伝蔵荘日誌

【伝蔵荘日誌】2019年6月6日: ガン治療後の定期検診 GP生

 5月はガン治療後の定期検診が重なった。中旬に行われた前立腺ガンと下旬の膀胱ガンの検診である。6年前の5月、激しい血尿に見舞われ、1ヶ月にわたる検査で前立腺ガンと診断され、放射線治療を行った。昨年6月やはり激しい血尿後の検査で、左腎臓の腎盂部に初期のガンが発見され、腎臓摘出手術を行った。それも束の間、今度は11月に膀胱ガンが発症し手術を行った。なぜ泌尿器にガンが集中しているのかは医者にも分からない。父親から引き付いた遺伝子上の弱点と言うしか無い。

 前立腺ガンの確定は細胞検診によって行われる。自分の場合は12本の検診針の内6本がヒットし、グリソンスコア7の悪性度の高いガンと診断された。ガン細胞は前立腺の周辺部に分布し、周辺臓器と密接に接触しているため手術は出来ず、放射線治療を行った。20本の中空針を前立腺に刺し、この中を高線量の放射性物質を循環させる内部照射2回と16回の外部照射である。その後2年間ホルモン療法を行い、前立腺ガンの増殖に必要な男性ホルモンを遮断した。治療終了後、3ヶ月毎の検診が続き、一年後から半年インターバルになり現在に至っている。

 ホルモン療法終了後の診断は、放射線治療部の主治医のみによって行われている。この5月で3年3ヶ月が経過した。検査のポイントはPSA値の変化である。ホルモン療法により男性ホルモンが遮断されれば、ガン細胞は活動を休止し、PSA値は限りなくゼロに近づく。自分の場合も10ヶ月間はゼロであった。1年後に0.01、2年後に0.09,2年半後0.12になり、今回0.17に上昇していた。男性ホルモンの復活が、PSA上昇要因との主治医の説明は納得である。高齢者の場合、一度止めた男性ホルモン産生が回復するのに3年近く掛かる場合があるとのことだ。PSA値が2.0を越えれば再発と判断される。何人かの知人は治療後、PSA値が基準値を超えている。主治医からは、0.5以下で終始すればベスト、1.0以下であればベターであると言われた。今後2年間のPSA値が低位で安定することを望んでいるが、万が一再発しても、ホルモン療法の新薬が開発されているのは心強い限りである。

 膀胱ガンは上皮ガンであっても悪性度は高いと診断された。幸い筋層には浸潤しておらず、膀胱内視鏡による手術で4カ所の癌巣が除去された。手術後、抗ガン剤の注入が行われたが、これだけでは再発の可能性は50%近いため、術後BCGの膀胱内注入を一週間おきに6回行った。BCGは膀胱内の免疫を活性化させ、ガン細胞を消滅させる治療法である。当然副作用は大きい。今回はBCG注入が終了してから最初の3ヶ月検診である。

 検診は膀胱内視鏡による目視検査と尿の病理検査である。BCG注入治療によっても膀胱ガンは30%近い再発の可能性があり、治療後2年以内が最も多いと聞いている。膀胱内視鏡検査は今まで何回も行ってきたが、慣れることは出来ない。尿道に麻酔薬を注入してから内視鏡を挿入するのだが、細い尿道が押し広げられる圧迫痛には思わず呻き声を漏らすほどだ。モニターに映し出させる映像を見て下さいと言われても、ゆとりを持って目を向けられる状態では無い。要所で映像が記録されていた。すべてが終わり内視鏡が引き抜かれたときの安堵感は格別である。当然尿道の一部に傷がつき尿に血液が混じることになる。炎症防止の為、3日分の抗生剤が処方されるのが通例だ。検査終了後、診療室で画像検査と尿の病理検査結果の説明を受けた。何れも異常なしで、再発の痕跡は見つからないとの診断であった。最初の3ヶ月検診は無事通過した。

