伝蔵荘日誌

【伝蔵荘日誌】2019年2月26日: 膀胱ガンのBCG注入治療始まる GP生

 1月10日の日誌の続きである。今年の初め、膀胱ガン術後検査のため入院して手術痕から粘膜細胞を採取した。細胞の病理検査では新たなガン細胞は検出されなかった。これで完治とならないところが膀胱ガンの厄介な所だ。膀胱筋肉層に浸潤していない上皮ガンであっても、自分のガンは悪性であり、この種のガンは再発を繰り返す特徴を持っている。主治医によれば、肉眼で見える範囲に腫瘍は確認されなかったそうだ。それでも、このまま放置した場合の再発率は、50%とも60%とも言われている。根治の確率を上げるために、膀胱内へのBCC注入治療が始まった。

 BCG注入療法は、BCGを混入した生理食塩水を尿道から膀胱に注入し、1時間から2時間膀胱内に滞留させる治療だ。これを毎週1回、都合6回繰り返すことになる。注入終了後も1〜3年間、インターバルを延ばして継続した方が良いとの考えも有る様だが、主治医からそこまでは聞いていない。6回の注入治療だけでも問題が発生する確率か高いのだから、当面の治療に専念するのが本筋だ。治療は専用治療室で仰向けになり、露出した局所に大きな紙が被せられた状態で始まる。混合液体40tが尿道の細管に圧入され、治療は終了だ。細管が尿道に挿入される瞬間は苦痛である。6年前の前立腺ガン以来、太さの異なる管を何回挿入されたことだろう。以来、尿道の違和感は消えることはなく尿漏れ原因の1つとなっている。問題は注入後だ。最低1時間は排尿してはいけないのだ。頻尿が極めて強い自分にとって、辛い時間となった。病院の喫茶室で、何かに集中して排尿から意識を逸らし、時が過ぎるのを待つ事にしている。如何しても我慢が出来なくなったら、専用トイレに直行だ。排尿はトイレに備わった容器にするよう義務付けられている。結核菌を含む尿を滅菌して廃棄する為である。

 BCGはウシの結核菌を弱めたものが使用されている。弱めたと言っても生菌は存在しているので副作用は避けられない。昔、子供の頃、ツベルクリン検査をして陰性と判ると、結核予防のためにBCGを腕に注射された。注射の跡は赤く腫れ上がりズキズキと痛んだものだ。これが嫌で、ツベルクリン注射の跡を口で吸って、赤くする者が多かったことを思い出した。膀胱へのBCG注入治療は、多くの副作用を伴う。排尿痛、頻尿が80%の患者に生じ、肉眼的血尿が70%、排尿困難が30%、尿道痛や残尿感、陰茎浮腫等が生じる。また、60%の患者が発熱し、関節痛、下腹部痛、下腹部圧迫感が生じることもある。厳しい副作用として、38℃以上の発熱や継続、全身消耗衰弱、肺炎、咳、胸部痛、目のかすみまで発症例がある。これらの重篤症状はBCGの全身感染による結果だ。BCGがどの様な経路で全身に展開するのだろうか。

 1月末から始まったBCG注入治療は現在半ばを越えた。2回目の治療のため待合で待機していると、看護師さんから名前を呼ばれた。何事かと思い話を聞くと、初回のBCG治療後の副作用の確認であった。頻尿以外には特にない旨答えた。3回目の治療時にも看護師さんから同じ質問を受け、今後も治療を継続するか否かを問われた。副作用で苦しむ患者が多いのであろう。副作用が酷く、途中で治療を断念するケースも少なくないと聞いている。

 BCGの膀胱内注入が3回目を終えた頃、自分の副作用の傾向が見えてきた。初回の注入後、排尿回数は15,6回を数えたが、2回目を過ぎてから12,3回に減少し始めたのだ。尿漏れはBCG注入前から生じていたので、副作用の範疇外だ。頻尿以外の副作用は、血尿を含め自覚していない。ただ2回目以降、感染症予防のため抗生剤3日分が処方された。帰宅してから昼食後に服用すると疲労感が強まり、ベッドに身を横たえることになった。BCG、通院疲労、抗生剤の複合作用ではないかと推察している。翌日は元の体調に戻っていた。この程度なら治療の継続は全く問題なしだ。

