伝蔵荘日誌

【伝蔵荘日誌】2018年9月30日:熱塩温泉山形屋 T.G.

 毎年恒例の昔の仲間会で、会津の熱塩温泉山形屋に出掛けた。磐越道の会津若松から喜多方を経て、山形の県境に近い熱塩温泉の温泉宿である。2食付き9800円という安さなので、さぞ鄙びた山奥の秘湯と思いきや、なかなか立派な建物である。将棋の名人戦が行われたこともあるそうで、ギャラリーに羽生名人の写真が飾ってある。以前家人と白布温泉に出掛けたとき、帰途米沢から峠越えで会津若松に出た。その際通りかかったことがあるが、熱塩温泉には気づかなかった。部屋に案内されて浴衣に着替え、さっそく温泉に入る。名の通り塩分が強い温泉で、源泉かけ流しの湯は熱くもなくヌルくもなく、ちょうどいい湯加減である。

 昔の仲間会は仙台二高出身者の会である。最初のうちはメンバーが6、7人いたらしいが、寄る年波で一人欠け二人欠けし、今は3人しか残っていない。それでは淋しいと千葉一高出身の小生が誘われて加わった。お互い50年以上の付き合いがある80近い爺さんばかりなので、一高も二高も関係ない。気心の知れた昔の仲間会には違いない。

 Ok君と二人で露天風呂に浸かって馬鹿話をしているうちに、どういう成り行きかトランプの話になった。アメリカ大統領のことである。どうしようもないバカ大統領だという。国連で聞くに堪えないバカ演説をした。あんな無教養な大統領ではアメリカが可哀想だと言う。アメリカはともかく、日本にとっては何の悪さもしないいい大統領ではないかというと、そんな事はない、そのうち関税で日本虐めが始まると言う。でもまだ始まっていいないうちはいい大統領だろう。何の文句があるのかと反論すると、日本だけの問題ではない、世界の恥だ。中国との貿易戦争は日本にも悪影響が出ると言う。そういう掛け合い漫才をしているところへほかの入浴客が話に割り込んできた。とんでもないバカ大統領だとOk君と波長が合ってしまい、話が止まらなくなる。ほうほうの体で湯から上がり部屋に戻った。Ok君とはその後しばらく湯船の漫談が続いたらしい。

 部屋に戻ったOk君がその話を蒸し返すと、Sa君やHa君もそうだそうだと同調して、とんでもない大統領だ、そのうち弾劾されるだろうと非難合戦になる。トランプが無教養で演説下手なバカ大統領であることは重々認めるが、日本にとっては悪い大統領ではない。少なくとも前任者のオバマやクリントンのようなあからさまな日本虐めはしていない。中国には関税かけまくりだが、日本が恐れる自動車関税は今のところ言ってこない。ケ小平が言うように、黒猫でも白猫でもネズミを捕るのがいい猫なのだ。他国の大統領の教養など、日本にとってはどうでもいいことではないかと言っても、誰も耳を貸そうとしない。理由もなく先入観で、安倍がモリカケのワルと決めつけるのと同じパターンである。年寄りの思い込みはことのほか強い。アメリカでもそうなのだろうか。

 夕食の時間になって食事処へ行く。なかなかの料理である。これで9800円は安い。少しボリュームが足りないが、年寄りにはちょうどいい。

 食事中もあれこれ話が弾んだ。Ok君が君らは終活をやっているかという。終活セミナーがあって勉強しに行ったのだそうだ。それを皮切りに終活の話になった。テーマはもっぱら遺言と墓じまいである。

 遺言の話である。「セミナーで教わったが、遺言を残しておかないと後が大変だ。遺言を書いておけば相続で揉めることはない。自分の好きなように相続人を決められる」とOk君が言う。「それは違う。遺言にどう書こうと、すべての相続権者には法律で遺留分が決められている。それを無視して相続人を特定することは出来ない」と言うと、「君は不勉強だ。遺言は法に優先する。そんなことも知らないのか。だから終活は大事だ。ぜひ終活セミナーを聞きに行け」と聞かない。そのセミナーの講師は相続の何を教えているのだろう。終活老人を惑わすセミナーなんてろくでもない。

 墓じまいの話である。亡くなられたOk君のお父上がさる霊園に立派な墓を作られた。管理料が年10万円かかる。これを子供に残すと負担になるから、自分の目の黒いうちに墓じまいをするつもりだという。墓じまいした後は霊園に永代供養を依頼するのだという。霊園に相談したら、墓の取り壊しと現状復帰に200万円要求されたと言う。住宅1軒の取り壊し費用と同じだ。よほど立派な墓なのだろう。あと20年は生きられないのだから、それを管理料に充てた方が手間もかからないし、安上がりではないかと言うと、それでは後に残された子供に迷惑をかける。自分が始末するしかないという。持つものの悩みである。まだ墓も作っていない小生には、そういう終活の苦労もあるものかと感心するしかない。

 翌日宿を出て車で喜多方駅に向かう。Ha君が現役の頃、仕事で訪れたことがある大和川酒造へ行こうというので立ち寄った。創業寛政二年の歴史ある会津の酒蔵だそうだ。大和川という銘柄は知らなかったが、そこそこ有名な酒らしい。店内のケースに1本1万5千円の純米大吟醸が並んでいる。この値段ならさぞかし美酒だろう。土産に買って帰りたいところだが、帰りは新白河で車を下ろされて、その先は新幹線に乗らねばならない。重い酒瓶を抱えて新幹線に乗る気にならず、買いそびれた。

 それやこれやで楽しい昔の仲間会は終わった。幹事のSa君が、来年の春は塩原のおしらじ滝を見て、その先の秘湯に泊まると言う計画を披露する。来年もメンバーが一人も欠けることなく、無事に昔の仲間会が出来ますように。

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