伝蔵荘日誌
             【伝蔵荘日誌】

2017年9月24日 最後の軽井沢山荘 T.G.

 昔勤めていた会社の保養所が9月いっぱいで閉鎖になるというので、家人と軽井沢にある山荘へ出かけた。千ヶ滝別荘地のこの山荘には何度も訪れているが、27年前、バブル真っ盛りの頃に建て替えた施設で、なかなか豪華な建物である。下手な観光旅館は及びもつかない。健康保険組合の運営だが、会社の軒が傾き、売りに出したらしい。このあたりは旧軽井沢と並ぶ高級別荘地で、昔から金持ち企業の保養所が多い。近くにビル・ゲイツの別荘もある。世界一の大金持ちの別荘は広すぎて、どこにあるのか判然としない。回りを車で走っていても建物も出入り口も見えない。彼が来るときはヘリを使うに違いない。

 小生が在籍していた頃の我が社は年商5兆円の日本有数のトップ企業で、飛ぶ鳥を落とす勢いだった。日経新聞が年頭インタビューで社長の談話を元旦の一面に載せた。それが今では見る影もない。年商は半分に落ち、今にも潰れそうである。日経に相手にされることもなくなり、社長の名前など、大方の日本人が知らない。退職者の小生も憶えていない。株価は低迷し紙切れ寸前、誰も相手にしない不良企業に成り下がっている。東芝ほど酷くはないが、シャープより先に潰れるのではと取り沙汰された時期もあった。栄枯盛衰の見本のような会社である。

 食堂で隣り合った、小生より10歳ほど若いリタイア組夫婦と話していたら、関連会社の経理部長が退職金を全額現金で受け取ったので、周りが驚いたという話が出た。退職金は一時所得で基礎控除があるが、2000万円以上だと控除限度額を超えるので途端に税金が高くなる。我が社では半分を現金で受け取り、残り半分を会社の年金基金に積み立て、10年分割の年金で受け取れる仕組みになっている。こうすれば課税総額は僅かで済むのでほとんどの退職者はそうする。経営状態をいちばん良く知っている経理部長が年金基金を信用しないのは、沈没船から逃げ出すネズミと同じで、会社の先行きが危ないのだろう。どうも我が社に関してはいい話が聞こえてこない。会社はどうでもいいが、年金基金が潰れたら生活が立ちゆかない。今のように呑気に伝蔵荘日誌など書いておれなくなる。

 軽井沢に出かけたら、家人が旧軽の商店街を散策している間に、碓氷峠の見晴台まで歩いて往復することにしている。標高差250m、片道4キロのハイキングコースで、休まず普通に歩いて登り60分、頂上で10分休み下山を含めて往復2時間コースである。老化と体力のバロメータにしている。今回もほぼ同じペース、同じ時間で歩けた。まだそれほど耄碌はしていないと言うことである。これが3時間かかったり、途中で休む必要が出てきたら問題だが、いつも通りのペースで歩けたのでホッとした。しかし最後の登りで少し息が切れたのは初めてのこと。後期高齢者には致し方のないことか。保養所が閉鎖されたので、この格好の老化ベンチマークテストも出来なくなってしまった。高い宿に泊まって碓氷峠散策でもなかろう。

 帰宅してテレビを付けると、北朝鮮が太平洋上で水爆実験をすると騒いでいる。あの妙ちくりんな髪型の三代目が、国連演説でトランプにロケットマンと揶揄されて、怒り心頭に達したらしい。その演説でトランプは北朝鮮の「完全破壊」にも言及していて、もうこれは互いに外交の段階を越えている。核の不使用はともかく、近々半島で動乱が起きるのは間違いない。極東は世界一リスクが高い不安定地域である。中国、ソ連、朝鮮半島2カ国など、力や経済力はありながら、野心的で民主主義と法治が不完全な国ばかりである。その中で、70年来の軍事独裁国、北朝鮮が核保有に走り、使いたくて仕方がない。たびたび撃ち込むぞと脅す。こんな剣呑な地域は他にはない。非民主主義国、独裁国、核保有国はいくらもあるが、いずれも力のない経済小国ばかりで、極東のような地政学的リスクはない。

 極東の我が国の周りでは、巨大中国がこの先も不合理な共産党一党独裁を続け、プーチンロシアは北朝鮮を鉄砲玉に使って、再びアメリカとの覇権争いを始めている。その状況下で北朝鮮が核を保有した。韓国はそれになびき始めている。四面楚歌というか、日本の悪夢と言って過言でない。どんなことをしても、多少の犠牲を払ってでも、北の核保有だけは止めなくてはならない。止められなかったら日本に未来はない。核不拡散がどうの、対話と圧力でどうのと、当てもない理想論をぶっている段階はとっくに過ぎている。

 それを意識してか、安倍は突然解散総選挙の前倒しをした。おそらくトランプになにか耳打ちされているのだろう。年末に向け、北朝鮮リスクはますます高まると。何が起きるか分からないと。そうなれば呑気に選挙などしている暇はない。その前に選挙を済ませ、体制を立て直し、アメリカと協力して動乱に備えると言うことだろう。そういう危うい状況にありながら、未だ日本国民は覚醒していない。相も変わらず野党やマスコミは、大義のない選挙だとか、加計疑惑隠しなどと、ノー天気な政権批判に明け暮れている。アホらしくてテレビを見なくなった。新聞はとうの昔に読むのをやめている。日本危うし! 年金のことなど心配している時ではなさそうだ。

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