 BCG注入治療は、BCGがガン細胞を直接攻撃する訳ではない。結核菌が膀胱粘膜に接触することで膀胱内免疫が刺激され、免疫活動が活発になる事を利用する治療法だ。人体が有する自然治癒力の活用である。抗ガン剤注入より治療効果が高い由縁でもある。問題は、副作用を抑制し、かつ治療効果を高める方策を如何にするかだ。人体の免疫の殆どは、腸管免疫に依存しているから、まずは腸内環境の向上維持であろう。悪玉菌を減らし善玉菌を増やす。免疫細胞の増殖を助け、身体全体の代謝機能を高める食生活を試みることだ。高齢者は通常の食事でも、栄養物の吸収と利用効率は若い時代に比べて極めて低下している。消化吸収の良い食物の選択が必要だ。また栄養物のバランスだけでなく、絶対量が大事である事は論を待たない。

 自分は、縁あって22年前に三石巌先生の分子栄養学を知り、お弟子さんである井手先生の勉強会に長期間参加してきた。今振り返ると、分子栄養学との出会いは僥倖以外の何物でもない想いだ。「高タンパク+メガビタミン+抗活性酸素」が三石分子栄養学の基本である。特に、人体が必要とするビタミン量は個人差が大きく、例えば可溶性ビタミンで100倍、脂溶性ビタミンで10倍の個人差があると言われている。ビタミンEは、或る一定量以上摂取すると病理効果が著しくなる事も学んだ。BCG注入治療のスケジュールが決まり、起こりうる副作用対策の検討を始めた。実行に移行する時間は十分に有った。

 具体的には、腸内活性化のため乳酸菌飲料や乳酸菌物質及び可溶性食物繊維摂取の増強、免疫細胞産生に不可欠な含硫アミノ酸摂取の強化と、これらの代謝に必要なビタミン、ミネラル類の増強を行った。通常タンパク質の摂取量は、従来通りで可であると判断した。血管の柔軟性と血流は、代謝を援助する要因である。また、身体全体の代謝を活発にさせるため、各種食品と栄養補助食品を見直し、摂取方法を検討し直した。これらの対策により、BCGの副作用がどの程度生じるかは興味があった。結果は、排尿痛や血尿はなく、頻尿のみで頻尿回数は予想回数を下回っていた。それ以外、副作用はなく、注入当日を除き平常通りの日常生活が可能であった。薬物による副作用は個人差が極めて大きいことはよく知られている。個人が出来る唯一の対策は、現状の自分に適合する栄養条件の見直しである。

 BCG注入治療は来月半ばで終了し、その後定期検査が5年間続くことになる。当面は3ヶ月毎の膀胱内視鏡による肉眼検査であろう。そこで腫瘍が見つかった場合、再切除となるのか、BCGの再開となるのかは予測の限りではない。腫瘍が筋肉層に湿潤すれば、膀胱全摘、人工膀胱手術となる。定期検査が如何に面倒であっても、腫瘍を初期状態で発見することが最悪の事態を防ぐ唯一の手段である。主治医は膀胱ガン・腎盂ガン治療のスペシャリストであり、自分の腎盂ガンを初期状態で発見してくれた医師でもある。信頼出来る医師との出会いもまた、運命の然らしめる結果であると思っている。

 今回の治療により完治の保証はない。再発率が低下するだけだ。人が生きていく上で「絶対」はあり得ない。高齢者の身体は、日々変化を繰り返し老化が進行する。人体部品たる臓器機能低下の進行が留まることはない。病から目を逸らさず、諦めることなく、向かい合って生きることだ。前立腺ガン、腎盂ガンそして膀胱ガン、これで終わりにしたいのは切なる願いでもある。

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