伝蔵荘日誌
             【伝蔵荘日誌】

2018年4月22日: 前立腺ガンと排尿日誌 GP生

 4年前の2月末をもって、前立腺ガンに対する放射線治療は全て終了した。放射線治療は前立腺に刺した20本の中空針に、高線量の放射性物質を循環させる内部照射と、コンピューター制御により前立腺にターゲットを絞った外部照射によって行われた。前者が2回、後者が16回であった。前立腺ガンに対して線量が強ければ強い程、完治する可能性が高まるが、周辺臓器の損傷による副作用も強くなる。自分が受けた内部照射は、強力な線量であっても、周辺臓器に対する損傷が広範囲に及ばない特徴を有する。前立腺ガンは、前立腺周辺部に発生する。会陰部から差し込まれた中空針は、前立腺周辺部までギリギリの位置に差し込まれるため、前立腺の上部に位置する膀胱の一部が強い放射線に晒されるのは避けられない。その結果、通常の外部照射だけの治療に比べて激しい排尿障害が生じる事になった。

 術前、主治医より「この治療法は、多くの患者に排尿障害が生じている、改善までに、術後4,5年間かかる事もある。個人差は極めて大きい」と説明された。「完治率は80%以上と極めて高い治療法である」とも言われた。この治療法に出会った自分は幸運であった。自分の前立腺ガンは、手術で完治出来る可能性が無いほど進行していたからだ。外部照射のみの放射線治療による再発率は高い様だ。放射線治療後、2年間に亘るホルモン療法を行ったから、全てが完了したのは2年前になる。現在は半年に一度の定期検診に通う身である。3年後に、PSA値が2.0以下を保てば完治との診断となる。例え再発したとしても、80歳を超えているから心配しても意味が無い。

 自分は、強力な線量により生じた排尿障害により、この4年間悩まされてきた。放射線治療終了後、排尿回数を記録する「排尿日誌」の記載を始めたのは、自分の排尿状態を記録し解析することで、改善の手かがかりを掴むためだった。一日の排尿回数は、カレンダーに「正」の字を書くことで数えた。就寝中の排尿は時間を記録した。実施した対策や処置も記録した。

 治療終了後1ヶ月は、一日の排尿回数は20から25回を数え、就寝中は5回から6回であった。排尿障害だけで無く、放射線治療による身体のだるさが続いた上、ホルモン療法による男性ホルモンの中断は、身体不調を更に助長した。仕事の決算期と重なったため、気力を振り絞って事に当たった記憶は今も鮮明である。過去に経験したことの無い辛さであった。75歳以上の患者には、同等の治療をしないとの意味が良く分かった。体力の低下した高齢者であれば、間違いなく寿命を縮める事になる。

 排尿障害は頻尿と切迫尿意だ。頻尿はひたすらトイレに通えば事がたりる。切迫尿意は厄介だ。トイレが間に合は無い事も多い。外出時が問題だ。何時もトイレの場所を意識していた。電車に乗った時は、発駅、着駅でトイレ行きとなった。車の運転時は悲惨な状態になりかねない。30分を超える運転は、紙おむつ「まるで下着」の厄介になることになった。意思でコントロール出来ないのが切迫尿意だ。

 治療終了後、当面の対策は腹部を温めることに務めた。泌尿器を温めることで、痛んだ臓器の自然治癒を早めるためだ。知人である鍼灸師の元に通い、ツボ刺激で泌尿器系の回復と免疫力を高める治療を行った。鍼治療は2年間継続した。就寝時はジムで購入した岩盤シートを腹に巻き付け、通電して下腹部を加熱した。2ヶ月を過ぎた頃から、排尿回数は15,6回、就寝中は3,4回に減少した。以後、回数は緩やかに減少し、一年後には、それぞれ12,3回、2,3回の安定を保った。切迫尿意は変わる事は無かった。岩盤シートの腹巻きは、流石夏場には使えない。

 頻尿は、放射線照射で生じた膀胱過敏症と前立腺肥大による尿管圧迫が原因ではと推測した。過敏症は、膀胱に少量の尿が溜まっても排尿を促し、前立腺肥大は、内部を通る尿管が圧迫されて排尿に勢いが無くなり、尿切れの悪さと残尿感をもたらす。高齢者の頻尿原因は、前立腺肥大が多いはずだ。昨年夏過ぎ頃から、宝ヘルスケアで発売している「ノコギリヤシ+イソサミジン」なるサプリを飲み始めた。ノコギリヤシは前立腺肥大を緩和するサプリとして知られている。イソサミジンは九州南方の島に自生するボタンボウフウなる植物から抽出されたエキスだ。膀胱過敏症に効果があるとの宣伝文句に誘われて購入した。この手のサプリは飲んで直ぐ効果が出るものではない。最低6ヶ月は黙って飲まなければならない。昨年末頃から一日の排尿回数は8,9回に、就寝中は1回程度に落ち着いてきた。サプリの効果と考えている。

 しかし、切迫尿意は改善されない。定期検査時に主治医に相談したが、治療法は無く、自然治癒を待つしか無いようだ。自律神経と膀胱との連携で尿意が促されるとすれば、意思で止めることは叶わない。全く尿意を感じ無い場合でも、排尿を意識した途端、トイレに直行となる。自律神経が関係している証である。デスクワークしているときは何も感じ無いのに、外出した途端、尿意を感じ慌てて自宅に戻ることもある。気温の変化によっても尿意がもたらされる。

 2月の中頃のことだ。家人からツボ刺激による頻尿改善の方法があると言われた。聞いてみるとテレビの健康番組の情報のようだ。このツボは太??(たいけい)と呼ばれ、内くるぶしとアキレス腱の間にある凹みに存在する。太??とは、腎経の生命エネルギーが渓流となって注ぐ所のツボだそうだ。このツボを5秒程度強く押す事を5回から10回、左右両足で繰り返す。これを一日に3回程度実施すると頻尿が改善されるとの情報だ。難しいことでは無いので早速実施した。

 ツボ刺激開始後、しばらくして就寝中の排尿が激減し0日が多くなった。排尿があっても午前4時頃や午前5時頃で、起床時間に近い時間帯で起こるようになった。1日の排尿回数は8回を下回ることが多くなり、頻尿傾向は影を潜めてきた。4月に入って就寝時0が継続している。利尿効果の強いコーヒーを一日3杯飲んでいるにも関わらず、一日の排尿回数は平均8回前後で安定してきた。問題の切迫尿意は、尿意を感じてしばらく我慢が出来るようになり、トイレ行きにゆとりが出てきたのだ。

 放射線治療から4年が経過して、自然治癒が進んだと事もあるだろうが、ツボ太??の刺激による効果は劇的であった。3月中旬に、ツボ刺激を一日3回から大幅に増やしてみた。さらなる結果を期待したが、全くの逆効果で、排尿回数が10回を超える日が続いた。ツボを押すと前回の刺激による痛みが残っている事を感じた。「過ぎたるは及ばざるがごとし」、格言通りであった。現在は、一日3回のセオリーを厳守している。

 今月末まで、排尿回数が7から8に安定し、就寝中の0が続けば、排尿日誌の役割は終了する。最近、カレンダーに正の字を記載するときの気持ちに勢いを感じる。自分で出来る事を実施する前向きの姿勢が、自主管理の基本である事を実感している。排尿日誌の役割終了は目前である。

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