伝蔵荘日誌
             【伝蔵荘日誌】

2018年3月27日: 国会の証人喚問劇場を見る。 T.G.

 森友決裁文書改竄に関して、財務省の佐川元理財局長が国会の証人喚問に引っ張り出された。佐川氏はすでに決済文書改竄の責任をとらされて、前任の国税庁長官をクビになっている。喚問の最初に委員長から職業を聞かれ、無職ですと答えている。くだらない森友加計騒動はどうでもいいが、この政治的に極めて難しい立場に立たされた東大出の優秀な高級官僚が、喚問にどう受け答えするか興味があって、普段は見ない国会のテレビ中継を最初から最後まで見てみた。午前午後に分け衆参両院2時間ずつの計4時間、映画2本分の長丁場である。

 証人の佐川氏の立場である。すでに財務省の職を解かれ、天下り先も退職金も失いかねない。おまけに公文書改竄の責任者として大阪地検の取り調べを受ける身である。有罪判決が出る可能性もある。財務省のナンバー2まで上り詰めた高級官僚としては、もはや失うものは何もない大逆境だ。ヤケになって安倍の指図、昭恵の口利きと“真相暴露”すれば、裁判で罪一等を減じられる可能性がある。あからさまに暴露しないまでも、受け答えの意図的な矛盾を野党に突かせて印象操作に持ち込めば、攻める野党は悪いのは佐川でなく黒幕の安倍だと矛先を変えてくれるだろう。仮にそういう展開になれば、野党は万々歳だし、佐川氏も前川元文科事務次官のように反安部マスコミの英雄になれる。大阪地検も告訴はしづらくなる。まさに両者ウインウイン。はたして鬼が出るか蛇が出るか。

 そんな状況の中で証人喚問が行われた。待ち構える野党は改竄などどうでもいい。その経過で安倍の関与があったかどうかだけ。白状させようと手ぐすね引いて待ち構えている。手に汗を握るというか、下手なホラー映画よりよほど面白い。そう思いながら興味津々で国会中継を見ていたら、あに図らんや理路整然と立て板に水を流すような実に見事な答弁で切り抜けた。東大出の高級官僚の地頭の良さを思い知らされた。4時間にわたる長丁場で、野党議員の追求や意地悪な引っかけ質問に、一言の言い間違えも言いよどみもなく受け答えていく。発言の食い違い、矛盾を引き出そうと、野党議員が入れ替わり立ち替わり同じ質問を、壊れたレコードのように繰り返すが、答弁は一貫していてまったくブレがない。質問する野党議員の頭の悪さばかりが目立つ結果に終わった。

 佐川氏は公文書改竄の疑いで大阪地検が取り調べ中のいわば犯罪容疑者である。改竄の意図、経緯については「刑事訴追の恐れ」を理由に答弁を拒否し、それ以外のことについてはなんでもしゃべる作戦に出た。この証言拒否理由は議会証言法で認められていることで、非難するに当たらない。誰でもやることだ。今回もそうなることは十分予想されていた。そもそも森友の土地取引については、一昨年来すでに結論が出ている。今さら追求する話ではないのに、この2月に朝日の報道で決済文書改竄が表沙汰になって、官邸の指図の証拠だと野党が話を蒸し返したのが今回の証人喚問である。にもかかわらず肝心の改竄の意図や経緯を一切聞き出せなかったのだから話にならない。何のための証人喚問か。

 野党は躍起になって安倍の関与、忖度を引っ張り出そうと問い詰めたが、佐川氏は一貫して官邸や政治家の指示や影響はなかったと、ものの見事に突っ張り通した。なかなかの胆力というか、頭がいいだけの男ではない。仮に影響、忖度があったとしたら、正直にそう証言した方が改竄を疑われている立場の佐川氏の利益になる。明確に証言しないまでも、意図的ないい間違えをして臭わすだけでいい。鬼の首を取った野党はしてやったりと攻撃目標を佐川から安倍に切り替えるだろう。それを突っぱねたのだ。本当のことをしゃべっているのか、頭の良さでぼろを出さなかったのか、いずれかだろう。

 森友加計は関係者が山ほどいる。安倍の関与があったなら、どこからか漏れる。すべての関係者の口封じは不可能で、今まで漏れなかったのが不思議なくらいだ。仮に安倍の関与があったなら、なかったと証言すれば偽証罪に問われる可能性は大である。法律を知り尽くした高級官僚がそんな危険なことをするはずがない。せいぜい知らなかったととぼけるくらいが関の山だろう。これをもってしても安倍の関与がなかったことは明らかだ。8億円の値引きについても、佐川氏は証言の中で事細かに経緯を説明した。野党や安倍憎しで凝り固まったマスコミはいざ知らず、ライブ中継を素直に見た人は、値引きに安倍や昭恵の指図、口利きなどなかったことを十分理解したに違いない。

 攻めあぐねた野党は、苦し紛れに次々におかしなことを言いだした。共産党の小池議員は、質問の最後を「こんな証人喚問はやっても意味がない。やらない方がいい」と捨て台詞を吐いた。証人喚問は彼らが要求して始まったものなのに、何を言うのか。みんなの党の江田議員に至っては、「官邸や政治家の関与を全否定するのはあなたの美学かも知れないが、そんなことをして何の得になるのか」などと抹香臭い説教をする始末である。これでは証人喚問とは言えない。国会と予算委員会の名がすたる。

 もともと野党もこの証人喚問で安倍の関与を明らかにできるとは考えておらず、得意の印象操作で安倍の支持率を下げるのが目的だったのだろうが、どうやらその作戦も裏目に出たようだ。あまりに佐川氏の答弁が水際だっていたので、直後のネットを見ると、野党の馬鹿さ加減を嘲る書き込みばかりが目についた。ネット住民も佐川氏の頭脳に脱帽した。昨日までは反安部一色だったネットの書き込みが様変わりである。いつもの国会証人喚問なら、テレビ中継など誰も見ない。マスコミのバイアスのかかった報道の受け売りをした。今回は前宣伝があまりに効き過ぎて、小生を含め、多くのネット暇人が国会中継を直接ライブで見た。その結果、マスコミの意図的影響力が減じられた。仮に今後安倍支持率が再浮上するようなことがあれば、この証人喚問が潮の変わり目だっただろう。瓢箪から駒、藪をつついて蛇とはこのことだ。

 証人喚問の最中、北朝鮮の金正恩が列車で北京に着いたと緊急ニュースが出た。いつまでも森友加計で空虚な馬鹿騒ぎをしていないで、そろそろ本筋の政治に戻ってもらいたい。そうでないと日本国が危うくなる。

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