伝蔵荘日誌

【伝蔵荘日誌】2019年3月22日: レオパレス21とアパート運営 GP生

 レオパレス21の賃貸アパート問題は、テレビで放映されてから情報が拡散し世間を騒がしている。最近、弁護士で構成された外部調査委員会が中間報告を発表した。解決の一歩が踏み出した様に見えても、一寸先が闇の状態に変わりはない。レオパレス21が手がけた2、500棟近いアパートの内、不備・不都合棟数は1、324棟に達している。今後、空き室の増加は必至と言われている。マスコミは被害者たる入居者の立場で報じているが、アパートのオーナーもまた被害者である。

 オーナーは土地と建築資金を提供し、レオパレス21が建築と一括管理を行う契約は、サブリース契約と呼ばれている。物件管理の煩わしさから解放され、一定の空き室が生じても収入を保証される契約は、オーナーには魅力的に思えたであろう。保証期間は30年と言われている。オーナーが自己資金で建築するならともかく、銀行から融資を受け、月々の家賃から返済するとすれば、レオバレス21に管理料を支払った後、手元に幾ら残るのかが問題である。賃貸アパート運営の首根っこは、レオパレス21に押さえられているから、賃料を保証するサブリース契約の中身がオーナーの死命を制することになる。この契約の問題点は、新築時はともかく、時間の経過によって生じるリスクは、全てオーナーが負わざるを得ない所にある。

 レオパレス21が営業を始めた頃は、部屋を借りる際、家賃以外に敷金、礼金の支払が普通であった。例えば、家賃10万円の部屋を契約すると、敷金20万円、礼金20万円、前家賃10万円、不動産屋の手数料10万円の計60万円の現金を準備する必要があった。レオパレス21は敷金ゼロ、礼金ゼロを謳い文句にした画期的な賃貸条件で、入居者を募集した。恐らく満室が続いたことだろう。レオパレス21も破竹の勢いで事業を拡大し成長していった。入居者は、現在、問題になっている欠陥に悩まされることはあっても、契約時に多額な金を必要としない物件であれば、多少の不満は我慢出来たであろう。当時は、アパートの居住環境はこんものとの共通認識もあった。保証金としての敷金を納めていないため、入居者は、退去時に法外な原状回復費用を請求され、困惑する事例も多かったと聞いている。

 一方、地主はレオパレスの美味しい言葉を信じ、安定した老後を夢見て建築から管理一切をレオパレスに任せても、設計、見積通りに建築が行われているか否かは検証する手段はない。相見積が取れないから、工事費が適切であるかは分からない。全てが、レオバレス21のブラックボックスの中だ。現在、問題になっている耐火性のない材料、防火仕切りのない天井、防音効果の乏しい仕切り等の手抜き工事が行われていたとは、想像も出来なかったろう。手抜きで工費を圧縮し、工期を短縮し利益をたたき出してきたレオパレス21は、現在、会社ぐるみの不正行為が明るみに出て、窮地に立たされている。天に嘔いた唾は、結局自分の顔に掛かるのが、この世の摂理だ。

 東京に賃貸物件が少なかった時代、家主は空き部屋に悩まされることはなかった。2週間もしない内に、次の入居者が決まったものだ。退去時の原状回復は、入居者の責任であり、敷金から清算されるので家主の懐は痛まなかった。入居者が短期間で入れ替わった方が、家主の収入が増加する時代であった。そんな時代、レオパレス21のアパートは、増殖を重ねて行ったのだろう。現在は、賃貸物件過剰の時代である。以前は、入居希望者が物件を求めて不動産屋巡りをしたものだが、現在は、スマホで大手不動産サイトを検索し、気に入った物件があれば当該不動産屋に電話をして内見を行っても、直ぐには契約は結ばない事が多い。より賃貸条件や居住内容が優れている物件はないかと検索し続けるのが通例なのだ。そんな時代にレオパリス21の建築基準法違反が世間に知れれば、入居者離れを引き起こすことは必定である。

