伝蔵荘日誌

【伝蔵荘日誌】2019年4月16日: 愛犬NANAの復活 GP生

 シーズー犬NANAの事は何回か日誌に書いてきた。そのNANAが彼女本来の活発さを失って久しい。動き廻ることは少なく、自分の寝床で横になっていることが多くなった。外出から戻り玄関のドアを開けた時、小さな人形を加えて走りより、喜びを現す姿も見られなくなった。体重は昨年秋より1s近く減り、目の輝きはNANA本来のものではなくなっていた。彼女はまだ11歳だ。切掛は昨年12月の下痢から始まった。当然食欲は落ちる。掛かりつけの獣医科病院へ連れて行き、下痢止めの注射と念のために抗生剤の注射をしてもらった。暫くして落ち着いたものの、今年1月に再び下痢である。軟便を部屋の中に垂らして歩く姿は哀れであった。食欲はなく、当然体重も減ってきた。抱き上げたときの軽さに唖然としたものだ。NANAは、昨年春から半年以上にわたり、リンパ腫の抗ガン剤治療に耐え抜き完治した。この時の過酷な体験が影響しているのかも知れない。

 犬の食事には、ドライフーズを与えている。シーズー犬チャコには、サイエンスダイエット製の関節に良い老犬食を、皮膚アレルギーをもつNANAにはロイヤルカナン製スキンサポートを食べさせていた。NANAは、この小粒のドライフーズを残すようになったのだ。餌の食べ方は、犬それぞれ個性がある。シーズー犬チャコは、噛むことなく全て飲み込むので、1分もしないうちに完食である。NANAは丁寧に噛むので時間が掛かる。見ているとNANAが餌を噛むのに難儀していることが多くなった。歯に問題が有るのではと考え、獣医科病院で検査を受けた。結果、ぐらついている歯が多く、入院して抜歯をするよう勧められた。全身麻酔下で行われた抜歯数何と17本、残存する歯は13本を残すのみであった。ぐらぐらの17本の歯がNANAの咀嚼を困難にし、食欲低下の原因であったのだ。犬の歯は人の歯より数が多いから、日常的に自然抜歯が起きていた様だ。犬達には飼育を始めた時から歯磨きガムを食べさせていたが、NANAには効果がなかったようだ。NANAは生来、歯の質が悪い犬であったのだ。

 問題は、今までのドライフーズの代わりに、何を食べさせれば良いかが問題となる。皮膚アレルギー防止で与えていた専用食を止めれば、アレルギーが激化するのは分かっていても、NANAが食することが出来る餌の選択が第一義となった。まず缶詰食を与えた。犬の缶詰食は鶏ササミに野菜を加えたものが主流である。ササミを食べやすいようにスプーンで小さくすくい与えたところ、盛った状態では食べづらい様であった。そこで更に餌を小さくすくい一つずつ与えた所、食べてくれたが、何日かして顔を背けるようになった。食べにくいのか、味が気に入らないのか、原因は分からない。

 皮膚アレルギーを防ぐため、NANAには一日一回ステロイド剤を与えている。軟便治療は、獣医と相談の結果、2月から整腸剤ビオヘルミンを朝食時に与えた。これら錠剤は、缶詰食の中に押し込んで食べさせていたが、缶詰食に顔を背けてからは、ちぎった焼き芋に錠剤を押し込んで与えた。ビタミン錠剤も同じ方法をとっていた。所がNANAは大好きな筈の焼き芋にも顔を背けるようになった。

 2月から3月にかけてNANAのトイレ跡を見ると、尿中に血液の混入が時々見られるようになった。生理とは出血が異なっており、NANAの泌尿器に異変がおきている様であった。獣医科病院では膀胱炎と診断された。女性が膀胱炎を起こしやすいのは、尿道が短く感染し易いのと同様、雌犬の場合も同じ事が言えるのだろう。昨年末から始まった激しい下痢が、膀胱感染の原因と思われる。治療は抗生剤の20日間投与である。膀胱内の菌の増殖を抑え、完全に消滅させるのには、この日数が必要であるとの説明であった。1日一錠であるが、他の錠剤同様、NANAが口に入れる工夫が更に必要になった。柔らかめの乾燥芋を小さく裁断し、この一つ一つに必要な錠剤を押し込んで食べさせることに成功した。

 缶詰食に替わる食材探すため、犬のコジマを訪れた。粉末状の食品や少し大きい物、固めの餌はNGである。栄養バランスは特に大事であるが、ドライフーズのように、単品で犬の栄養素が含有されている物は売られていない。後は組み合わせを如何するかになる。主食として選んだのが、鶏ササミとサツマイモをミックスした「ふりかけ」と、チキンを主体に各種栄養物を混合した「7歳からはじめる目と関節のケア」をうたい文句にする「ふりかけ」である。更に、鶏の削り節と鰹や鰯の削り節をトッピングすることにした。ふりかけは小さい固形状であった。食事毎にこれらの組み合わせを替え、NANAの食べ方を食事の度に観察した。錠剤の入った干し芋は餌の上部に振りかけた。変化を持たせるために、犬用サツマイモ粒を餌の上に盛ったりした。

