伝蔵荘日誌

【伝蔵荘日誌】2018年6月17日: 血尿の先に・新たなるガン発症か? GP生

 先日の日誌の続きである。血尿時に血液検査と膀胱内視鏡検査、それに尿検査を行った。出血部位は膀胱下部であろうと推測されたが、医師は腎臓からの出血も疑い、診察後、腎臓の造影剤CT検査を行った。血尿サンプルは細胞診が行われることになった。一週間後の診察当日、主治医から、「出血は、前立腺ガン放射線治療の後遺症による放射線性膀胱炎と思われる。放射線により、前立腺に接する膀胱粘膜と血管が影響を受けていた。左腎盂に小さな腫瘍らしき影が見られた。また、尿中細胞のN/C比が大きく、腫瘍の可能性を示している。」と説明された。

 造影剤を注射してのCTは、造影剤が存在する部位は白く映り、しからざる部位は影が出来る。今回のCTでは、左腎臓の腎盂に小さな影が出来ていた。腫瘍部には造影剤が入らないからだ。N/C比のNは細胞核、Cは細胞質を表し、それの比は、核と細胞質との大きさ割合を示す値である。細胞分裂の盛んな部位の細胞は核が大きい為、比の値は大きくなり、安定した細胞では、核が小さく、N/C比も小さくなる。細胞診検査は5段階で評価される。1,2段階は悪性所見無し、4,5段階では悪性所見、3段階は擬陽性(悪性の疑い)である。今回の細胞診では、N/C比は3であった。腎臓は、細胞分裂が盛んな臓器ではない。そこの細胞診がN/C比3を示した事は、何らかの異常が起きている証である。

 主治医は、「腎盂の腫瘍は悪性と良性がある。今までの症例から、N/C比3の場合、悪性7割、良性3割である。正確な診断のために、更なる検査が必要だ。」と続けた。さらなる検査は、腎臓部のMRI検査とカテーテルによる腎臓内部造影と細胞診である。内部造影検査は、カテーテルを膀胱から腎臓にまで挿入する検査で、手術室での下半身麻酔下で実施する為、入院が必要となる。カテーテル挿入による尿管の損傷は避けらず、2泊3日の入院中に尿管損傷の完治は出来ないだろう。出血状態によっては、暫くは尿管ステントを装着することになるかも知れない。主治医の説明の後、手術同意書に署名して検査入院を予約した。その後、尿検査、血液検査、心電図、それに胸部と腹部のレントゲン撮影等の入院前の検査を行った。MRI検査は、慈恵医大では直近の予約が取れず、提携しているAIC八重洲クリニックを紹介された。

 翌日、予約時間に検査病院を訪れた。検査は看護師による問診から始まった。次いで、医師による問診が続いた。待ち時間中、トイレ行きと、その後できるだけ水を飲むように勧められた。いよいよMRI検査だ。検査前に体重測定と簡易血液検査があった。指先に針を刺し、出血部位にセンサーを接触させてクレアチニン値を測定した。人間ドック協会の基準では、男性で1.00以下は正常、1.01から1.29は要注意、1.30以上は異常である。結果は0.59で、腎機能は全く正常と診断された。

 MRI検査では、腫瘍の大きさや周辺臓器への浸潤、腫瘍が良性か悪性かの診断が可能である。検査は、直接造影と造影剤を注射しての造影が行われた。以前、頭部のMRI検査をしたことがあるが、腹部検査は要領が違っていた。造影時に、深呼吸の後、少し息を吐いてから、呼吸を止める時間をヘッドホンで指示された。10秒、15秒、最大20秒だ。この間、少しでも呼吸があると映像が乱れる様で、何回か撮り直しとなった。自分は完全に呼吸を止めていたつもりでも、かすかな呼吸が有ったのかも知れない。右手に身体異常を医師に知らせる警報器を握ったまま、身体はがっちりベルトで固定されているから動かしようがない。担当技師と看護師は二人とも女性であったから、指示はソフトに聞こえた。全ての造影は40分以上を要して終了した。身体の拘束を解かれると、緊張感から解放されて休憩室の椅子に腰を下ろした。看護師がコップ一杯の水を持ってきて、飲むように勧められた。注入された造影剤を体外に早く出すためだと説明され、納得して飲みほした。

 造影剤MRI検査では、ガドリニウム造影剤と言う薬剤を腕の静脈に注射された。この薬剤はかなりの副作用を伴うようだ。軽い副作用では、吐き気、動悸、頭痛等だが、重いものは呼吸困難、意識障害と恐ろしい症状が並んでいる。軽い症状は100人に1人、重いものは10,000〜20,000人に1人との説明を受けた。喘息の持病を持つ者の発症率は、更に高いそうだ。持病、病歴、手術歴、服用薬等の質問を受けた後、ガドリニウム造影剤診察同意書にサインをした。

