伝蔵荘日誌

【伝蔵荘日誌】2019年9月14日: 千葉の大停電 T.G.

 GP生君から電話が来た。ほとんど全滅の千葉大停電で、君の親戚の家三軒がまったく無傷だったのは奇跡だと。そのことを伝蔵荘日誌に書けと。

 台風一過の直後から千葉の大停電が始まった。君津火力発電所から伸びる送電線の鉄塔が崩壊し、ほぼ全県、95万戸が停電で当分復旧の見込みがないという。これは大変なことが起きたと、千葉に住む姉に買ったばかりのスマホでラインを入れる。いつもはすぐ来る返事が一向に来ない。どうやらスマホを見ていないらしく既読にもならない。もしかしてスマホどころではない状況なのかと、不安がいっぺんに募った。

 86歳になる姉は8月末に大病で手術を受けている。手術はうまく行って退院はしていたが、なんと言っても高齢の病み上がりである。その後の体調はどうかと心配になって時々ラインで様子を確かめていた。元気でいるようだったが、そこへこの大停電である。手術後の病み上がりで体力も気力も喪失しているときに、猛暑の中エアコンも使えず、真っ暗闇の中、食事も買い物もままならなかったら一大事である。下手をすると命に関わる。いつも元気な義兄も93歳という姉に輪をかけた超高齢者だ。電話をかけようと思ったが、ラインがつながらなかったら電話も駄目だろう。じりじりしていたら、夜になってラインの返事が来た。それによると姉の家は停電ではないという。通りを隔てた反対側は真っ暗だが、姉の家はまったく問題はなく電気が使えるという。エアコンも使っているという。日常生活はいつも通りだという。退院して二日目だが、運動不足で腰が痛い程度で体調は良いという。大いに安堵した。

 姉夫婦は千葉の隣の市に住んでいる。小生の故郷で人口9万人の小さな市である。東電の停電情報サイトを見ると、停電世帯数1万1千世帯、姉の住んでいる地域だけで1700世帯が停電だという。市のほとんどが停電している。姉のラインによると、近くに住んでいる弟夫婦や義妹の家も問題なしという。GP生君はこの大停電の中、親戚三軒そろって停電していないのはまさに奇跡だという。そう言われてこの日誌を書くことにした。最近はGP生君任せで日誌はサボっていた。

 仮に姉の家が大停電に巻き込まれていたらただでは済まない。93歳と病み上がりの86歳夫婦では体が持たない。生活もできない。近くに娘夫婦が住んでいるが、そこも停電に巻き込まれているだろう。そうだとしたら緊急避難するところがない。おそらく病院も停電で、病院のベッドに戻ることも出来ない。一時は車で駆けつけて姉を家に連れてくることも考えた。そうならなくて良かった。人間、幸不幸はまさに紙一重である。

 不思議なことが二つある。一つはこの大停電を、初めのうちテレビも新聞もほとんど報道しなかったことだ。停電戸数95万世帯という数字は伝えたが、それ以外は愚にも付かない韓国報道、進次郎報道に明け暮れていた。韓国の政界スキャンダルなんて日本にとってどうでもいいことではないか。セリフだけは達者な二代目天才子役なんてどうでもいい話ではないか。それより数百万人もの国民が、猛暑の中、エアコンも使えず、風呂にも入れず、食事もままならない状態の方がよほど大問題だろう。やっと伝え始めたのは台風が去って3日目ぐらいからだが、民放はさておき、公共放送のNHKは何をやっているのか。大停電の中、タマネギ男や進次郎ではないだろう。こんなことをやっているから潰せと言われるのだ。

 もう一つの不思議は、この程度の台風はこれまでいくらもあったのに、なぜ今回だけ、それも千葉だけにこれほどの大停電が起きたのかである。アメリカでたびたび電源喪失の大規模ブラックアウトが起きるが、日本では起きない。唯一北海道地震の時だけだ。今回はブラックアウトとは異なるが、その影響範囲と被害はそれに近い大事故である。以前東電の副社長とアメリカに出張したことがある。サフランシスコ上空でブラックアウトに見舞われた。なかなか空港に下りられず、やっと着陸できたときはサンフランシスコは真っ暗で、ホテルもろうそくの光でチェックインした。そのとき偉いさんはこう豪語した。日本ではこういうことは起きない。日本の電力はアメリカよりはるかに品質が良いと。嘘ではないか。まったく悪いではないか、起きないと言っていた福一事故も起きたではないか。

 今回の大停電の原因のほとんどは、脆弱な電柱と蜘蛛の巣状態の電線にある。要はちょっと風が吹くとズタズタになる前近代的な送電網が原因なのだ。電源喪失のブラックアウトとは事情がまったく異なる。先進国で都市部の送電が電信柱と電線で行われているのは日本だけである。どこの国もとっくの昔に地中化している。ニューヨークも、ロンドンも、パリもローマも、それより貧しいマドリードでもアテネでも、都市部で電線は見かけない。写真を見れば分かる。電線の見える景色はない。電線だらけの日本の都市風景はいかにも貧しい。同時に電力事情も貧しい。そのことが今回の停電でよく分かった。原因は、偉そうなことを言う東電が、送電網の地中化をサボっていただけだ。福一の原因もこれと同類である。この際東電は大いに反省して、電線地中化に鋭意取り組みべきだ。そうでないと台風のたびに大停電が繰り返されるだろう。

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