 ビオへルミンを飲ませてから、NANAの便が次第に固まってきたが、代用食の影響で締まりのない軟便が続いた。抗生剤を飲み始めてから1週間程度で血尿は止まったが、トイレの排尿シートの濡れ方は小さく、一回の排尿量は少ない所謂、頻尿傾向が続いていた。20日分の抗生剤を飲み終わった頃から、排尿回数は減少し一回の量も多くなってきた。最初の頃は、代用食を食べ残す事が多かったが、次第に完食するようになった。組み合わせを工夫しても、代用食は、本来のドライフーズに比べ栄養バランスには問題がある。

 そこで、ドライフーズを金槌で叩き、小さな粒状にして代用食に混ぜることにした。試験的に少し混ぜるとNANAは完食したので、ドライフーズ細粒の混合割合を2割程度に増やしてみたところ、完食してくれた。暫く、金槌叩きを続けたが面倒である。試験的にミキサーで粉末にして食べさせた所何とか食してくれた。そこで、時間を掛けて粉末ドライフーズ割合を増やし、現在、4割程度まで増やすことが出来た。この割合だと便の色と固さは、従来と遜色のない状態となった。栄養バランスクリアーも、後一歩である。

 問題は皮膚アレルギーである。ステロイドの効果により、後ろ足で身体を掻く動作は少なくなったが、皮膚の赤味は完全には取れていない。代用食の結果、背中の毛は半分以上脱毛してしまったため、寒さで身体を震えさせる事が多くなった。現在は犬用の服を着せている。ショップで犬の餌を検討している時、乳酸菌3種類を含む犬専用サプリ「ヨーグルS」を見つけた。NANAの腸内環境改善により、排便の安定と免疫力アップとを期待して購入した。3月末から錠剤がまた一種類増えることになった。「ふりかけ+削り節+粉末ドライフーズ」の上に錠剤を載せせると、特別な措置をしなくとも餌と一緒に口に入れてくれる様になり、乾燥芋への錠剤挿入は不要になった。抜歯から2ヶ月近く経過していた。13本しかない歯での食事に慣れて来たのだろう。

 今月に入りNANAは以前より元気になった。膀胱炎が完治し、消化器と歯が安定した結果だと思われる。宅配便のお兄さんが来たとき、NANAが玄関に走って出迎える様になった。時々であるが、小さな人形を咥えて出迎える姿も見られるようになった。NANAは2月で11歳を迎えた。二歳年上のシーズー犬チャコは、すこぶる元気で食欲も旺盛、ドライフーズも完食である。元気になってもNANAは、チャコに比べまだ弱々しい。

 NANAは今まで飼った5匹の中で一番賢い犬だ。人の言葉への理解も一番である。自己主張が強く、行動は積極的である。態度は大きく、小さい身体で、何時も女王様然として構えている。その代わり、身体はトラブル続きである。チャコの様にドライフーズを飲み込んでくれれば楽なのだが、几帳面に噛み噛みする。小さな「ふりかけ」ですら噛むのだ。頭の良い犬は短命傾向があるとは獣医の弁である。人も犬も利口すぎるのは可愛げがなく倦厭されがちだ。ショコが健在の頃、三匹中一番人気がなかったのがNANAであった。NANAは犬屋で一目惚れして飼った犬だ。如何に手かが掛かろうと、体調が戻るための努力は惜しむつもりはない。

 ダックス犬ショコが死んでから、NANAは自分に対しての甘えが激しくなった。何時も自分の側に来るのだ。この日誌を書いている今も、膝掛けに包まったNANAが膝の上で寝ている。ショコが自分にベッタリだった時は、遠慮していたのかも知れない。昨年春から始まった獣医大通いや、日頃のケア、餌やりを通して、NANAには飼い主の気持ちが通じているようだ。

 NANAが食べ終わった後の食器には、粉末の餌がこびり付いていることが多い。この残飯を狙って、チャコがNANAの直ぐ側で何時も待機している。流石、食器に顔を突っ込む事は遠慮している。ショコが死んでから、それまで疎遠だった2匹のシーズー犬は、2匹しかいないことを自覚している様に、一緒の行動をすることが多くなった。NANAの体調が回復し、本来のNANAに戻りつつあるのは喜ばしいが、油断は禁物である。当面の目標は、粉末ドライフーズの割合を6割近くまで引き上げる事にある。これからも、NANAへの老々介護は続く事になるだろうが、NANAがボスに表す親愛の情は、かけがえのない喜びを与えてくれる。犬もまた大事な家族の一員である。

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