 現在の検査技術の進歩は著しい。昔は問診と聴診器に頼って診断した医者は、今では、如何なる検査をするかの判断が診断開始のようだ。検査の精密度が高くなるほど副作用は大きくなる。5年前、前立腺ガンが全身へ転移しているか否かを調べるため、造影剤を用いる骨シンチ検査を行った。前立腺ガンは骨に転移するから、必須の検査だ。検査時、担当技師に線量の強度を質問したが、少し強いですよと言うだけで、後は言葉を濁した。通常のX線の強度ではないはずだ。今後も、精密検査が続くことになろう。前立腺ガン治療後の膀胱後遺症の様に、障害が発生する可能性はゼロではない。帰宅後、就寝中の排尿はゼロから2回になった。翌日の排尿回数は通常の倍以上となり、排尿回数の安定が崩れた。造影剤の副作用か、下腹部に大量に浴びた磁気の影響かは判らない。放射線照射障害で過敏になった膀胱壁に、何らかの異常が生じている事に違いは無い。

 腎臓ガンは、その性質の違いから、腎盂ガン・尿管ガンと、それ以外の部位に発生するガンとに分けられるそうだ。今までの検査で、尿管異常は見つかっていない。主治医に自分の腫瘍は、良性と悪性の可能性はどちらが高いか質問すると、「良性の可能性はゼロではないが、悪性の可能性の方が高いのではないかと思う。」であった。腎盂の腫瘍は極めて小さいから、悪性であっても初期であろうと言われた。前回、腎臓の造影剤CT検査は5年前だ。この時には、左腎盂に異常はなかったのだから、これ以降の発症である事は間違い無い。

 MRI検査により精密な腫瘍部画像が提供されても、腫瘍の実相は逆行性腎盂造影を待つしかない。膀胱鏡を尿道から入れてから、更に膀胱内の尿管にカテーテル入れ、造影と腎盂内の尿を直接採取して細胞診を行う検査である。このカテーテルから造影剤を注入してX線撮影を行い、腎盂や尿管の形状を観察することもあるようだ。自分の場合は、検査入院の結果、腫瘍の実態が明らかになり、治療方針が決まるのは7月に入ってからと思われる。

 何故、腎盂に腫瘍が発生したのだろうか。父親からの遺伝で、腎臓細胞のDNAに弱点が存在している可能性は否定できない。5年前、前立腺ガン診断時に、浴びた放射線量は半端ではなかった。通常CTとレントゲン撮影、造影剤CT、骨シンチ検査、それに前立腺への高線量内部照射と外部照射等である。これらの放射線は短期間に集中した。放射線は細胞内のH2Oを分解する。分離したOは、酸化力の極めて高い活性酸素に換わり、細胞内の物質を酸化する。DNAが酸化されれば、一部がガン細胞に転化する事もあろう。人体はNK細胞を中心に免疫がガン細胞を消滅させるし、DNA自身も修復酵素の助けを借りて正常細胞に戻す機能を有する。発生した活性酸素に対抗するため、SODと呼ばれる抗酸化酵素が働くことにもある。これらの自然治癒力は加齢と共に減少するから、80歳近い老人の機能は、若い時の半分にも満たないだろう。従って、放射線を大量に浴びる前に、自然治癒力を補うため、大量の抗酸化物質を摂取して対抗することになる。この時期、大きなストレスに晒されれば、活性酸素に対抗する全ての能力は低下し、弱点臓器の細胞がガン化する可能性は捨てきれない。自分は、父親譲りの遺伝子を持つ腎臓が、ターゲットになったのかも知れない。幸い、残る1つの腎機能は異常なしだ。2つともアウトならば、人工透析しか生きる道はない。治療後の腎臓ケアーは必須である。

 左腎盂の腫瘍が良性である可能性が低ければ、治療法は1つしかない。左腎臓の切除である。悪性度が低く、小さなガンの場合は内視鏡的手術の可能性もあるようだ。術式はともかく、問題は術後の生活にある。主治医からは、1つの腎臓でも通常生活に問題は生じ無いと説明された。調べて見ると、残された腎臓への負担や治療後の傷を気にして、安静にする必要は無いようだ。残された腎臓の機能を維持するために適切な水分を摂取することは、尿路感染予防する上から重要だとあった。腎機能を助ける栄養の摂取は言うまでもない。残念ながら、今までのような生活は禁物である。

 ストレスの重なりが、5月に膀胱下部からの出血を招いたことは間違いがない。この出血がなければ、左腎盂腫瘍の発見は遅れた。今回のCT画像に見られる腫瘍の痕跡は、極めて小さいから、患部からの出血や背中・腰・脇腹の痛みや排尿痛は生じ無かった。これらは、病状が進行して生じる自覚症状である。自覚症状が出てからの診断では、転移の心配と治療の不安の中に身を投じることになる。

 腫瘍が進行して自覚症状が出るのは、かなり先のことになりそうだ。発症確認が遅れれば、老齢化は進行しているだろうし、体力は更に低下しているだろう。高齢故、治療が寿命を縮めることにもなり兼ねない。今回の出血は、災い転じて福をもたらしたのかも知れない。人の運命は、今回のように自ら選択できない偶然に方向付けされる事がある。良きにつけ悪しきにつけ、人には、目に見えない力が働いて居るのかも知れない。人知の及ばない力だ。今回、腫瘍発覚の経緯を考えると、自分の運命は、まだ見捨てられていなかったとの思いである。

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