伝蔵荘日誌

【伝蔵荘日誌】2019年3月7日: 緑内障闘病記 T.G.

 GP生君の闘病記に倣って、自分の緑内障闘病記のことを書く。シリアスさが違うので同列には並べられないが、緑内障は不治の病と言われ、最悪の場合失明に至るおそれもあるので、本人にとって深刻な病気ではある。

 昨年の夏の終わり頃から右目がいくぶん霞むような感じがしていた。生まれつき目と視力は良い方なのでさほど気にしていなかった。9月の終わり頃、テレビの健康番組で緑内障を取り上げていた。テレビ画面いっぱいにシマシマ模様が映し出され、緑内障で視野が欠けているとその部分のシマシマが潰れてのっぺらぼうに見えるという。60インチテレビの大画面で試して見たが、さほど気にならなかった。これを切っ掛けに、気になっていた目の霞みを一度病院で見てもらおうという気になった。

 家人が言うには、緑内障の友人知人がたくさんいて町医者にかかっているが、どうも診断や治療がいい加減で頼りにならないという。しっかりした病院の方がいいという。総合病院の市立病院で見てもらえという。以前から市立病院では尿路結石や痛風治療で何度もお世話になっているが、最近の医療改正で、総合病院は紹介料のない初診だと初診料に5千円取られる。それでもきちんとした病院の方が確かだろうと、5千円払って診察を受けることにした。電話で予約を入れると1ヶ月先の10月末まで待たされるという。患者が多くて混んでいるのか、よほど丁寧な診察治療をするのだろう。

 その後、風邪を引いたりいろいろあって落ち込んでいた10月末に、予約した診察を受けに行った。時間通りに病院へ行ったが、なかなか診察が始まらない。1時間ほど待たされて、診察が終わるまで3時間以上かかった。看護師さんに聞いたら、入院患者の急患が入って、予約の診察時間が遅れ遅れになったのだという。

 まず最初に眼圧検査を受ける。目にふっと風を当てる検査である。どのくらいの値か聞くと、左目は正常の13だが、問題の右目は30を越えているという。担当の看護師に頭や目が痛くありませんかと聞かれる。別に痛くはないと答えたが、普通だとそうなる程度の高眼圧らしい。その後の視力検査はどちらの目も1.2で視力はすこぶる良い。次いで視野検査を受ける。暗いいスクリーンのあちこちから小さな光の点がランダムに現れる。見えたらボタンを押す。視野欠損を調べているのだ。両眼で20分程度の検査だが、見落とすまいと緊張するのでいたく疲れる。その後、瞳孔を広げる目薬を注され、瞳孔が開くまで20分ぐらい待たされてから網膜の写真を撮られる。結果はすぐにプリントされて担当医に渡される。

 呼ばれて診察室に入ると、思いもよらず若くてきれいな女医さんである。相対で検査器具を使って、あらためて眼球内部の隅々を調べられる。調べ終わって問診に移る。明確な視野欠損には至っていないが、網膜が弱っている感じだという。その程度でも緑内障と言うのかと聞くと、そうだという。眼圧が急激に上がると、急性緑内障で一晩で失明する場合もあると言う。

 とりあえず点眼薬で眼圧を下げるが、白内障手術を強く奨めるという。白内障は緑内障とは無関係の病だが、水晶体のレンズ交換で房水の出口の隙間が開き、眼圧を下げるのに極めて効果的なのだそうだ。目は良い方なので渋っていると、次の診察までに考えておいて下さいと念を押された。手術は先生がおやりになるのか聞くと、私がやります。一泊二日の簡単な手術ですという。きっぱりした言い方で、よほど自信があるのだろう。診察の最後に、出来るだけ下を向かないように言われる。眼圧上昇を避けるためだという。旅行先などで目に異常を感じたら、迷わず近くの病院へ駆け込むように言われる。突発的な急性緑内障発作を気遣っているらしい。

 点眼薬を処方される。ザラカム配合点眼薬とエイゾプト混濁性点眼薬の2種類である。1日1回と3回、計4回注さねばならない。日に4回の点眼だと、手慣れてきて機械的動作になってしまい、注したかどうか思い出せないことがある。いくつ叩いたか忘れるゴルフのバンカーショットの大叩きと同じである。忘れないようにメモを付けるが、そのうちそれも忘れてしまい、思い出すのに一苦労した。

 それやこれや真面目に点眼したお陰で、1ヶ月半後の12月の再診察で眼圧は正常値の13まで下がっていた。そのためか白内障手術の話は持ち出されなかった。女医さんにヒマラヤで高山病予防に使ったダイアモックスは緑内障治療薬と言われているがと聞いたら、処方したエイゾプト点眼薬にも入っていますよと言われた。ダイアモックスは効果が急速に現れるので、急性緑内障発作の眼圧降下に効果的らしい。僕の場合は急性緑内障だったのか聞いたら、そうではありません、普通の緑内障ですと言われた。

 先週金曜日の3月1日に、3度目の検査と再診察を受ける。昨年10月の初診から4ヶ月経っている。眼圧は何と9まで下がっていた。正常眼圧の左目の13より4ポイントも低い。薬の効き過ぎだろう。視力は相変わらず両目とも1.2。美人先生にもう目薬はザラカム点眼薬の一つだけにしましょうと言われる。この目薬は毎日1回注せば良いので大助かりだ。ネットで調べると、ザラカム配合薬は睫毛が伸びて黒くなる副作用があると言われている。まつげ美容に使う人もいるのだという。そのせいかこの4ヶ月で髪の毛が黒くなった。ほとんど白髪だったのが、黒い毛が増え始めていると家人が言う。緑内障にもいいことがある。

 再検査の結果を聞くと、症状の進行は止まり、むしろいくぶん良くなっている感じだという。完全な視野欠損には至っておらず、弱った網膜部分にも視力が残っていると言うことだろう。何事も早期発見、早期治療が大事だ。緑内障の発症原因を聞くと、眼球が生まれつき緑内障になりやすい形状だという。そうであれば、現在正常の左目も将来緑内障になる可能性はあるのかと聞いたら、「ありません。私が診ていますから緑内障にはしません。安心して下さい」ときっぱりと言い切ったのには感心した。ほとんどの医者は見通しがあっても断言はせず、逃げ道を残しておくのが普通である。しっかりした医者に出会えて、初診料5千円を払った甲斐があった。今後は3ヶ月ごとの検査と診察になるらしく、6月の検査予約を入れさせられた。3ヶ月後にまたしっかり者の美人先生に会える。

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