伝蔵荘日誌

【伝蔵荘日誌】2019年7月1日: 日米安保の行方 T.G.

 ここ1週間で、ドナルド・トランプが日米安保条約に対する不信感を三度口にした。一度目はブルームバーグの取材に対して、二度目はFOXビジネス・ネットワークのインタビューで、三度目はG20における日米会談の記者会見においてである。大統領になる前からの持論の繰り返しだが、G20開催直前直後の度重なる意図的発言は異様でもある。G20記者会見では、「日米安保の解消は考えていないが、内容が不公平」だと述べるにとどまったが、FOXインタビューで「日本が攻撃されれば、米国は第三次世界大戦に参戦し、米国民の命を懸けて日本を守る。いかなる犠牲を払ってもわれわれは戦うが、米国が攻撃されても日本にはわれわれを助ける必要がない。ソニー製のテレビで見るだけだ」と述べているのは必ずしもトランプだけの持論ではなく、多くのアメリカ国民の気持ちの代弁でもある。

 最近の混沌とした世界情勢は19世紀末と酷似している。当時ヨーロッパは、世界の超大国であったイギリスと、遅れてきた大国ロシアが覇権を争っていた。ロシアの南下政策に応じた李氏朝鮮の高宗が、ソウルのロシア公使館に逃げ込んで政治を行うようになると(露館播遷)これを見た英国は日英同盟を結び、朝鮮を日本に引き渡してしまった。その結果が生んだのが日露戦争である。日本は極東ロシアに対するイギリスの番犬にされたのだが、それと引き換えに超大国イギリスのバックアップで日露戦争に勝利し、国家安全保障を確実にした。その後の第一次世界大戦で、ドイツに苦戦したイギリスは同盟国の日本にヨーロッパ戦線への陸軍派兵を求めたが、戦略の見通しを欠いた日本はそれに応じず、駆逐艦一隻を地中海に派遣するだけでお茶を濁した。5年後の1923年に事実上日英同盟が解消されたのはこれが遠因である。イギリスが日本との同盟を見限ったのだ。その結果、国家安全保障の主軸を失った日本は、筋ワルのヒットラードイツと同盟を結ばざるを得ず、滅びた。

 つらつら考えれば、昨今の世界情勢とそっくりである。当時の役者であるイギリスとロシアが、アメリカと中国に変わっただけだ。アメリカは北朝鮮を鉄砲玉に使った中国との覇権争いに手を焼いている。同盟国と思っていた韓国の文大統領が、巨大化した中国にすり寄り始めている。露館播遷の再現である。このまま進むとアメリカの覇権も危うくなる。同盟国日本に、いざというときの攻守同盟としての日米安保を期待するが、平和ボケした日本は平和憲法を盾にとって一向に応じない。金だけ払ってアメリカを番犬扱いしている。アメリカの覇権に余裕があるうちはそれでよかったが、今はもう余裕はない。トランプが再三口にして日本を脅すが、見て見ぬふりで政治も世論も関心を示さない。参院選で安倍自民は憲法改正を争点にすると言うが、九条大好きの国民は冷たく応じるだろう。自民党は議席を減らすだろう。それでは日米安保はどうにもならない。日米安保改正の一丁目一番地はなんと言っても憲法九条改正なのだ。平和ボケの日本人は日英同盟解消の教訓を忘れている。

 同じことが韓国にも言える。この国は古来自ら国を律したことがない。自主独立の国家統治をしたことがない。常に周りの大国に擦り寄って生きてきた。古くは支那が宗主国であったが、支那の覇権が衰えると、新たな宿主を探す。高宗はロシアを選び、ロシア公使館の中で政治を行った。その結果国を失った。戦後はソ連とアメリカである。北はスターリンの庇護の元、北朝鮮人民共和国を作った。初代主席金日成は極東ソ連のパルチザンで、出自も不明な人物である。南はアメリカに擦り寄って韓国を作ってもらった。初代大統領はハワイ在住の韓国人李承晩をアメリカが連れてきて大統領の椅子に座らせた。在位中、選挙など一度もしていない。韓国軍の指揮は発足以来常に在韓米軍の司令官が務めてきた。今もそうである。自分の判断で作戦行動は出来ない。

 日韓併合もそうだ。日本が併合を要求するとただちに応じて併合条約を結んだ。国内に反対運動はまったく起きなかった。ロシアを打ち負かした日本に唯々諾々と擦り寄ったのだ。数少ない独立運動家であった金玉均は体制派によって暗殺された。以来朝鮮に真の独立運動は一度も起きていない。併合直前の韓国の国家歳入は748万円しかなく、必要な歳出との差額3000万円は全額日本が負担した。(「日帝36年」の真実 崔基鎬) 併合後日本の援助で豊かになれた。その歴史的現実がありながら、それを無視していまだに不当な植民地支配と日本を攻撃する。 要するに今の日本の安全保障議論と同じように、国民が自主独立に関心を持たないのだ。文大統領は反日に関してだけは旗幟鮮明だが、アメリカと中国のどちらに擦り寄るか、二股膏薬状態から抜け出せていない。どうやらアメリカは見限ったようだ。近い将来国が滅びるだろう。

 トランプをはじめとするアメリカの日米安保に対する不信感の強まりは第二の黒船だという識者もいる。ペリーの黒船は日本人の危機感を煽り、明治維新に繋がった。日本中から憂国の志士が輩出し、攘夷から開国を実現した。今頃の日本人はトランプの黒船にどう対応するのだろう。のんびり平和憲法論議の小田原評定を続けているのだろうか。真の国家安全保障議論は出てこないのだろうか。

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