伝蔵荘日誌
             【伝蔵荘日誌】

2018年2月17日: 高齢者の体調不良 GP生

 ウイークデイ午前中のジムは、90%以上が高齢者だ。プールは80%が女性で占められている。プールの常連さんが顔を見せなくなる理由は、体調不良が多い。体調不良者の殆どは男性で、女性がダウンした話は聞かない。彼女達は毎日、45分のアクアダンスで元気に暴れまくっている。

 ジム仲間のKo君が食道癌の手術をしたことは、前回の日誌に書いた。昨日、入院中のKo君から電話を貰った。既に、抜糸も済み、ICUから一般病棟に移り、お粥が食べられるようになったとのこと。けれど、今度は誤嚥性肺炎を起こし発熱に見舞われた。食道癌の術後に多い余病と聞くが、入院中での発症は不幸中の幸いであった。

 人付き合いの良いKo君は、ジムのプールに男女を問わず多くの仲間がいる。その彼が、顔を見せないものだから、「Koさんが来ないけど、どうかしましたか」と問いかけられる。自分は、Ko君とは極めて親しい友人であると思われているからだ。Ko君の奥様を通じ、ジム仲間には入院を黙っていて欲しいと厳しく頼まれているので、返答には困ることが多い。最初の頃は「膝のリハビリを兼ねてジムまで歩いてきて、風呂だけで帰っているのでは」と、ごまかしていた。「風呂には見えませんよ」などと言われるようになり、最近では「長い風邪の後、体調を崩した様です。詳しいことは判らないけど。」と話している。尋ねた人達は、それで皆納得して、それ以上の突っ込んだ話は終わりだ。プール仲間は、男女を問わず皆高齢者だ。最高齢92歳。「体調不良」は、高齢者誰にでも起こる事だからだ。

 高齢者にとって体調不良の内容は、千差万別だ。ジム仲間は、一見元気で健康に見える。プールで泳いだり歩いたりしているのだから、体力的に優位にあるのは事実だ。けれど、親しくなると、「実は」の枕詞の後に、手術や治療の話を聞くことになる。自分とて、前立腺癌治療後の定期検査で85歳まで通院する身だ。Ko君のジム欠勤理由を「体調不良」の一言で納得してくれるのは、それぞれが体調不良を経験しているからだと思う。70歳を過ぎた高齢者が、体調不良無しに日々過ごすのは、大変難しいことだ。

 共通の友人であるTa君に、Ko君の回復ぶりを伝えるために電話をした。ところが、Ta君から「肺炎のため入院し、昨日退院したばかり」と聞きいて驚いた。5日ほど前に、彼と携帯で話した時は、病室であったのだ。肺炎のため8日間の入院であった。小学校の同級生仲間で医者と薬に縁が無いのは、Ta君唯一人だった。家業の合間を縫って、泊まりがけのサイクリングや里山の手入れが出来るほど元気であった。昔から酒は飲めず、タバコも吸わない品行方正ぶりだ。その彼が肺炎とは、青天の霹靂の思いであった。

 30年来、家業を助けてくれている不動産業者のOyさんは、自分と同い年だ。「GP生さんは、頑固なところが自分と同じだ」が口癖だ。そのOyさんがインフルエンザでダウンしたのが、昨年12月。しばらくはマスクをして店に出ていたが、いつの間にか、店を息子さんに任せて姿を見せなくなった。既に、2ヶ月近くになる。息子さんに聞くと、「家で寝たり起きたりしている」だった。風邪をひく前から、店で会っても顔色が優れず、声に張りが無い。話をすることが億劫の様であった。以前から生活習慣病の為、複数の薬を服用している。インフルエンザが長引いたとしても、2ヶ月近くは長すぎる。体力や免疫力の低下が、想像以上に大きいのかも知れない。

 学生時代は、50sを超すザックを背に、激しい山行を繰り返していた。粗末な食事故、山行後、体重は減少しても病を発症することは無かった。もし今、同じ事をすれば生命の危機に直結するだろう。体力だけで無く、生命力も高かったのだ。20代は子孫をもうける為の絶好の年代でもある。だから、如何なる身体的負荷に耐えられた。70代は、生物的に人としての使命が終了した存在だ。生命力は加齢と共に低下し、全てを使い切った時に死を迎える。病の発症も、生命力低下のしからしめる結果だ。個人差が大きいのは、両親から受け継いだDNAと中年以降の生活習慣の違いだろう。

 DNAは宿命だから仕方ないとしても、問題は生活習慣だ。高齢者にとって食習慣は、死命を制する要因と考えている。今冬、A型とB型のインフルエンザが大流行している。風邪患者も多い。高齢者の回復は極めて遅いようだ。これは免疫力の低下が原因だ。免疫力は生命力の中心を司っている。加齢により免疫力は著しく低下する。高齢者にガンの発症が多いのは、NK細胞の減少によると言われている。NK細胞を含む免疫力の殆どは、腸の働きに由来するから、腸を活性化させる栄養と免疫細胞増殖の栄養摂取が大事になる。若い時は、摂取した栄養が100%吸収され利用された。代謝能力が極めて高かったからだ。中年を過ぎる頃から、基礎代謝力が低下する。若い時と同じような食事をすれば、栄養物は代謝に用いられること無く、排出されるか体内に貯留され、所謂、中年太りとして現れる。

