伝蔵荘日誌

【伝蔵荘日誌】2018年11月30日:カルロス・ゴーンと日産 T.G.

 昔は日産の車が大好きで、日産の車しか乗らなかった。技術の日産、営業のトヨタといわれ、大衆迎合の80点主義のトヨタ車には乗る気が起きなかった。自分の稼ぎで初めて買った車が初代日産サニーである。新車で50万円、わずか1000ccのエンジンでよく走った。これにSa君やMa君等と乗って、あちこちロングドライブに出掛けた。当時の日本は高速道路はおろか、舗装された道路もろくになく、悪路を何万キロも走り回ったが、故障したことは一度もなかった。当時サファリラリーの全盛期で、日本からは日産車が参加していた。アフリカのジャングルやサバンナを土煙を上げて疾走するブルーバードが実に格好良く見え、一時期乗ったことがある。

 最後に乗った日産車は小型車のチェリーである。当時は珍しかった前輪駆動車で、車重わずか700キロ。それにSUツインキャブでチューンアップした1200ccエンジンを搭載すると、じゃじゃ馬のような走りで痛快極まりなかったが、とても家族向きと言える車ではなく、息子が生まれたのを潮に買い換えた。その頃の日産は、スカイラインやフェアレディZのような、技術の日産らしからぬ凡庸な車しか作らなくなっていた。もう買いたくなるような日産車は見当たらず、別の会社の車にした。以来今に至るまで日産車に興味が向いたことは一度もない。

 日産の会長、カルロス・ゴーンが東京地検に逮捕された。容疑は有価証券報告書の虚偽記載だという。この数日、テレビ新聞はこのスキャンダルで大賑わいである。やれ日産のクーデターだとか、日本の陰謀だとか、こんな形式犯で世界的な経営者をしょっ引くのは如何なものかとか、マスコミ寄ってたかっての井戸端会議、床屋談義を繰り広げているが、事実や本質を突いたものは見かけない。まだ容疑者の段階だから東京地検が逮捕要件になった罪状をつまびらかにするわけもなく、もうしばらくこの曖昧模糊とした報道が続くだろう。

 その中で、ゴーンの初歩的すぎる犯罪に拍子抜けというアゴラの記事が光っている。元読売の記者でジャーナリストの中村仁氏が書いたものだが、瀕死の日産を救った異能の経営者が、なぜこんな初歩的なミスを犯したのか。彼の異能さは単にコストカットやリストラをすることに限られていて、製品開発、経理、財務、税務など、経営全体をみる経験、知識が欠けていたとしか思えない。それに加え、ゴーンは病的なケチであったとしか思えないと断じている。つまり異能の経営者などではないと言うことだ。たしかに彼がやったことはリストラとコストカットだけで、日産の技術や商品力を高めたわけではない。

 高度成長期の小生が見限った頃の日産は、川又、石原と言った政治好きの社長と、川又に引き立てられて経営に介入した労組委員長の塩路らが入り乱れて社業をないがしろにし、ろくな車も作れず、結果として巨額の赤字を積み上げた。その後を引き継いだ社長等も経営力が乏しく、何も手を打てないまま90年代末には有利子負債2兆円の、潰れる寸前のボロ会社に成り果てていた。そこへ乗り込んできた進駐軍のマッカーサー、ゴーンがやったのが、工場閉鎖や下請けの切り捨てなどのコストカットと、2万人にも及ぶ社員の首切り。たったそれだけであっという間にV字回復。まるで手品を見ているようである。ゴーンがやったのはコストカットだけで、車会社の仕事は何もしていないのだ。それが有能なCEOと言うから泣けてくる。日産の経営とはいったい何なのか。日本にゴーンはいないのか。

 ゴーンはCEOと言う立場で有価証券報告書を誤魔化し、しこたま稼いだ金で故国ブラジルの大統領になろうとしたという話が聞こえてくる。いくらコストカットに有能でも、これほど金に汚い男が一国の大統領にはなれない。なれたらブラジルが気の毒だ。それ以上に、こんな男に会社経営を牛耳られた日産と言う会社が情けなさ過ぎる。フランス大統領マクロンは、ゴーンを操って日産の経営権を手にしようと目論んでいた。日産経営陣のクーデターが起きなかったら、そうなっていた可能性大である。そんなことになるのだったら、ゴーンが来る前に日産を潰しておいた方がよかったのかも知れない。日本の自動車産業のリストラ、コストカットとして。通産省が日本には自動車メーカーは多すぎると言っていた時期もある。車好きにとって、ろくな車も作れない日産はもはや不要な会社である。何の期待もない。

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