません 。この比率はどんどん高まっています。10年後には男性の3分の1、女性の4分1が結婚しなくなっているでしょう。これでは子供が増えるはずがありません。親がいなければ子は出来ないのです。」

 「現在とられている教育無償化や保育園全入などの少子化対策は、結婚した子育て層への対策であって、少子化対策としての意味を持ちません。男と女が結婚しなければ、子供は増えないのです。この中には今問題になっている中高年の引きこもり60万人も入るでしょう。結婚しない理由を問えば、一人の方が気楽とか、結婚より仕事が大事などと身勝手な答えが返ってきます。これらの社会性を欠いた後ろ向きマインドは、戦後の民主主義、個人主義教育の弊害です。これをなんとかしないと10年後の日本はさらに悲惨な姿になるでしょう。一刻も早く過度な個人主義教育はやめて、家族や社会、人との繋がりを大事にする教育に立ち戻るべきです。それ以外に日本が救われる方法はありません。」

 と言うわけで今年の目標は、個人的には早押しクイズ、ポツンと一軒家のスーパーご長寿にあやかって「78歳の壁」をどう乗り切るか、日本の問題としては少子化をどうやったら止められるのか、の二つである。

目次に戻る