伝蔵荘日誌

【伝蔵荘日誌】2019年6月24日: 高齢者の新しいパソコンソフト GP生

 現在はスマホ全盛で、日常生活でのパソコンは影の薄い存在の様だ。スマホは高齢者向けの「らくらくホン」を使用している。用途は電話やショートメールと近親者とのライン程度で、ネット検索やネット通販には使用したことがない。文字が大きく見やすい「らくらくホン」でも、あの小さな画面に目を凝らし、頻繁に画面を操作するのは難儀だからだ。ゲームや動画などは勿論縁なき世界だ。現役時代はワープロ専用機を使った経験はあったが、パソコンは職場に普及する前に退職したため縁がなかった。30年以上前、マンション管理を始めた時、業務用にパソコンを購入したが、ワープロとの平行使用であった。パソコン一本に絞ったのは、Windows95が発売されてからである。現在は、Windows10で全ての業務を行っている。

 パソコン購入は当時の基本ソフトであるMS-DOSが理解出来るか否かに掛かっていた。入門書で学んだ結果、何とかなりそうだと判断しブラウン管仕様のパソコン一式とプリンターを購入した。価格は現在では考えられない程の高額であった。それでもMS-DOSを使いこなすのに苦労した記憶がある。ワープロ機もそうであったように、パソコンも全て独学であった。独学は知識や思考法が偏る傾向がある。問題に直面したとき基礎知識の偏在は、問題解決の致命的欠陥にもなる。新しいパソコンやソフトに接する度に、同様の問題に直面するのは避けられない。

 電気量販店でパソコンを購入すれば、不要なソフトが満載である。Words、Excelは当然搭載されているが、Windowsを使い始めてからワープロは一太郎、会計ソフトは弥生を使用してきた。表計算ソフトであるロータス123を長く使用したが、Excelに取って替わられ消滅してしまった。個人用ソフトは「筆まめ」や「動画レコーダー」、「Eos Utility」、「FireFox」、「Becky」等を利用している。趣味用ソフトであっても、ダウロードしてから使いこなすのには少々時間を要するのが常である。所詮、個人的趣味の世界のことで、試行錯誤を繰り返す事に苦痛を感じたことは無い。新しいソフトに関心を持ち、理解に努め、向上心の一部に火を付けても、意欲だけでは前に進めないのが現実だ。FireFoxとBeckyはTG君に勧められたソフトである。使って見るとインターネットやEメールでの使用感は抜群であった。FireFoxはともかく、Beckyの利用では行き詰まる事が多かった。この時は、TG君にメールや電話で教授を乞うことになった。自分と異なり、彼はパソコンの専門家である。親切な解説メールを何回貰ったことか。Beckyのみならずパソコン使用に関する不明事は、TG君にアドバイスを貰うことが常であった。SOSに直ちに応えてくれる先生は、有難い存在である。

 Windowsを利用して以来、会計ソフトは「弥生」を利用してきた。自分の苦手な分野の筆頭は経理業務である。昔現役時代、外を飛び回る事が多く、デスクワークは特定の作業に限られていた 。一年中デスクに座り、帳簿と睨めっこしている経理担当者を見ると、自分と縁のない世界に思えたものだ。所が、マンション管理を始めると、零細経営であっても、経理業務から逃れることは出来ない。簿記に関する基礎知識は全くなく、貸し方、借り方の意味すら理解していなかったのだ。その頃、出会った会計ソフトが「弥生」であった。弥生は中小企業や個人使用を目的として開発されたソフトあり、不動産業を営む個人に対応するジャンルが存在していた。これなら何とかなりそうだと考え購入した。

 弥生を使いこなすには、システムと簿記を平行して理解する必要があった。取扱説明書を何回も読み、データー入力を繰り返す事で最低限の簿記知識とソフトの操作を習得していった。販売元の有料会員に成り、分からない事項の教授を受けた。操作が習熟するにつれ、弥生は業務に必要不可欠なものとなっていった。バージョンアップをする度に機能は充実し、更に使い易くなった。決算期になると帳簿と決算書をプリントアウトし、会計事務所に持ち込むのが常であった。所が10年前、長年お付き合いのあった会計士が喉頭ガンで倒れ、会計事務所は閉鎖となった。この会計士が生前紹介してくれたのが、弟子筋に当たる所長が経営する会計事務所である。自分の街では最大規模の事務所でもある。今まで、なあなあで処理してきた決算内容は通らず、厳しい指摘を受け、高齢者にとっては新たな刺激となった。経理を体系立って学んだことのない欠陥は、帳簿の不備として現れる事が多かった。

