伝蔵荘日誌

【伝蔵荘日誌】2019年6月17日: 年金2000万円不足騒動 T.G.

 老後の金融資産として、年金以外に約2000万円の貯蓄が必要と言う金融庁の報告書が大問題になっている。野党が鬼の首を取ったように国会で追及し、マスコミが連日ニュースで大仰に取り上げるので、もはや騒動である。100年安心だったはずの年金はどうなった、年金制度の崩壊ではないか。定年時までに2000万円貯めるなんて出来っこない。これでは年金を納める意味がない。年金制度などやめてしまえ。などなど。挙げ句の果てに麻生金融大臣が報告書の受け取りを否定したので火に油を注いでしまった。

 老後の生活が年金だけでは足りず、幾ばくかの貯金がいるなんて当たり前のことではないか。そんなことは言われなくても誰だって知っている。マスコミや野党は知らないとでも言うのか。100年安心は年金制度の話で、国民の生活を100年保障したわけではない。国民年金は満額受け取っても月額6万5千円、厚生年金と合わせて受け取っても平均で15万円。それで生活が出来ないことくらい、単純計算で小学生でも分かることだ。国民はそのことを報告書ではじめて知らされたなどと言うのは、国民を馬鹿にしている。国民の大方はそんなこと百も承知で、はたからとやかく言われずとも、ちゃんと老後資金を積み立てている。統計によれば、65歳以上の41%は1500万円以上の貯金がある。残る20%も500万円以上持っている。ほとんどが年金の給付額を理解して老後に備えている。報告書にかこつけて、レンホウや辻元や長妻らがここぞとばかりに年金批判をするが、国民を馬鹿にしているのか。

 会社にいた頃は、仕事で忙しくて老後や年金のことなど考えたことがなかった。だから偉そうなことは言えない。それではいけないと、人事部が定年を間近に控えた50代社員を集めて定年退職セミナーを開いた。そこではじめて年金がどんなものか知った。社員の年金には1階部分と2階部分があって、1階部分は老齢基礎年金(国民年金)、2階部分は厚生年金。両方とも年金納付は給料から天引き、それを年金手帳と一緒に会社が預かっている。60歳の定年まで勤め上げれば、おおよその年金給付額はこれくらい、退職金はこれくらいと教えられ、それを元に老後の生活シミュレーションをさせられた。

 条件は、子育てが終わって夫婦二人暮らし、持ち家あり、ローン残無し。車など耐久消費財の購入、買い換えや、家のメンテナンス、年に1〜2度の海外旅行、趣味の出費などを想定して老後生活のシミュレーションをする。原資は年金と退職金だけ。あれこれ計算したら、老後のチマチマした生活では使い切れず、平均寿命で死ぬ前に1億円溜まってしまうと言う予想外の結果になった。当時はバブル真っ盛りの頃で、定期預金でも金利が4〜5%あり、ちょっとした投資信託などの利回りは7〜10%あった。使わずに放っておくと複利計算でどんどん増えてしまう。10年で倍になる。だから年金制度を理解させ、退職金の有効活用を考えさせるのが人事部の狙いだった。セミナーの講師にはもっと金を使うよう指導された。ゼロ金利時代の今では到底考えられない、夢のような話である。バブルも悪くはない。人事部の周到な年金制度設計には大いに感謝している。

 と言うわけで、恥ずかしながら小生も60歳近くなるまで年金がいくらもらえるか、退職金がどのくらいか知らなかった。しかしながら毎月の給料明細で、なにやら多額の天引きがされていることは気がついていた。その中でも厚生年金納付が大きかった。今から考えると月額10万円以上の税金より高い金額である。厚生年金は半分が社員負担、残る半分が会社負担と言うことも当時は知らなかった。その半分も会社の会計費目では人件費として計上される。要するに本来支払われるべき給料の半分が年金納付の形で勝手に支払われていたのだ。我が社は業界でも給料の安い会社と言われていたが、さもあらん。合わせて毎月給料から20〜30万円がさっ引かれる。天引き貯金と同じで、当然手取り額は額面よりはるかに少ない安月給である。それを40年間、文句も言わず続けたのだ。定年まで480ヶ月働き続けるから、報酬比例の合計額は相当の金額になる。だから給付額も大きくなる。納付額が一律月額わずか1万6千円の国民年金とはわけが違う。一緒にされては困るのだ。

 低給付額の少なさが問題になるのは、厚生年金ではなく国民年金の方だ。厚生年金の給付が手厚く、国民年金が手薄というのは当たり前の話で、制度が違う。納めている納付額も違う。金持ちも貧乏人も月に一律1万6千円しか納付しないのに、報酬比例の厚生年金のように月額20万円も30万円ももらえるわけがない。それをごちゃ混ぜにするから話がおかしくなる。今のマスコミ報道や野党の話である。もともと国民年金は農家や個人商店など自営業者を対象にしたものだ。今はそれに非正規社員が入るが、会社は正規社員を減らして非正規社員で置き換えているわけではない。非正規社員が増えるのはお百姓さんや八百屋さんなど自営業者が商売を辞めて転業してきたからで、別に正規社員が減っているわけではない。正規社員数は昔から変わっていないのだ。自営業者が減って、それが非正規社員に形を変えただけだ。自営業の衰退を問題にすべきで、派遣社員を格差拡大の原因のように言うのは間違いだ。

 国民年金の給付を厚生年金並みに上げるのは無理な話である。もともと制度設計が違う。給付は負担額に比例する。給付を厚生年金並みに上げるとすれば、納付額を今の10倍以上に上げる必要がある。収入比例で1万6千円が16万円以上になる。誰も加入しなくなり、年金制度が崩壊するだろう。そもそも国民年金は老後の生活を保障するものではない。自営業者の老後を少しでも支えようというのが目的だ。自営業者もそれをわきまえている。野党やマスコミは制度の欠陥と非難するが、今の年金制度を破壊しようとでも言うのか。おそらく彼らもそうは思ってはいまい。参院選の前に、少しでも与党の支持率を下げようと政局材料に使っているだけだろう。2年間の森友加計もそうだったが、こういうバカをやっていては国民に見透かされる。森友加計と同じく参院選では惨敗するだろう。それを応援したマスコミも恥を掻くだろう。

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