伝蔵荘日誌

【伝蔵荘日誌】2018年11月5日:愛犬NANAのガン治療・一喜一憂 GP生

 4月14日付の日誌「愛犬のガン治療」の続きである。我が家で生活する三匹の犬の中で、一番若い10歳のシーズー犬NANAが、リンパ腫である事が判ったのは3月中旬であった。今年に入って、NANAが寝ていることが多くなった事を深刻に受け止めなかったのは、自分の不覚であった。前回の日誌に書いように、日本獣医生命科学大学附属病院でガン治療が始まった。

 3月末に、主治医からNANAのリンパ系腫瘍の遺伝子検査結果と、犬リンパ球表面マーカー解析結果の説明を受けた。健康犬では存在しないマーカーが多数検出され、Tリンパ球の異常な増殖が確認された結果、悪性腫瘍と診断された。通常では10,000前後の白血球数が104,000、正常値は4,000以下のリンパ球数が98,000以上検出されたのだから、当然の結果であろう。4月初めから、抗ガン剤二ムスチンの注射が始まった。治療は3週間インターバルが目標であった。ステロイド剤は、朝食時に服用が決まった。ステロイド剤は、ガンを抑制する効果があるとのことであった。

 三週間に一度の大学病院通いは、毎回、朝8時半、NANAを車の助手席に乗せる事から始まった。車中のNANAは、狭い助手席をうろうろし、立ち上がったり座ったりして、落ち着かない様子であった。賢いNANAは、自分の行く先と、そこで起こる辛い環境を予測しているようであった。大学病院の駐車場は狭く、9時過ぎには満車になってしまう。溢れた車は、校門前にある民間駐車場の無料駐車券を貰うことになった。待合は、犬を連れた飼い主達で溢れ、大型犬は飼い主にピッタリ寄り添って座り、時折、飼い主の顔を見上げていた。診察室は八部屋を数え、各部屋の助手が、飼い主の姓の後に犬の名前を付けて、呼び出しを行っていた。犬といえども、間違い無く家族の一員である。NANAは、自分の膝の上で、しがみつくようにして温和しくしていた。

 治療は腫瘍内科の若い医師による問診から始まった。日常生活での異常の有無、特に、食欲や嘔吐は毎回質問された。抗ガン剤の副作用が顕著に現れる症状だからだ。その後、NANAは研修医の女性に抱かれ、検査室へ連れて行かれた。不安そうに自分を見つめるNANAに、大丈夫だよと何時も声をかけた。2時間以上をかけ、血液検査、胸部レントゲン、脾臓エコー検査が行われた。血液検査は、白血球・リンパ球と肝臓マーカーがポイントである。抗ガン剤とステロイド剤の影響で、ALT、ALP、GGT等の肝臓マーカー値は、次第に高値を示すようになった。検査の結果、感染症の疑いが無ければ、最後に抗ガン剤の注射が行われた。大学病院への通院は3週間に一度であるため、経過観察のため、獣医科病院で一週間毎に血液検査を行った。

 最初の抗ガン剤量は25rであった。一週間後の血液検査で、リンパ球数は98,000であり、翌週の検査でも83,000であった。5月の連休明けの大学病院での検査でも同様な結果であり、顕著な効果が認められなかった。抗ガン剤は30rに増量された。最初の抗ガン剤注射後、NANAは一週間近く食欲不振が続いた。朝8時の朝食が食べられないのだ。全食残す日が続いた。それでも、午後には完食したし、夕方5時の食事は残さず食べていたから、起きがけに、何らかの不調が起きていたのだろう。抗ガン剤を増量した翌日の朝食を心配したが、完食が続いたので安堵した。

 抗ガン剤を30rに増量しても、その後のリンパ球数に大きな変化は見られなかった。5月後半の通院では、抗ガン剤を更に増量するか、種類を替えるかの判断に迫られた。種類を換えれば、新たな副作用が心配になる。主治医と協議した結果、従来の抗ガン剤を35rに増量することになった。NANAの身体には慣れた薬であっても、量が増えれば何が起こるか判らない。日常生活を詳細に観察して異常の有無を確かめるしかない。幸いなことに、NANAの食欲を始め、室内での仕草や動きは平常と変わりは無かった。

 抗ガン剤が35rに増量された翌週の検査では、リンパ球数36,000と大きく低下していた。この傾向は次週の検査でも継続されていたことは、無上の喜びであった。三週目の大学病院の検査でも同じ傾向が続き、脾臓エコー検査でも、リンパ腫特有の影が薄れてきた。これで、抗ガン剤注入量は35rで定着した。翌週以降、2回の血液検査の結果、リンパ球数は20,000台に達した。

