伝蔵荘日誌

【伝蔵荘日誌】2018年12月21日:膀胱ガン治療は続く GP生

 12月8日の日誌の続きである。11月末に尿道から手術用内視鏡を挿入して、膀胱粘膜に発生したガン腫瘍4カ所を切除した。手術翌日、膀胱内に抗ガン剤を注入して、目視出来ない微細なガン細胞に対する治療を行った。この治療でも再発の可能性は50%あると説明されている。更に、膀胱ガンは腫瘍の悪性度により、同じ治療法でも再発率は大きく変わる様だ。悪性度は、切除した細胞の病理検査で判定される。先日、病理検査の結果を聞く目的で病院を訪れた。

 膀胱ガンのステージは、膀胱ガンの深さ、リンパ節転移の有無、遠隔転移の有無の三要素によりステージが決定されるようだ。膀胱内から切除された腫瘍の病理検査の結果、病巣の深度により、表在性ガンと浸潤性ガンに分類される。膀胱構造は内側から粘膜、粘膜下層、筋層、脂肪よりなっている。腫瘍が粘膜まで留まっている場合は、表在性ガンと呼ばれている。病理検査の結果は、その後の治療法を決める決定的要因となる。目視できる腫瘍は完全に切除しても、病理検査結果を見なければ、ガンのステージの最終判断は出来ないからだ。

 主治医の説明は、検査部門の病理組織診断報告書に従って行われた。自分のガンは、高異度湿潤性尿路上皮癌であり、悪性度は高いと診断された。採取された試料は、目視できる腫瘍粘膜部とその腫瘍下部筋層の二種であった。この結果、腫瘍は粘膜層に浸潤しているが、筋層への湿潤は認められなかった。自分のガンは、表在性ガンでステージT1との診断であった。筋層まで浸潤しているとしたら、今後の治療法は全く異なるものとなろう。

 腫瘍摘出手術で全快とならないのが、膀胱ガンの厄介な所だ。他のガンであれば、身体部位への転移が認められなければ、局所摘出で完治する可能性は高い。膀胱ガンが再発しやすいのは、膀胱粘膜や切除した筋層に存在するかも知れない微細なガン細胞の存在が否定できないからだ。これらは膀胱内視鏡で目視できないから厄介である。切除だけの治療での再発率が50%である由縁だ。病理検査の結果、自分のガンは、High−gradeと表示されていた。主治医は、この先さらなる治療が必要であるとの診断であった。万が一、再発により筋層まで浸潤した場合、膀胱全摘となることを防ぐためである。

 膀胱内視鏡による切除を行ってから8週間以内に、同じ術式により膀胱内組織を採取して病理検査を行い、その後の治療に進むのがベストの選択であると、主治医から説明を受けた。この検査手術をせず、次の治療に進むことも可能で有るとも言われた。手術入院ともなれば、保険適用であっても、それなりの費用は掛かる。主治医は、その点を配慮しての物言いのようだ。自分は、費用はともかく、主治医がベストと考える手順に従う旨、回答した。

 問題は手術日である。主治医はできるだけ早い方が良いとの意見であった。主治医は今月末でこの病院を退職して、都内の他の医療機関に移ることになっている。年内に入院すれば、執刀は現在の主治医であっても、その後の治療は後継の別の医師になる。後継者は既に決まっていて、自分が知っている医師であった。今年6月、突然の血尿に見舞われ、何日も止まらなかった。病院の泌尿器科に急遽電話して、検査を行ったのがこの医師である。左腎臓の腎盂部に腫瘍があることを見つけてくれた医師でもあった。新しい主治医は膀胱ガンと腎臓ガンの専門医でもある。主治医に来年最も早い手術入院をお願いすると、1月3日入院4日手術でスケジュールを決めてくれた。出来るだけ早い方が良いとの判断であったようだ。

 この日の診察後、手術前の諸検査をおこなった。血液検査、胸部と腹部のレントゲン、心電計、呼吸機能検査等である。手術同意書は診察室で書いて提出したが、問題は麻酔であった。前回の手術は下半身麻酔であったが、日誌にも書いた通り、若い医師は局所麻酔後、麻酔針の脊椎への挿入が行えず、最後は麻酔科医の応援を得て事なきをえた。5年前の下半身麻酔時は、泌尿器科の主治医が問題なく行った。その時も、貴方の躰は針が入れにくいと言われていた。あれから5年、身体は更に老化が進行しているはずだ。前回の事例から、今回は麻酔を麻酔部で行うことになり、麻酔部の担当医師と面談を行った。麻酔医師は最初から全身麻酔を勧めた。患者の心身に対する負担が少ないからだ。前回の腎臓摘出手術の経験から、体内に入る薬物の種類は半端ではないし、自律呼吸が出来ないので酸素送気チューブを気管に挿入する必要もある。協議の結果、下半身麻酔を第一選択とし、不可の場合、全身麻酔に切り替える旨の同意書にサインをした。