 現在、家主にとって最大のメリットは、入居者が少しでも長く住んでくれることである。入居者が退室した後、リホームに出費がかさみ、次の入居者は直ぐには決まらず、その間無収入が続くからだ。リホーム材の進歩は日進月歩である。床材、壁材、それに住宅機器全般の交換が求められることが多い。同じ賃貸条件であれば、入居希望者は、より最新の物を求めるからだ。築年数が経過した物件は、部屋の構造変更を伴うリノベーションを行う必要に迫られる。今は、アパートですらウォッシュレットのないトイレは見向きもされないのだ。レオバレス21の物件でも、築10年、20年と経過すれば、当初の賃料を確保するには投資が必要となるはずだ。賃料のかなりの部分をレオパレス21に握られているオーナーにとっては、厳しい負担となるだろう。負債を抱えての賃貸物件は、運営を他人任せでは成り立たない商売なのだ。

 以前、退出時に家主と不動産屋が結託して、入居者に原状回復の費用を水増し請求するトラブルが度々発生した。この防止のため、東京都は「賃貸住宅紛争防止条例」を制定し、通常の生活に依る汚損、破損は入居者の原状回復責任から除外された。ルームクリーニングも勿論対象外である。その結果、敷金の殆どは、戻されることになった。自分の管理物件でも、敷金は100%返還である。東京に在るレオパレス21でも事情は同じはずで、原状回復費用は全額オーナー負担になっているだろう。家賃が全額オーナーの懐に入るのならともかく、レオパレス21との契約は、家賃相場に合わせて保証家賃額が変わる条項があるとのことだ。建物は、時間が経てば老朽化し、家賃相場が下がるのが通例だ。ならばオーナーへの入金額は減少を続ける事になる。新築時の家賃に近い相場を維持するには、常に物件のリノベーションが必要である。レオパレス21はオーナーに対してどの様なアドバイスをしているのだろうか。現実は、競争力の落ちた物件は、契約に基づきオーナーに家賃補償額の減額を一方的に通告するだけだのようだ。

 その上今回の欠陥住宅騒動である。レオパレス21は、問題住宅の入居者に対して移転費用は全額、オーナーには家賃保証を謳っているが、何処まで約束を守れるのだろうか。入居者が他業者のマンションに移ろうとしたら、全額自費だと言われたと頭を抱えていた例もある。欠陥住宅からの退去を迫られている入居者は1万4,000人、オーナーは1,163人に上ると報道されている。果たしてレオパレス21は、これらの人達全てに責任が取れるのだろうか。

 中間報告に依れば、手抜き工事は、創業者である当時の社長による指示で組織的に行われていた。工期を早めることにより、人件費を節減し、金利負担を減らし、決算に合わせた売り上げや利益の確保が目的であったようだ。結果、手抜き工事を全国規模で行ったレオパレス21は増益となった。今回の発覚で、レオパレス21の収益構造は、自らの首を絞める結果になった。インタビューを受けた前社長は、「他社のことで有るからコメントは差し控える」と答えた。この言にオーナー達は、怒り心頭に発しているだろう。前社長は会社の金を個人流用して、レオパレス21を退任させられた過去を持つ。1人の権力者が、金に対する執着から多くの人達を苦しめる結果に陥れている。もって他山の石とすべしだ。

 地主がレオパレスの甘言に乗ったのは、老後の安定を求めたからと思われる。30年以上昔、父の代行でマンション建設を行った時、ある業者から電話を貰った。会って話を聞くと一括借り上げ、家賃保証の具体案を提示された。当方は銀行への返済だけを履行すれば良く、面倒もなく収入が得られる提案であった。完成後は自分で管理を行うことを考えていたので丁重に断ったが、もし高齢者であったらどの様な返事をしただろうか。今回オーナーがレオパレス21の提案に乗ったのは、何れ生ずる相続問題を少しでも有利にしておきたい思いもあったからだろう。オーナーの気持ちは良く理解出来る。

 今回の問題でレオパレス21が直ちに倒産する恐れはないにしても、問題の解決には莫大な資金を必要とするだろう。改修工事がいつ終わるのかも分からない。入居者の転居が進まなければ着工すら出来ないからだ。レオパレス21の評判は地に落ちている。「レオパレス21=不良物件」のイメージ定着は致命的だ。賃貸物件供給過剰の東京だ。改修なったレオパレス21に、入居者が戻ってくるかは分からない。賃料もダウンし、空き室が増加すれば、当然オーナーは収入減となる。万が一、レオパレスが再起不能に陥れば、アパート管理はオーナーが行わざるを得なくなる。賃貸住宅業は、傍で見るほど気楽な稼業ではないのだ。レオパレス21の問題は、賃貸マンションやアパートの経営は、自らが汗をかき行わなければならないとの教訓である。如何なる事業でも、苦なくして儲かる事などあり得ないのだから。

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