伝蔵荘日誌
             【伝蔵荘日誌】

2018年3月18日:「朝鮮半島危機の現状下、日本は政局に走っている場合ではない」T.G.

 アメリカ在住の評論家、冷泉彰彦氏が、ニューズウイーク誌に「朝鮮半島危機の現状下、日本は政局に走っている場合ではない」と言う一文を載せている。常日頃の氏のコラムは、どちらかというと安部政権に批判的なものが多いが、これはニュアンスを異にしていて、とりあえず森友文書改竄問題は横に置いて、北朝鮮問題に集中すべきと言う内容である。実に的確な指摘で、言いたいことをすべて言い尽くしてくれている。

 冷泉氏のコラムの主張は次のようだ。

『北朝鮮の核開発問題の解決に向けて南北、米朝の首脳会談へと動き出したこの局面で、日本は一瞬たりとも外交上の判断に遅れがあってはならない。森友問題への安倍政権の対応は稚拙で良くない。しかし朝鮮半島情勢が緊迫している現在、政局のゲーム感覚を楽しむ余裕はない。首相夫人の国会招致とか、麻生財務相に辞任を迫るとか、そんな紙芝居のような「劇場」をやっているヒマはない。』

『トランプ大統領が(米朝会談に)踏み込んだのは、「アメリカは北朝鮮の本土核攻撃能力の完成を許すことはない」という政権の固い意思があるからであり、その「完成」が迫っている可能性があることを意味する。これは大変な事態であり、これに対応する日本のとるべき方向性は1つしかない。仮に南北首脳会談、米朝首脳会談が実施された場合、「会談を支える姿勢でブレず、その動きに1秒たりとも遅れない」ことである。』

『この「1秒たりとも遅れない」というのは重要で、仮に「核放棄合意」が成立した場合、北朝鮮の核不拡散条約(NPT)復帰ということになり、直ちに国際原子力機関(IAEA)の天野務局長体制が厳格な査察を行うことになる。これは技術的にも政治的にも困難な作業で、日本は関係諸国とともにそれを支えなくてはならない。』

『また、仮に会談が決裂した場合、危機は現在とは全く次元の異なるレベルに深化する。その場合中国の出番になる可能性があり、その中国が動きやすいよう、動き過ぎないよう、日本は1秒たりとも遅れずに包囲網結束の要になる必要がある。ロシアが介入して問題を複雑化する可能性もあり、それに対する機敏な抑えも必要となる。』

『なぜ「1秒たりとも遅れてはならない」のかというと、日本の動きが遅れれば外交孤立を招くからである。一部に「ジャパン・パッシングになるからいけない」という声があるが、今回はそうした単なる「国のプライドを競うゲーム」の域を超えている。』

『危機が深化すれば、その過程で「なし崩し的な半島統一」の可能性が出て来る。準備が整わない中での統一は危険で痛みを伴うプロセスになる。半島での極端な雇用不安、社会不安、あるいは地域対立の激化などが避けられないだろう。そうした場合、新統一国家の求心力を得る「安易なカード」として、統一朝鮮が軍事威嚇を伴った反日行動に出る可能性がある。合理的な人々の集団であっても、歴史の転換点において極端な決定を下す可能性は排除できず、まさに日本にとって存亡の危機となる。』

『仮に米朝首脳会談で核放棄の見返りに在韓米軍の撤退が要求された場合、トランプ大統領の「核武装合意のお墨付き」がお化けのように出てきて、新統一国家が核武装する可能性も排除出来ない。そうした危機において、日本が外交的に孤立するということは、何としても避けなければならない。』

『政治は諸々の局面を想定するべきで、そのような局面においては、右派的な基盤(安倍政権)だと好戦的で破滅的な判断になるとか、(朝日的な)平和主義者だから全体を平和へと主導できるなどというようなファンタジーは通用しない。とりあえず、各国首脳との信頼関係があり、北朝鮮外交の経験も積んでいる安倍政権の継続が、日本にとってリスクを最小限にする選択と考える。』

 現在の日本国内は、国会も新聞テレビも朝から晩までの財務省の森友文書改竄問題一色で、北朝鮮問題などどこかへ消し飛んでしまった。ほとんどの日本人が迫り来る米朝会談の危うさを忘れている。野党はここぞとばかりに安倍を攻め立て、退陣に追い込むことしか念頭にない。金縛りに遭った安倍は身動きが取れず、日本がすっかり北朝鮮問題の蚊帳の外に置かれてしまっている。これを日本国の危機と言わずして何というか。

 世の中は安倍一強がいたくお気に召さないようだが、いくら安倍が嫌いでも、ひとまず森友加計は休戦にして、安倍を北朝鮮問題に集中させたらどうか。今の国際情勢で、安倍の代わりは石破や岸田や河野では務まらない。ましてや枝野は論外である。森友加計の政局ゴッコはいったん手仕舞いにして、北朝鮮問題の見通しがついた後に再開すればいい。財務省のでたらめは確かに言語道断だが、北の核のように国家を揺るがす深刻な問題ではない。外に火の手が迫っているのに、家の中で埒もない夫婦喧嘩をしているようなもので、国家安全保障にこれだけ無頓着な国を見たことがない。日本人が愚かなのか賢いのか分からなくなった。

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