伝蔵荘日誌
             【伝蔵荘日誌】

2018年1月6日 2018年の日本の課題 T.G.

 年が明けてはや6日、月日のたつのは早いものだ。2年ほど前から、メールアドレスが分かっている知人友人には紙の年賀状はやめて、メール年賀状にしている。送信箱に用意した年賀メールを元旦零時を期して一斉配信する。そのメールに近況を添えていくつかの返信が届いた。紙の年賀状だとこうはいかない。お互い出しっぱなし、受け取りっぱなしで、何の愛想もない。返信メールの近況は昨年までは明るい内容が多かったが、今年は病気や身の回りの不幸などなど、問題含みが多い。お互い歳のせいか。それでもこういうやりとりが伴うのは、紙の年賀状にはないメール賀状の良さである。来年もこれにしよう。

 正月の娯楽番組に安部総理が出演して、日本にとって今年の二大問題は北朝鮮と少子化だという。これをなんとかするのが今年の政治課題だという。さもありなん。今の日本にこれ以上の深刻な政治課題はない。これにまじめに取り組んでくれるなら、ほかの問題は放って置いてもらってもいいくらいだ。さて安倍はこの難問にどう取り組むつもりか。

 昨年末の日誌にも書いたが、北朝鮮問題はある意味簡単で、日本国民がその気になりさえすれば、あっという間に解決する。問題はその解決策を国民が生理的に嫌っていて、なかなかその気にならないことだ。しかし追い詰められればやらざるを得ないだろう。日本人は昔から長期的な戦略や視野を持てず、行き当たりばったりに行動する悪い癖がある。いざとなれば日本人は一夜にして目を覚まし、将軍様も真っ青な強力な行き当たりばったりをやるだろう。100年前はそれで国難を乗り切った。そういうわけで北朝鮮問題はそれほど深刻ではない。より深刻なのは少子化の方である。こればかりはいくら考えても解決策がない。今のところ座して死を待つしかない状況にある。将軍様の核ミサイルよりはるかに深刻なのだ。

 「未来の年表 人口減少日本でこれから起きること (講談社現代新書)」という本が話題になっている。その未来年表によると、少子化による人口減少で2020年には女性の半数が50歳を超え、24年には国民の3分の1が65歳を超え、23年には3戸に1戸が空き家になり、40年には自治体の半数が消滅するという。人が途絶えた町や村は不法入国外国人に占拠され、日本ではなくなる。その頃は自治体だけでなく、政府も警察力も弱体化していて、どうにもならなくなっているだろう。日本が壊れ始めるのだ。

 少子化問題は厄介極まりないが、原因はすこぶる単純明快で、女が子供を産まなくなったことだ。それ以外に理由はない。格差社会で低収入世帯が増えたことを上げる向きもありが、はるかに貧しかった戦前戦後の出生率が高かったことを考えれば理由にならない。15歳から49歳までの出産可能年齢の女性が、生涯に産む子供の数の平均を特殊合計出生率というが、これが2以上だと人口が増加し、2以下だと減少する。1974年まで日本の出生率は2を超えていたが、以後下がり続け、2016年はわずか1.4まで下がってしまった。上がる気配はまったくない。仮に何らかの対策で上がったとしても、1.4が1.5になったくらいでは焼け石に水。2を超さなければ人口減少は止まらない。現実問題として、出生率をわずか0.1上げるだけでも至難の業なのに。

 安部政権が取り組んでいる少子化対策は、保育園増設、働き方改革で子育て支援、育児の負担になる教育の無償化などである。その一方で女性の社会進出などと言う少子化対策とは二律背反の政策も掲げている。要するに本気でないか、少子化対策の意味が分かっていないのだ。そもそも女性の社会進出を進めれば、子供は減りこそすれ増えるわけがない。アクセルとブレーキを一緒に踏んでいるようなものだ。欧米など先進国の出生率は例外なく下がっているが、最大の原因は女性の社会進出にある。出産育児より仕事の方が大事になっている。保育園対策も子供を産ませるためではなく、育児を他人任せにして女性を働かせることが目的になっている。

 そもそも少子化について結婚した夫婦はほとんど問題ない。結婚すれば大方は二人以上子供を産む。放って置いてかまわない。結婚した夫婦は少子化対策のターゲットではないのだ。安倍はそこを取り違えている。問題なのは結婚しない男女である。さらには結婚年齢の遅さ、離婚率の高さである。今頃の男女は30過ぎまで結婚せず、結婚してもちょっとしたことですぐに離婚してしまう。だからシングルマザーが増える。昔はほとんどが結婚し、大方の夫婦が添い遂げたが、今は違う。生涯結婚しない男女が激増している。1990年頃まで、生涯未婚率は男女とも4%以下だったが、今は男性が23%を越え、4人に一人が結婚しない。女性でも14%に達していて、さらに増加傾向だという。そのうち半分以上の男女が結婚しなくなるだろう。そうなればお先真っ暗だ。

 生涯未婚と結婚年齢の遅さを招いた最大の原因は女性の社会進出だろう。もしかすると離婚率の高さも同じかも知れない。何かあるとすぐ離婚してしまうのは、女性が仕事を持っているから出来る事で、稼ぎのない専業主婦には出来ない。少子化対策の真の課題は結婚した男女ではなく、結婚しない男女の多さである。政府の施策はそこを取り違えている。これでは少子化はいつまでたっても解決しない。先進国で唯一アメリカだけ出生率が2を越えているが、それに寄与しているのは合法不法の移民である。トランプは忌み嫌うが、移民はアメリカの少子化を押しとどめ、活力の元になっている。日本のように移民を当てにしない少子化対策は、婚姻率を高め、女性が仕事より出産育児を優先するよう仕向けるしかない。それには女性の社会進出は政策として矛盾する。

 女性の社会進出がなぜ進むのかというと、出産育児より仕事の方が楽しくて面白おかしいからだろう。生物は種の繁栄のために、育児の楽しさと生殖行為の際の強い快楽をご褒美として与えられた。人間も例外ではない。結婚もせず仕事に生きる女性は、育児やセックスの快楽より仕事の方を選んでいる。人間が育児やセックスに魅力を感じなくなり、仕事を選ぶようになったとすると、問題はより本質的、かつ深刻である。日本人が無意識に種の保存と繁栄に価値を置かなくなっているのであれば、何をやっても少子化は止められない。

 生物の種は生殖能力が衰え、個体数を維持できなくなると絶滅する。日本人はもしかするとパンダのような絶滅危惧種になりかかっているのかもしれない。そうであるとすると、安倍の少子化対策はいかにも薄っぺらで的外れである。問題の本質が何も分かっていない。保育園待機児童を無くすことや教育無償化など、少子化にとって何の意味もない。そんなことで女性が子供を産むわけがない。そもそも結婚しないのだから。長生きして、壊れた日本を見たくないものだ。

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