伝蔵荘日誌

【伝蔵荘日誌】2019年12月6日: 犬二匹は我が家の宝 GP生

 我が家では、かって三匹の小型犬が生活を共にしていた。この事は、何回も日誌に書いてきた通りである。三匹とも散歩する事は無く、外出はシャンプーやトリミング、獣医科での診察に限られていた。家の中での犬達の食事、寝床、そしてトイレの場所は決められていて、それ以外の場所では自由に歩き回っていた。散歩をしなくとも、犬達は共同生活でお互いを癒やしていたようだ。時々、犬達を抱き上げたり、頭やお腹をなぜるヒューマンタッチは、犬達には喜びである。朝夕二回の食事や三時のおやつのが遅れると、黙って自分を見つめ催促しに来ることもある。犬達にとって食べることが最大の関心事なのだ。

 今年の1月末、ミニチュア・ダックスフンドのショコが急逝した。ショコは狩猟犬の末枝故、運動能力は抜群、盗み食いに天性を発揮していた。頭脳は不明晰の極みで、所謂お馬鹿さん犬であった。人なっこい性格とビジュアルから人気の犬種でもあったが、吠えまくる事が欠点であった。シーズー犬二匹は性格が全く異なり、日常はお互いに疎遠であった。この二匹の間には何時もショコが居て、三匹は絶妙のバランスが保っていた。そのショコが突然居なくなってしまったのだ。

 ショコが死んでから10ヶ月が経過した今、シーズ犬チャコとナナの関係は以前とは異なる様相を呈している。我々が食事をしている時、犬達はおこぼれを期待して、お座りの姿勢で上を見つめるのが常であった。以前は、チャコとナナは椅子の反対側に座り、ショコがチャコと一緒にお座りをしていた。三匹が並んでお座りしたり、チャコとナナが一緒の姿は見たことが無い。所がショコ不在の今、チャコとナナが並んでお座りをしているのだ。それだけでは無い、時々二匹が寝床を共にさえしている。以前はお互いの存在を無視していた二匹は、ショコ不在を理解し心境の変化が生じたようだ。

 ナナは現在11歳の半ば、老犬の入り口に立っている。三匹の中で最後に飼った犬でもある。体重は5s半ば、シーズー犬でも小型に属するが、頭脳は明晰、飼い主の気持ちを察することに長けている。飼い主の行動を予測して、一番得をしようと心がけているようにも思える。心身一体と思える程、行動は素早い。小さいときから教えたことは直ぐに覚えた。お座り、お手、待ての基本動作からトイレまで、時間を掛けずにクリアーした。他の犬がトイレ以外で何度も粗相しても、ナナはこの年になるまでトイレを間違えたことは無い。ナナは大病をしてから甘えが激しくなった。朝、早くベッドの側に来て「起きて!」とばかり吠えるのだ。起きなければ何時までも吠え続けている。寂しさに襲われるようだ。自分が起きると暫くは側に居るが、直ぐ自分の寝床に戻って寝てしまう。身勝手はナナの特性でもある。、最近は早朝から起こされなくなった。気持ちが落ち着いたのだろう。

 手の掛からないナナであったが、8歳頃から問題が生じてきた。皮膚アレルギーの発症である。検査はしていないが、アレルギーは四つ足動物の肉と小麦粉由来と推定し、餌をロイヤルカナン製のセレクトスキンケアーに替えた。これは皮膚に問題ある犬の専用食で、肉は七面鳥である。小麦製品は一切使われていない。おやつのビスケット類は、米原料の煎餅であるワンベイと薩摩芋のボーロに替えた。問題の無い他の犬達もおやつは同じ物となった。皮膚アレルギーが進行すると、皮膚が赤く炎症を起こし、脱毛が始まる。餌を替えてから、皮膚は少し赤くはなったが、脱毛は止まった。

 ナナの問題はこれだけでは終わらなかった。昨年の3月、首や両脚の関節の一部が腫れあがり、シコリが現れてきた。何時もの獣医科病院行き診察を受けたところ、リンパ腫の疑いから、日本獣医大附属病院での診察を勧められた。結果は、白血球が10万オーバー、リンパ球9万オーバーの悪性リンパ腫であると診断であった。月一回の抗ガン剤注射が始まった。抗ガン剤25rでは効果が無く、30rでは白血球とリンパ腫ともに8万前後に低下したが、それ以下には下がらなかった。35rに増量した所、値は次第に低下を続け、4ヶ月後に白血球1万、リンパ球2千の正常値に戻った。シコリも全て消滅し、完治と診断された。

 抗ガン剤投与と平行して、補助薬のステロイド剤を朝の餌に混ぜてる投与を始めた。ステロイド剤は5ヶ月継続した。この結果、ナナの皮膚の炎症は止まり、皮膚の赤味も正常色に戻った。抗アレルギー薬であるステロイド剤であるから、当然の結果である。ステロイド剤投与を止めてから暫くして、ナナの皮膚は赤味を増し、以前に増して炎症が激しくなり、脱毛が始まった。ステロイド剤の長期服用の恐ろしさである。再びステロイド剤投与を考えざるを得なくなり、獣医に相談をしたところ、副作用が少ない新薬アポギル錠を紹介された。価格が高いのが難点であるが、そうはいっていられず、朝夕の餌に混ぜて投与を始めた。暫く安定を見せていたが、今年に入って皮膚の赤味が増し、ナナは後ろ足で身体を掻く動作が多くなった。ステロイド剤ほどの効果は無かったのだ。現在、朝はステロイド剤とアポギル錠を一日おきに、夜はアポギル錠のみを投与している。