 個人事業の決算時に、勘定元帳と補助元帳をプリントアウトすると250ページ近くになる。パソコン上の元帳を何回もチェックし、これで大丈夫と判断できなければ、プリントアウトに踏み切れない。入学試験の自己チェックで、自らの誤りを見つけられないのと同じで、帳簿の記入ミスは観点を変えないと発見はできない。70歳の半ばを越えると、帳簿作成に辛さを感じるようになってきた。この事を会計事務所の担当に話すと、「会計ソフトを替えてみませんか」と言われた。会計事務所としても、紙帳簿から必要データーを抜き出し、税務署提出用の決算書を作成することは手間かが掛かる作業である。会計事務所とユーザーが同一の会計ソフトを共有するメリットは大きいようだ。

 勧められた会計ソフトは、会計事務所や会社専用として日本デジタル研究所(JDL)が開発し、発売している出納帳である。現在のソフトは個人事業と私的データーの併記が可能だとのことであった。趣味のソフトならいざ知らず、専門性の高い業務用会計ソフトに対応することが出来るか自信は持てなかった。このソフトで会計業務を行えば、膨大なプリントアウトの手間が省け、記録はUSBで事足り、メール送信も可能だ。当にWin-Winの関係であるのは理解出来ても、60歳の手習い所ではない、簡単にOKできなかった。分からない事は、会計事務所が指導するとの言葉に後押しされ、熟慮した結果、会計ソフトの切り替えを決意した。会計事務所経由による購入は、割引価格となった。

 5月は管理会社の期末である。個人事業のデーター入力に比べ、会社の帳簿は比較的シンプルであるからトレーニングに最適と考え、新しいソフトを立ち上げた。会社情報を入力し、勘定科目、補助科目を整理し、前期残高を入力した迄は比較的スムースに終了した。勘定元帳を開き金額データーを入力しようとしたが、入力ができない。入力は「現金出納帳」と「預金出納帳」のみでしか出来ないシステムであったのだ。弥生では、現金出納帳や預金出納帳のみならず、仕訳帳、勘定元帳、補助元帳の何れからも自由に入力が可能であった。長年に亘って染み込んだ弥生感覚を消し去らないと、混乱が生じるのは必至である。当然、貸し方や借り方、費目の入力システムも弥生と全く異なっていた。入力して行き詰まる度に、会計事務所に電話して教えを請うた。画面上に400ページを越える取扱説明書を開き、専門用語による解説を理解する根気は流石に失せていた。試行錯誤の結果、少しずつ全体像の一角が見えてきた。

 ある程度のデーター入力を終えて、USBに記録を試みたが、アイコンに「デスク入力」はあっても、USB入力は見つからない。会計事務所に尋ねると「ネット会計」→「監査依頼」クリックするようにと指導された。USBへの入力は会計事務所への送信を前提としてセットされていたのだ。その後は、自然の流れでUSBに辿り着き入力が終了した。以前、業務用パソコンのHDが破損し、過去のデーターを全て失ったことがある。会計データー入力の度に、USBに簡単にコピー出来るのは安心材料である。会計事務所へは、紙帳簿に替わりUSB1本を提出するだけだ。

 管理会社のデーターを全て入力し、プリントアウトされた損益計算書や貸借対照表を見たときは感激である。新しいソフトにより、膨大なプリントアウトと見出しのシール作業から解放された事は嬉しい限りだ。最初の入力科目を間違えると、それ以降の入力に記入ミスが判るシステムは、慣れると入力速度が速くなった感じであった。決算後の入力ミス訂正も、USBに上書き出来るから大助かりだ。まだヨチヨチ歩きであるが、新しいソフトに取り組む意欲を失っていなかったことは喜ばしいことである。人は幾つになっても好奇心を持ち、新しい事にチャレンジする気持は必要なのだ。伝蔵荘日誌への投稿と新しい会計ソフトの習熟努力は、高齢者の脳力低下防止に最適であると信じている。

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