伝蔵荘日誌

【伝蔵荘日誌】2018年12月14日: ファーウエイと米中戦争 T.G.

 ファーウエイの女性CFOがカナダで逮捕拘留された。容疑は米金融機関へのイラン制裁逃れの虚偽説明 だという。パスポートを7通も所有し、カナダ在住だというからいかがわしい。ファーウエイと言えば中国きっての大企業である。その副社長級幹部がなぜパスポートを7通も持たねばならないのか。将来は大企業ファーウエイの最高責任者と目される立場でなぜカナダで暮らさなければならないのか。アメリカの仇をなぜカナダが取るのか。今日になって保釈されたらしいが、国外逃亡を防ぐためにパスポート没収、GPS付きの電子タグを常に足首に装着が条件だという。単なる金銭亡者のカルロス・ゴーン逮捕とはまったく様相や次元が違う国際級スキャンダルである。

 この問題についての内外の報道は、米中貿易戦争、5世代通信(5G)の覇権争い、サイバー戦争の一端などと、物事を矮小化する傾向がある。中国に対してトランプが仕掛ける貿易戦争の延長線で物事を考えている。それは大いに違うのではないか。これは仮想敵中国に対してアメリカが突きつけたハルノートなのではないか。

 ハルノートは太平洋戦争直前、アメリカの国防長官コーデル・ハルが日本に突きつけた覚書で、事実上の最後通牒である。それまであれこれ対米交渉を続けてきた日本は、このハルノートに追い詰められてなすすべがなくなり、真珠湾攻撃の暴挙に出て惨敗した。狙いどおり日本を暴発させて、ヒトラードイツと日本を打ち負かしたアメリカは世界の超大国になった。

 日露戦争のポーツマス講和会議の後、それまで日本に肩入れしていたアメリカは次第に日本に警戒心を抱くようになる。自信をつけた日本がやがて軍事力を強化し、アメリカの脅威になるのではないかと危惧し始める。いわゆる仮想敵国化である。その後、日本が満州国を設立し、支那と紛争を起こすようになると、あれこれ難癖を付けて日本を国連脱退に追い込む。軍事国家日本が枢軸国のドイツ、イタリアと三国同盟を結ぶとアメリカの不信感は頂点に達した。当時の日本がアメリカの権益などまったく侵していなかったにもかかわらず、日本排除に動き始める。今の中国の状況がそれに似ている。

 1939年、アメリカは日米通商条約を破棄し、イギリス、オランダ、支那と結んで日本資産の凍結,鉄鉱石、石油禁輸など経済封鎖に踏み切る。いわゆるABCD包囲網である。今のイギリス、オーストラリア、ニュージーランドを巻き込んだファーウエイ排除に似ている。この時点で資源のない日本は打つ手がなくなっていた。最終的にハルノートが突きつけたのは、満州国など日本の大陸利権の放棄、支那大陸、仏印からの無条件撤退、戦争中の蒋介石政権の支持、三国同盟に事実上の破棄など、当時の日本が飲めるはずもない無理難題であった。戦後の東京裁判でインドのパール判事は「ハル・ノートのようなものを突きつけられれば、モナコ公国やルクセンブルク大公国でさえ戦争に訴えただろう」と述べたほどである。

 トランプが仕掛けているのは対中貿易戦争などではない。仮想敵国中国を叩き潰すための大戦略の一環である。貿易に限れば米中はウインウインの関係にある。別に対立する必要はない。アメリカのドル箱商品iPhoneはすべてメイドインチャイナである。中国がなければ作れない。ファーウエイの通信機器が日本や欧米で売れるのは価格が安いからである。別にファーウエイの技術が優れているからではない。かってNTTの通信設備はNEC、富士通、沖電気のNTT御三家が納めていた。今NTTやソフトバンクがファーウエイに傾くのは、なんと言っても価格の安さである。NECや富士通が逆立ちしても同じ価格では作れない。アメリカを含めて世界中が人件費の安い中国工場の恩恵に与っているのだ。にもかかわらずアメリカは中国を安全保障を脅かす仮想敵国と認めた。かっての日本と同じである。後はいつハルノートをどういう形で突きつけるかだ。

 強勢化するドイツ、日本を打ち負かしたアメリカは、世界の覇権を握った。今のアメリカが目論んでいるのは、増長して安全保障の脅威と化した中国を打ち破り、再びアメリカの世界覇権を確実なものにする事である。どうやらトランプだけの専売特許ではなく、議会下院を握る民主党もより強硬らしい。こうなると中国排除はアメリカの国是で、アメリカが中国に条件闘争を仕掛けているのではない。貿易戦争で被る不利益はそのための覚悟の上のコストである。アメリカが被る貿易上の不利益は、中国を軍事的に打ち負かすに必要なコストを大幅に下回る。

 日本では米中戦争の行方に、どっち付かずの高みの見物的報道が多い。甚だしきは米中いずれに付くのが正義かなどと言う馬鹿げた論調も見かける。朝日などの反米的なリベラルマスコミに多く見られる。バカも休み休み言え。勝ち馬のアメリカに決まっているだろう。中国に付いて何の得や見通しがあるというのか。にわか成金だが技術力のない中国は戦闘機のエンジンすら作れないのだ。どう抗ってもアメリカには勝てない。経済成長の鈍化した中国経済は、不合理極まりない中国共産党一党独裁を支えきれなくなっている。戦前、アメリカと袂を分かって負け犬ドイツに付いた日本は、惨めな敗戦の上、いまだに国連では敵国条項扱いで、真の独立国になれていない。その愚を再び犯してはいけない。アメリカはやるときは徹底的にやるすこぶる強欲な国で、中途半端にお茶は濁さない。やっとのことでNTTとKDDIとソフトバンクがファーウエイ排除を決めたらしいが、遅きに失する。大局観を欠いた戦略オンチ日本を絵に描いたようだ。

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