 高齢期を迎えれば、今度は食自体が細くなり、低栄養化を招くことになる。先のOyさんは、仕事の忙しさにかまけて、昼食時にカップラーメンを食しているのを良く目にした。70歳台に入っての粗食は寿命を縮める。食べ物と栄養の話をしたことがあるが、生来の頑固さ故、聞く耳を持たなかった。ましてや、免疫力の低下など関心外であった。後期高齢期になれば、如何に勝れたDNAを持ったとしても、粗食では身体機能が維持できない。色々な生活習慣病の発症と免疫力低下による疾患に見舞われることになる。風邪やインフルへの投薬は、対処療法だし、生活習慣病への投薬は根本治療に繋がらず、かえって副作用による余病を発症しかねない。病を治すのは、免疫を中心とした自然治癒力に期待するしか無い。食生活を疎かにする高齢者に明日は無い。

 高齢者の食が如何にあるべきかは、分子栄養学が教えてくれる。分子栄養学はDNAの働きに視点を置いた栄養学だ。理屈、理論は厄介だが、導き出された結論を、日常の食生活に応用すれば良いと考えている。基本は、高タンパク質、メガビタミンの摂取と活性酸素対策だ。自分は更に、可溶性食物繊維と必須脂肪酸の摂取が必要と考えている。

 必須脂肪酸には、ω6系のリノール酸とω3系のα-リノレン酸の2種類があり、体内で合成されることは無いため、食品から摂取する必要がある。具体的には、亜麻仁油やエゴマ油、オリーブ油等に含まれている油である。これらは不飽和脂肪酸と呼ばれ、体内で色々な働きをしている。これらを毎日摂取すれば、心臓病や血栓症のリスク低下、血管内皮細胞改善、中性脂肪値やコレステロール値低下、肌の乾燥・老化防止等が期待できる。四つ足動物肉の脂は、飽和脂肪酸と呼ばれ、真逆の働きをする。

 自分は、前立腺癌治療のため、長年ホルモン療法を行った副作用により、中性脂肪値の上昇が続いた。治療が終了しても、加齢により男性ホルモンの回復は進まなかった。昨年7月、EPA、DPAを960r含有するリキッドの服用を始めた。中性脂肪値20%減を信じてみようと思ったからだ。3ヶ月後、シワシワだった手の甲に張りと艶が出てきた。細胞膜にω3系の不飽和脂肪酸が増えてきた結果だと思う。消化器官の内膜細胞は手の甲と同じ外皮だ。手の甲の細胞が改善されたのなら、消化器官の細胞膜機能も向上しているはずだ。血管の内皮細胞のみならず、細胞膜で覆われている赤血球もだ。手の艶に触発され家人は、11月中旬から同じリキッドを飲み始めた。1月末頃から、家人の血圧が低下安定し始め、降圧剤の必要が無くなった。血管内皮細胞と赤血球に柔軟性が増した結果と思われる。

 ヨーグルトの乳酸菌が、腸の活性化に効果がある事は知られているが、自分は、可溶性食物繊維を摂取することで、排便のみならず腸管免疫向上が向上することを実感している。食物繊維は、TG君に勧められたデキストリンを毎食飲んでいる。原材料は小麦だ。無味無臭、牛乳やジュース等の水溶液に瞬時に溶解する。コーヒーに溶かしても違和感は全くない。目的は腸管免疫機能向上だが、便通は同じ時間帯に毎日生ずる。高タンパク、メガビタミン、活性酸素対策には、それぞれのサプリに依存せざるを得ない。高齢者にとって、食品だけで栄養素の必要十分量と質を摂取するのは不可能だからだ。免疫力の向上は、完治したかどうか知るよしも無い前立癌の再発予防にもなると考えている。

 同年代の仲間達に、栄養補完剤の話をしても、相手にされないことが多い。「それは信仰だ」と言う仲間もいる。食生活の考え方は人それぞれだ。自身の健康を全て医者や薬に託する訳にはいかない。医者とて、患者全てに最後まで責任が持てる訳では無いからだ。自分の主治医が自分であるからこそ、健康維持の要たる食について、試行錯誤の努力が必要と考えてる。何れ、自身の肉体が寿命を迎える時が来る。身体不調として現れる症状が、如何なる処置も功を奏さず、肉体生命を終える時が、この世との別れだ。それが、常に前を向いて生きた結果であれば悔いは無い。

 Ko君は、今月半ば過ぎには退院できそうだと言っていた。高齢の彼が8時間におよぶ手術に耐え、短期間で電話が出来るまでに回復できたのは、長年のジム通いで鍛えた体力が有ったからだと思う。日々の努力が、自らを救ったとも言える。プールでの再会を願っている。

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