 膀胱内視鏡検査の際、主治医から「貴方の尿道は細くなっている。今回の検査で幾らか広がった」と言われた。検査が終わった翌日から、一日の排尿回数が減少したのだ。検査前より2,3回減であっても現在まで継続している。夜間排尿も2回から1回になった。尿道が拡大されたため、排尿時の残尿が少なくなったのだろう。頻尿原因がBCG注入の後遺症だけでは無かったのだ。膀胱内視鏡検査の有難い副作用である。尿道が何故細くなっているのかは分からない。

 問題は一つしか無い腎臓への過負荷である。尿素窒素、クレアチニン、尿酸値か基準値より高めで、糸球体通過量が低下しているのだ。残された腎臓に負担が掛かっている証である。主治医は想定内の値であると説明するが、不安要因である事に違いはない。水分を十分取ることが腎機能を活性化させる要因となるとの説明を受けた。亡き父が人工透析を受けたとき、低タンパク食と低カリウムを維持する為、野菜類を長時間水につけてから調理したことを思い出した。窒素、カリウム、ナトリウムは腎機能に負担を掛ける要因であるからだ。腎臓摘出手術から1ヶ月後の検診値と今回の値は似たような数値になっている。主治医に想定内と言われても、食生活を見直す必要はあるだろう。残された腎臓は生命線なのだから。

 長い通院生活を考える時、医師と患者の関係は特に重要である。治療のみならず、各種検診を通して医学的知見から病状を診断し、今後を予測するのは医師の役割であり、その診断に信頼を置けるか否かは、医師と患者の信頼関係によるからだ。開業医の選択は自らの意思で可能でも、大学病院の診療科で、誰が主治医になるかは運命の然らしめる結果である。

 前立腺ガンの精密検査により病状を診断し、内部照射治療を勧めたのはKi先生である。実際の治療は高度な技術を有する泌尿器科のSi先生と放射線治療部のAo先生の連携で行われた。突然の激しい血尿に驚き、飛び込み検査で初期の腎盂ガンを見つけてくれたのが、腎臓・膀胱ガンのスペシャリスト・Tz先生であった。腎臓摘出は、腹腔鏡手術の名手・Is先生の執刀であり膀胱ガンの手術もIs先生であった。昨年末Is先生の転院に伴い、引き継がれたのがTz先生であった。今年の正月の膀胱内視鏡による手術検査、今回の3ヶ月検診もTz先生である。今後、Tz先生と長い付き合いが続くことになろう。先生の転院が無い限りだが。

 何れの医師も患者と真摯に向かい合ってくれた。自分は治療や検診の度に、普段考えていることや疑問点を次から次へと質問することが多い。何れの医師達も、面倒がらず正面から答えてくれた。「今の質問は医学的に解明されていないから説明できない」と返答されたこともある。病院創設者の理念である「病を見ずして病人を診よ」は、病に悩み不安を抱える患者に対する主治医達の接し方に現れているように思える。医師との出会いは運命としか言い様がない。それぞれのガン治療で、優れた医師達に恵まれた事を感謝している。

 前立腺ガン、腎盂ガン、膀胱ガンの定期検診は今後も続く。前立腺ガンは今後2年間、PSA値の低位安定が続けば完治と診断され、検診終了の可能性があるが、放射線治療部の主治医は明言を避けた。一般論ならともかく、個人の身体状況は予測の限りでは無いからだ。膀胱ガンは再発しやすいガンとして知られている。3ヶ月後の次回は、膀胱内視鏡検査、血液検査、尿検に胸部から下腹部へのCT検査が予定されている。転移の可能性が捨て切れないためだ。残された腎臓の検査も含まれる。この時異常が無ければ、次回は6ヶ月検診となるだろう。何故、泌尿器にガンが集中したのかは、遺伝的体質と割り切るしか無い。無理は禁物だが、日常生活に問題が無いのは有難い事だ。生きている限り定期検診は続くが、通院できる事は生きている証でもある。一病息災ならぬ多病息災を願うのみである。

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