伝蔵荘日誌

【伝蔵荘日誌】2018年6月12日: 血尿再び・前立腺ガン治療の後遺症? GP生

 先週半ば、朝一番の排尿時に激しい血尿に見舞われた。黒っぽい赤ワイン色の尿がほとばしり、便器内を真っ赤に染めた。何事が起こったのかと思った。ビタミンB群を多量に摂取すると尿はオレンジ色に染まるが、そんな生やさしい色ではなかった。所が、2回目の排尿時には、通常色の尿に戻っていた。その日は以降、異常色の排尿は無く安堵した。所が翌日の朝一番、尿は昨日より激しい血尿で、昨日を上回る赤ワイン色を呈した。排尿中の尿を見ると赤黒い一本の棒にしか見えなかった。2回目の排尿も同じ状態であった。

 5年前の5月中旬、激しい血尿に見舞われた。掛かりつけの泌尿器科で尿検、エコー、造影剤CTと血液検査を行った。その結果、腎臓と膀胱に異常は認められなかったが、PSA値が46を示し、前立腺ガンの疑いが極めて大きいとの診断であった。出血が何処で起きたのかは判らなかった。激しい血尿は4日目に止まったものの微量の出血はその後2日続いた。医師から慈恵医大付属病院の泌尿器科を紹介された。慈恵医大では尿検、血液検査、膀胱内視鏡検査、触診を受けた。持参したCT画像は提出した。結果は、「出血は前立腺からと思われる。膀胱、尿管、前立腺内側・外側異には腫瘍等の異常は見られない。PSA値が48と高く前立腺ガンの疑いが濃厚。ガンの判定は生検結果による。」であった。その後の生検で前立腺ガンである事が確定した。最初の血尿から1ヶ月半後の午前中、マンション屋上のTVアンテナ交換工事に立ち会った。暑い炎天下の環境であった。その日の午後、濃いワイン色の血尿が始まった。身体へのストレスが前立腺出血部位に何らかの影響を与えたのだろう。この出血は3日間続いた。

 前立腺ガン治療終了後、定期検査は5年間続く。現在は半年毎の検査になっている。直近の検査は5月後半で、PSA値は0.09。長期安定を保っているから再発の疑いは皆無だ。今回のあの激しい出血は何処から生じているのだろうか。万が一腎経からの出血からだと心配だ。自分の父親は腎臓が弱点で、中年時代に急性腎炎、老齢期に腎不全を発症して6年間に亘る人工透析を行った。最後は心臓肥大による心不全で、この世を去った。父親のDNAを引き継ぐ自分は、腎臓疾患だけは御免と思っていた。

 今回の大出血は、いくら何でも腎経による出血とは考え難いし、尿管出血が突然起こることも考えられない。残るのは、膀胱疾患が濃厚だが、前立腺部位の疑いも払拭できない。朝からの排尿状態は異常極まりなく、要観察の域を遙かに超えていた。慈恵医大泌尿器科に直接電話し、事情を話して午後の外来予約を取り付けた。外来医の勤務表を見ると、この日、自分の主治医は診療日では無かった。担当医か誰になるかは、行ってみないと判らない。泌尿器科に着いたのは12時少し前だった。それでも午前中予約の外来患者で待合は溢れていた。受付で血液と尿検査の受検票を貰い、検査室に向かった。尿検カップは赤黒いワイン色の尿で満たされた。検査結果が分かるまで最低1時間はかかる。午後の診察開始は1時30分だ。しばしの休息を執るため休憩室に向かった。

 午後の診察開始後、思ったより早く名前を呼ばれた。担当医はベテランの泌尿器科医で、話をしていて信頼出来る医師と感じた。血液検査の結果、炎症マーカーであるCRPは正常であった。尿検査ではもちろん大量出血確認だ。膀胱と前立腺からの出血の有無を確認するため、直ちに内視鏡検査となった。内視鏡検査では、尿管に内視鏡スコープを入れ、尿道、前立腺接続部、膀胱内部を観察・撮影することになる。問題は、尿管より遙かに太いスコープが挿入されることだ。挿入時の痛み緩和と挿管をスムーズにするため、事前にゼリー状の麻酔薬が尿道に圧入された。スコープ挿入時、直接の痛みは無いが、ズズーンという脳天に響くような圧入苦は避けられない。医師に聞くと、挿入長は20p程だという。検査中あまりの苦痛にうめき声は避けられなかった。麻酔ゼリーを注入しても尿管の損傷による出血が避けられない。5年前の検査でも尿管損傷による出血が数日続いた。

 検査後、診察室で説明を受けた。「前立腺周辺部に異常は認められない。膀胱内部は目視できる範囲では異常は認められないが、血尿が視界を妨げているので全ての範囲を見ることは出来なかった。出血部位が何処であるかは、今までの検査では不明だ。確認のため造影剤投与によるCT検査をこれから受けてもらいたい。」とのことであった。又、尿検査時検体の培養も行う旨、話があった。何れにしても、出血部位と原因の確定は後日となる。一週間後に検査結果が出揃うので、直近の主治医診療日に予約を取った。尿道損傷による疾患予防のため、抗生剤レボフロキサシン500rが5日分処方された。この薬は尿路感染症に効果的な抗生剤のようである。医師の説明は無かったが、尿路と出血部位双方の効果を狙ったのかも知れない。