 6月の大学病院での検査結果も同じ傾向が続き、7月中旬の抗ガン剤注入後は、検査毎に、リンパ球数は10,000台に安定したのが確認された。四肢や耳下にあった、1p大のリンパ腫特有のシコリも小さくなり、部位によってはシコリが感じられなくなっていた。もう一息と思っていた所、今度は飼い主たる自分が左腎臓の腎盂にガンが見つかり、7月末に手術をする羽目になった。NANAの主治医に事情を話し、三週間後の通院が出来ない旨了解を得た。次回の通院は8月中旬の予約となった。

 8月の通院時、リンパ球数は10,000台前半を維持していた。一週間後の検査では、リンパ球数は10,000を割り、8月末の通院検査では、5,600まで低下した。もう一歩である。一週間後には,4,500まで低下し、9月後半の通院検査では2,900であった。念のため35rの注射は行われた。

 一週間後の検査でリンバ球数は2,000となり、10月半ばの通院検査は1,900であった。この結果をもって抗ガン剤治療は終了となった。主治医から、後は、獣医科病院で定期検査を行い、異常時には大学病院に連絡を取るよう指示された。6ヶ月に及ぶNANAのリンパ腫治療は幕を閉じた。

 リンパ球数が8月以降順調に低下していくことに安堵したもつかの間、新たな心配の種が生じた。8月下旬、NANAに激しい下痢が続いたのだ。排便のためトイレに行ったNANAが、カーペットの上に小さい水状の便を落としながら歩くようになったのだ。獣医科病院へ連れて行くと、この季節には良く起こる症状で、気温や気圧変化が原因の様だと説明された。下痢止めと抗生剤を処方され2,3日で安定したが、10日後に再び同じ症状が生じた。以降、10日ごとに二回、薬物投与を続けた。排便が安定したのは9月末であった。

 所が、今度は10月に入って、NANAの皮膚の炎症が激しくなってきた。背中の皮膚が大きなフケとなって剥がれ、胸や背中が赤くなってきたのだ。8月末に、リンパ球数が10,000を切り、抗ガン剤の効果が顕著に認められるようになった結果、ステロイド剤の投与は中止なった。そのため、抑えられていたアレルギー性皮膚炎が、以前に増して激しい状態で再発したのだ。4月の初めから服用してきたステロイド剤による抑制効果で、皮膚は正常色に戻り、脱毛は止まり、抜け落ちた体毛も次第に形を整えてきたが、当然、一時的な効果でしかなかったのだ。

 以前から、NANAは皮膚アレルギー体質であった。皮膚アレルギーに効果のあるロイヤルカナン・セレクトスキンケアによる食事療法と、一週間に一度の天然素材の赤ちゃん用石けんを使ったシャンプーで症状を抑制してきた。ステロイド剤は一時的に症状を抑える薬だ。それを4ヶ月もの長きに亘り服用した結果、中断後、反動により、以前より症状が悪化したと思われる。10月に入り、平均37.8〜38.0度のNANAの朝食前体温は、38.4〜38.5度に上昇し、最高39.1を示した。獣医科病院では感染症を疑い、抗生剤の注射を行った。その後、暫く安定していた体温は、再び上昇してきた。激しい皮膚アレルギー症状が、体温を上昇させていた可能性は捨てきれなかった。

 所が、10月半ばNANAは、左足を引きずるように歩く様になった。怪我を心配して獣医科病院に連れて行くと、左足の裏が真っ赤に腫れ上がっていた。他の脚も程度の違いはあれ、同様の状態であった。激しいアレルギー症状が、脚の裏まで発生していたのだ。ステロイド剤服用の反動である。治療にステロイド剤は使えない。犬のアレルギー新薬、アポギル錠10日分を処方して貰った。2年前に発売された薬で、全身に作用するステロイド剤と異なり、患部にのみ作用する優れ物だそうだ。薬は、朝夕二回の食事時に服用させた。服用三日目に脚裏の腫れが引き始め、皮膚の赤味も薄れた感じであった。体温は低下傾向であった。この薬は極めて高価である事は難点だが、NANAは救われそうだ。11月に入っても、服用量を減らして継続している。結果は良好のようだ。目立った副作用も見られないのは安心材料だ。

 NANAのガン治療は一段落したが、血液検査による各種マーカーの測定が何時まで続くか判らない。振り返れば、NANAとの出会いは、何気なく立ち寄ったペットショップでの一目惚れであった。思わず抱き上げたものの別れが辛くて、その場で購入を決めた犬だ。あれから10年が経過した。頭の良さは三匹中、群を抜いているが、身体上のトラブルは絶える事が無い。これからも、最後まで手が掛かり、一喜一憂は続くことになるだろう。ペット犬とは言え我が子同然、家族の一員であるのだから飼育に手抜きは出来ない。犬達は、自分や家族の心を癒やしてくれる貴重な存在でもあるのだから。

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