 術後の病理検査で腫瘍が目視されれば、そのまま切除となるし、されない場合でも、前回の切除後を中心に組織を採取し検査に回されることになろう。いずれの場合でも、その後の治療はBCGの注入となる。BCGは子供の頃結核の予防ワクチンとして注射された経験がある。今回は膀胱ガン治療の切り札的存在である。術後6週間にわたり週1回の割合で膀胱に注入し、2時間ほど排尿を我慢し保持するようだ。膀胱上皮ガンでは、第一選択とされている治療法である。頻尿、排尿痛、発熱等の副作用は避けて通れないようだ。この治療を行っても、再発率は20〜30%である。従って、細胞診、・膀胱内視鏡検査で定期的に観察し、再発を早期に発見することが非常に重要となる。最初の2年間は3ヶ月毎、以降1年ごとの検査になるようだ。

 5年前に前立腺ガンが発症し、今年7月の腎盂ガン手術、そして11月の膀胱腫瘍摘出手術と泌尿器系病が連続的に生じている。発ガンの直接原因は、医学的に証明はされてはおらず、推測の域を出ない。それでも身体の老化により代謝機能が衰えてきている事が間接要因である事は間違い無いだろう。老化による身体異常は人様々だ。生来のDNAの違い、食生活を中心にした生活習慣やストレス感受性の違いが、永い年月を経て身体の弱点部に発病するのだろう。自分の場合、他の臓器は全く健全であるから、泌尿器系に弱点を有することは間違い無い。20年以上前に縁あって学んだ分子栄養学の知見に基づいた食生活を行ってきたものの、加齢の進行も有り、泌尿器の弱点は補い切れなかったものと考えている。

 幸運要素は2点ある。1つは泌尿器以外は健全である事、もう一つは膀胱ガンが粘膜層に留まり、筋層に届いていない上皮ガンである事だ。完治するか否かは神のみぞ知る領域でも、万が一再発しても定期観察で早期発見、早期治療が可能で有り、膀胱全摘が避けられる可能性が高いことだ。ただし表在性ガンであっても悪性度が非常に高いガンは、再発を繰り返すうちに悪性度が進み、深達度が上昇するタイプもあり、BCGの膀胱内注入治療に反応しないガンもあるようだ。これらの場合、治療法は膀胱全摘となる。自分の膀胱ガンは悪性度が極めて高いと言われている為、観察結果、最悪は膀胱摘出手術を覚悟しておく必要がある。

 この泌尿器科では膀胱全摘を腹腔鏡手術により行っているようだ。問題は尿を溜める機能を有する膀胱を切除した後の尿路変更を如何するかである。従来は体外に尿パック取り付ける方法や回腸の一部を切り取り膀胱の代用にする方法がとられてきた。この病院では代用膀胱を体内に埋め込み、尿管と尿道を接続する方法を第一選択としているようだ。この手術は、膀胱摘出の後継続して行うそうだ。

 危機管理の要諦は「最悪の事態を想定して備えろ」である。人の病に対しても同じ事が言える。自分の場合、膀胱癌巣が筋層まで達する可能性は極めて少ないと主治医は言うが、最悪の可能性はゼロではない。人体は生き物である。如何なる名医でも、今の段階で全摘は絶対ないとは言い切れない。念のために確認して見たところ、同じ答えが返ってきた。当然である。ならば自らが最悪の事態を想定し、治療法を確認しておくことは必須事項なのだ。

 人には当然寿命がある。老化が進むにつれ病が発症することは避けられない。人に生きる意欲と使命が有るとすれば、肉体の補修に最大限の努力をしなければならない。齢80歳を目前にした今回の病は、生きる試練と考えている。困難から眼を逸らさず、真直ぐ見据えて向かい合うことが、生きている証であると思う。来年は正月が明けぬ内の入院手術となろう。結果は如何あれ、次の治療のステップは決まっている。新しい主治医との信頼関係構築も目標の1つとなろう。入院までの残り少ない時間は有効に過ごしたいと思っている。

目次に戻る