 CT検査室では、通常CTと経静脈尿路造影剤注射後のCTを複数回数撮影された。下腹部に浴びた放射線量は半端ではないはずだ。照射部位で発生する活性酸素は、正常細胞の一部をガン化させる。この副作用無しには、原因が分からないのだから仕方無しだ。免疫細胞の活躍を祈るのみだ。これで、全ての検査は終了した。

 帰宅しても、疲労感から何もする気が起きなかった。医師の処方に従い抗生剤を夕食後に服用した。明日以降は、朝食後の服用になる。翌日は、以前から予定していた給水ポンプの整備が、早朝から行われる。事前に工事中の断水をマンション住人に知らせてあるから苦情は無いと思うが、想定外の事態が起こる可能性はゼロでは無い。明日は終日、自宅待機となる。就寝前の排尿も激しい血尿であった。この状態が今後も続けば、貧血を心配しなければならない。抗生剤の効果に期待するだけだ。

 膀胱内視鏡検査が終わった後、医師から膀胱内の写真4枚を見せられ説明を受けた。炎症は見られなかったが、血管が膀胱粘膜を持ち上げるような感じで映っていた。医師の説明は、「正常な膀胱では、このような血管は見られない。放射線治療により生じた副作用である。」であった。全ての写真が同じ状態では無かった。血管状態に濃淡がある。前立腺との距離間の違いの結果かも知れない。自分が受けた放射線治療は、高線量率組織内内部照射治療法と呼ばれ、会陰部に刺した20本の中空針に強力な放射性物質を循環させ、ガン細胞を死滅させる治療法だった。ガン細胞は前立腺周辺部に発生していた。高線量の放射線は、前立腺に隣接する膀胱に大きな影響を与える。現在も続く排尿障害がその結果だ。この写真は、膀胱内部粘膜と粘膜下の血管が損傷した事を示していた。医師から、時間の経過が異常を改善する可能性について説明された。高齢者には、どのくらいの時間を要するかは判らない。

 ここからは全くの推測だ。前月は、ここ何年も経験したことのないストレスに晒された。現役の頃は、次ぎ次と難問に襲われ対処した経験があるが、あの頃は若かった。問題解決のために徹夜の連続でも対処できた。如何せん、現在の自分はあの若さにほど遠い年齢だ。プライベートの問題が連続して起こり、それに面倒な仕事が重なった。一つ一つが独立して生じるのならともかく、連日重なってしまった。夜になるとぐったりする日が何日も続いた。自分では、ストレスに対処していたつもりであったが、放射線で損傷した膀胱粘膜や血管が影響を受けたのかもしれない。尿全部が赤ワイン色の時は判らなかったが、出血量が減少し始めた時、排尿後半は次第に色が薄くなる傾向が続いた。排尿は最初に膀胱下部の尿が排出され、次第に上部尿に移るはずだ。だとすれば、出血部位は膀胱下部か前立腺に限られる。膀胱下部は前立腺に密着するする部位だ。しかも高線量の放射線に晒されている。この血管が何らかの原因で損傷したと考えられる。前立腺からの出血は、PSA値の推移から考え難い。

 心身のストレスは血管内部に活性酸素を発生させる。若い時は、活性酸素に対抗できる酵素の産生量が多く問題は生じ無い。加齢の進行により、産生機能は低下するから、不足分を抗酸化物質の摂取で補うことになる。高齢者は抗酸化物質の吸収力や利用効率が低下する。ストレスの継続が対抗力を上回る活性酸素を活躍させ、弱点部の血管を損傷させたのかも知れない。5年前の時、一旦止まった血尿が炎天下の悪環境で再発したのは、前立腺ガン治療前であった。人体の合目的性は、生命維持に必要な臓器のメンテを最優先させる。生殖力を必要としない老人の前立腺は不要臓器だ。手抜かりが生じてもおかしくない。ましてや、膀胱内の血管損傷は外部要因の結果だ。自然治癒力の限界を超えた要因が重なれば、人体は自力では対処できない。出血部位で発生する炎症を抗生剤が抑えたことで、自然治癒力が働き、出血が止まったと考えるのが妥当だ。

  抗生剤を飲み始めて3日目、3回目の排尿時に最初は赤く染まって排出された尿の色が、次第に薄くなったように感じた。午後の排尿ではその傾向は更に強まり、夜間最後の排尿では何となく赤く思えるものの、通常色と変わらない色となった。4日目朝一番の排尿は、完全に通常色であった。診察翌日の尿は激しい血尿であったので、この状態が続けば、泌尿器科に連絡するつもりでいたが、その必要は無くなった。

 今回の血尿は大いなる反省の機会となった。空き室の修理は、業者にしか出来ない事以外、自分で行ってきた。現場で修理方法を考えホームセンターで材料を選択し、施行してきた。自分のイメージ通りに仕上がることは喜びであった。趣味と実益を兼ねていた。工事時間も一日仕事を三日に分けて身体負担を減らしてきた。これだけであれば、問題は生じ無い。しかし想定外の事態が連続的に重なると、心身への負担は大きなストレス要因となった。生きている限り想定外のストレスは避けられない。これからは、自分で出来る工事も業者に依頼することになろう。職人上がりの父親は、歳をとっても何でも自分でやり身体に負担をかけた。その結果が人工透析だ。自分も親父の轍は踏むまいと思っていたが、蛙の子は蛙だった。次回の泌尿器科での診察で、血尿原因は明確になるだろう。病の原因の多くは、自らにある自源病なのかも知れない。

目次に戻る