伝蔵荘日誌

【伝蔵荘日誌】2019年4月20日: 高齢者の自動車事故 T.G.

 また高齢ドライバによる凄惨な事故が起きた。東池袋で87歳の老人が運転するプリウスが、赤信号の交差点で横断歩道の歩行者を撥ね、そのまま速度を落とさず70m先の赤信号の交差点に突っ込み、母親と幼児が乗る自転車を撥ねて死なせ、勢い余って横断中のゴミ回収車に衝突し横転させ、多数の歩行者が巻き込まれた。数トンのゴミ回収車を横転させるほどの衝撃で、衝突時は100キロ近い速度が出ていたらしい。

 それだけの事故を起こしながら、高齢のドライバと助手席の奥さんは無事で、自ら車を降り、警察の事情聴取を受けていたという。この元高級官僚だった高齢ドライバは用心深い性格らしく、車にドライブレコーダーを装着していて、最初の接触事故の直前、妻が「危ないよ、どうしたの?」と呼びかけ、「あー、どうしたんだろう」と応じる声も記録されていた。事故直後に、現場で息子に電話で「アクセルが戻らなくなって人をいっぱいひいてしまった」と話していたという。

 案の定テレビ新聞は、高齢者ドライバの危険を煽り立てるニュースや記事であふれかえった。定番の「アクセルとブレーキの踏み間違え」、「認知症の疑い」、から始まって、「高齢者の免許返上を進めるべき」などと高齢者批判が百花繚乱、我々高齢ドライバにとって、実にいい迷惑である。今回の事故は、状況を見る限り単に車の運転が下手だっただけで、年齢はほとんど関係ない。この程度の事故は若者もしばしば起こしている。年寄りの専売特許ではない。運転が下手な若者はいくらでもいる。実際問題、悪名高い高速道の逆走だって、高齢者と若者の比率はトントンなのだ。新聞テレビはそういう都合の悪いことは書かない。

 こういう時に一番まともなことを書くのは、新聞テレビではなく2チャンネルである。早速2チャンネルを開いてみると、面白いデータの書き込みを見つけた。(平成29年度)運転者の事故類型別・年齢層別免許保有者10万人あたりの事故件数の統計データである。これによると、対人・対車両の事故件数は、16歳〜29歳が3216件であるのに対し、75歳以上では約半分の1835件に過ぎないことが分かる。事故件数そのものの統計に至っては、9万7千692件 vs. 3万1千612件とわずか3分の1である。実際問題として、より危ないのは若者の方で、決して老人ではない。そのことはデータが如実に示している。こういう客観データも新聞テレビは決して報じない。知っていながら都合良く頬被りである。実に汚い連中だ。事故原因を歳のせいにするのはいい加減やめてもらいたい。そんな年寄りイジメをしていたら、金持ち高齢者が車を買わなくなる。GDPも下がるだろう。

 今回の事故でドライバはなぜかブレーキをかけず、加速しながら赤信号の交差点に突入している。興味深いのはドライバの「アクセルが戻らなかった」と言う証言である。ブレーキとアクセルの踏み間違いであれば、人間心理として「ブレーキが効かなかった」と言うはずで、わざわざ「アクセルが戻らなかった」などと回りくどい言い方はしない。どうやらブレーキを踏まなかったのは確かなようで、アクセルから足を離しただけだったのは間違いなさそうだ。その場合でも、車は止まらずとも加速はしなかったはずである。むしろプリウスご自慢の回生ブレーキが働いて減速したはずだ。最初の交差点事故では時速50キロ程度だった車が、そこから70m走る間に大きなゴミ回収車を横転させるほどの速度に達していたとすると、アクセルを踏まない車が勝手に猛烈加速していたことになる。これは運転の問題ではなく車自体の問題だろう。

 プリウスは以前から急加速事故が多い車である。過去にアメリカでも裁判沙汰になった。雑誌「選択」の「プリウス暴走事故はなぜ多い。トヨタも警察も解明しない深い闇」と言う記事によると、「国交省のリコール不不具合サイトによると、17年1〜8月の暴走トラブル報告はプリウスが10件、プリウスと同時期販売数が同じ日産ノートが2件で、プリウスが突出している。16年に起きた福岡の原三信病院事故と同じような「急加速」や「ブレーキが効かない」と言う報告が続々寄せられている」と書いている。また「赤旗」の「ブレーキ痕無し、プリウスで何が?」と言う記事では、「タクシー運転手は病院から350m離れた公園付近から「ブレーキがきかなくなった」と証言している。自動車業界関係者は「運転技術があるタクシー運転手が20〜30メートルならまだしも、300メートルも暴走して、その間、何も手を打てなかったのは奇妙だ」と話している」と書いている。今回の事故の不可解さと状況が酷似している。

 プリウスは友人のMa君の愛車で、伝蔵荘の行き帰りにしばしば運転させてもらう。最近Ar君が買った日産ノートe-powerも、同じモーター駆動の電気自動車である。先週三春の滝桜見物でドライブに使わせてもらった。どちらも電気自動車独特の癖がある。アクセルは一種のスイッチで、踏むものではなくオンオフするものである。そこを取り違えると運転がギクシャクする。ブレーキはブレーキペダルと関係なく、勝手にモーターの回生ブレーキが介入する。動作のすべてがプログラムで制御されていて、ドライバの自由にはならない。あなた任せの部分が多々ある。電気モータの特性はトルクカーブがフラットなことだ。フラットでないガソリンエンジンは、回転が上がらないとトルク(力)が出ない。モーターは最初からフルトルクである。だから発進低速時の加速がいい。アクセルを踏み込んだら(オンしたら)一気に加速する。エンジン車にないドライブフィーリングで、運転下手にとって危うい性能ではある。

 もう一つの特徴はシフトレバーがなく、代わりにボタンスイッチで操作することである。またプリウスにはサイドブレーキがない。代わりに補助のフットブレーキがあるが、実に使いづらい。パニックが起きたとき、即座にシフトダウンしたり、補助ブレーキをかけることは、よほど手慣れていないと不可能である。今度の事故でもそれが裏目に出た可能性がある。常日頃ドライブレコーダーを愛用するドライバでさえ、緊急時に補助ブレーキを使いこなせなかった。加速、減速が全面的なプログラム制御だったことも裏目に出ている。複雑で大規模なプログラムだから、バグによる誤動作を否定できない。そのことは誕生以来25年経っても、一向にバグがなくならないWindowsを見れば分かる。電気自動車はパソコンと同じバグだらけの未完成品なのだ。今回の事故で、プログラムの誤動作が原因ではないことの証明はまず不可能だろう。プリウスのような電気自動車が、従来のガソリンエンジン車と同じ完成度の域に達するのはまだまだ先のことだ。

 (この日誌を書いた後、神戸市三宮で市営バスが歩行者を多数撥ね、死者2名、負傷者多数と言うニュースが報道された。プロ中のプロであるバス運転手が、87歳超高齢者とまったく同じような事故を起こしている。両者とも赤信号を無視して横断歩道に突っ込んだ。事故は歳のせいではなく、運転が下手だから起きる事の証左である。運転の上手下手は歳とは関係ない。自動車事故を歳のせいにして、高齢者から意味もなく免許を取り上げても、事故は減らない。)

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