 ナナの問題はまだ続く。ドライアイが酷くなり、目やにで目が見えなくなる事が多くなったのだ。日本獣医大でドライアイの目薬を処方して貰った所、目やにが減少しスッキリした目に戻ってきたが、長く続ける内に効果が薄れてきた。その後、市販のビタミン入り目薬を朝昼夜に用いていた。目やにの清掃は、欠かせない日課であった。最近、自分が鍼灸治療でお世話になっている中医師と犬の話をしている時、ドライアイに効果のある漢方系目薬・新黄珠目薬を勧められた。勿論、人間用である。中医師は飼い犬に使っているそうだ。早速購入した所、効果は抜群、現在目やには減少しスッキリした目が戻ってきた。

 今年の1月、ナナは傷んだ歯17本を抜歯した。以前抜けた歯も有り、残りは13本と無残な状態となった。犬専用のドライフーズが食べられず、餌加工の試行錯誤が続いた。最終的には、うるかくして柔らかくなった餌をスプーンで潰し、犬専用振りかけを混ぜる形に落ち着いた。傍らで餌にかぶり付いているチャコがあっという間に完食するのに、ナナは20分近くを要していた。所が、先月末うっかりうるかしを忘れたので、ドライ食に振りかけを混ぜた所、完食してくれたのだ。13本の歯で食べるコツを身につけた様だ。残りの歯の健康を願うのみだ。

 手の掛かりすぎるナナに比べて、チャコは今まで苦労した記憶が無い。性格はナナと違って自己主張が少なく、温和過ぎるくらいの引っ込み思案である。三匹時代から、他の二匹から何時も一歩下がった存在であった。喜びを現すとき、グーグーと声を出しながら、まん丸い目で人を見つめる姿は、チャコの魅力の一つであった。「ご飯だよ」と呼ばれ、餌場に来るのにも一番最後であった。おっとりした性格と甘えるときグーグーと喉を鳴らす仕草から、三匹の中で人気一番の犬であった。

 最近は加齢の進行故、動作は更に緩慢となり、餌時に「チャコご飯だよ」と声を掛けても、寝ているときは顔も上げないことが多くなった。直ぐそばで声を掛けても同様である。耳が遠くなったのかも知れない。若い時はトイレを間違える事は無かったが、最近、カーペツトや床に粗相をする事が多くなった。トイレにナナの排尿痕があるとトイレに入らなくなったのだ。おっとりチャコにも、意外に神経質な面があったようだ。今まで以上にトイレの汚れチェックが必要になった。

 それでもチャコは、高齢になっても病とは縁が遠い犬である。たまに食べ過ぎてお腹を壊し獣医のお世話になるくらいである。2歳の時不妊手術をしたため、太りすぎない様、食事量のコントロールは必要である。いくら食べても食欲が衰えないからだ。チャコは無類の暑がりでもある。暑くなると玄関タイルの上で気持ちよさそうに寝ている。秋になっても体毛のサマーカットは不可欠で、最近でも6oカットである。声を掛けても振り向くことが少なくなったことから、少し認知症気味ではとの声も聞こえている。

 自分が外出から帰宅すると、二匹とも玄関まで出迎えてくれる。何時もの宅配便屋さんが来ると、飛びついて喜びを現すこともある。犬達は二匹とも人が大好きなのだ。変化の乏しい日々の中で、来客は犬達にとって大いなる刺激なのだろう。若い時はともかく、犬とて歳をとると手が掛かる様になる。手を掛ければ掛けるほど、犬達が愛おしく思えてくる。新しい犬を飼うことは不可の年齢になってしまった。小型犬の寿命は15,6年である。克服したと言え大病を患い、皮膚アレルギーに悩むナナの寿命を心配している。

 朝食時、毎日食べるバナナの一欠片を何回か犬達に与えている。犬達は、目を輝かせてお座りをして、落ちてくるのを待っている。最期の欠けらを与えて、「終わり」と声を掛けると犬達は離れていく。「お母さん」、「お父さん」の区別も犬達には分かっているようだ。「お母さんに行け」と声を掛けると一目散に走り出す。「お利口さん」と声を掛けると、二匹とも直ぐにお座りをする。ボーロが貰えることが分かっているからだ。チャコは寂しさを覚えると、床をガリガリと掻き始める。そんな時、膝に抱き上げ声を掛けると、満足そうに何時ものグーグーが始まる。言葉とアイコンタクト、スキンシップで、犬達との生活を楽しむ日々である。二匹の犬との生活が何時まで続くか分からない。後、数年の事だろう。老々介護は避けられない。生活にリズムと張りを与えてくれる犬達は、間違い無く家族の一員で有り、我が家の宝でもある。

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