伝蔵荘日誌
             【伝蔵荘日誌】

2017年9月12日: 高齢者のガン検診 T.G.

 生まれつきの体質で尿酸値が高く、通院して尿酸降下薬の処方を受けている。最初に痛風を発症したのは14年前のこと、ヒマラヤのカラパタールに出かける直前だった。ヒマラヤ行きのトレーニングで炎天下で汗を流した後、喉が渇いたのでスコッチの水割りを飲んだ。気分よく酔いが回った頃、突然左足の親指の付け根が腫れ上がり、痛くて歩けなくなった。朝起きて近くのクリニックに行くと、痛風だと言われ、炎症を抑える処置をしてもらった。明後日ヒマラヤへ出かける予定だが大丈夫かと聞くと、問題ありません。どんどん出かけなさい。歩くのは体にいいし、尿酸値も下がりますという。そう言われて安心し、ヒマラヤに出かけた。2週間かけてエベレストの展望台、標高5600mのカラパタールまで往復した。その間痛風は再発しなかった。(写真はエベレストを仰ぐ小生)

 帰国後、ただちに病院へ出向き、尿酸値検査と尿酸降下剤の処方を受ける。以来14年間それを飲み続けている。お陰で痛風が再発したことは一度もない。尿酸値も安定している。痛風は尿酸の血中濃度が7.0を越えると発症する。それ以下だと発症しない。尿酸降下剤をきちんと服用すると確実に6.0以下に下がり、痛風は起きない。尿酸は元来身体に必須な栄養成分で、多すぎると結晶化の問題を起こすが、それ自体は身体に悪くない。むしろ強い抗酸化作用があり、身体の免疫力を高め、ガン予防の効果もある。薬などで適切にコントロールすればガンになりにくい体質になり、寿命が延びる。医療知識の豊富なGP生君には、尿酸値が高いことをいつも羨ましがられる。

 痛風は尿酸が足の関節で結晶化することで起きる炎症である。腎臓で結晶化すると腎臓を痛め、腎臓結石の原因になる。石が尿道に落ちると尿路結石で、痛くて転げ回る。世界三大痛みの一つだという。最初に発症したのは60年前の大学2年の時である。授業を受けに川内へ行く途中、広瀬橋の上で突然腰が痛み出した。激痛で、あまりの痛さになすすべがなく、欄干にすがって崩れ落ちた。そのままじっとしていたら突然嘘のように痛みが消え、歩いて授業を受けに行った。以来10回近く発症している。そのたびに小便と一緒に石が流れ出る。最後に出たのは7年前、排出した石を調べてもらったら、通常のシュウ酸カルシウムではなく、尿酸カルシュウム結石だという。痛風と原因が同じで、生まれつき尿酸値が高い体質のようだ。痛風が贅沢病というのは誤りである。小生のような粗食でも痛風になる。

 尿酸降下剤が切れたのでかかりつけの医院にもらいに行った。半年おきに血液検査で尿酸値を調べるのだが、いつもの血液検査の代わりに市の無料の高齢者ガン検診を受けろという。その中に血液検査も含まれていると言う。躊躇していたら無理やり予約を入れられてしまった。患者は無料でも医者は儲かるのだろう。帰宅後、念のため市から来たガン検診の通知を読むと、胃癌のバリウム検査、肺癌のレントゲン検査、大腸ガンの検便、前立腺ガンのPSA検査が含まれている。痛くも痒くもないレントゲン検査やPSA検査はともかく、胃のバリウム検査は気が重い。会社にいた頃度々やらされたが、多量のバリウムを飲まされる苦痛や、その後の頑固な便秘のことを考えると気が重くなる。便秘は老化症状の一つで、自分もその気味がある。

 先月、伝蔵荘仲間のMa君とSa君が同じようなガン検診を受けた。Ma君はPSAの値が高く、前立腺ガンの再検査をやらされた。ガンが見つかり、その先の治療を受けている。前立腺ガンの検査はGP生君が伝蔵荘日誌で詳しく書いている。それを読むと生検と言って針を前立腺に10数本刺し、組織を採取して調べる。何本かにがん組織が見つかると、さらに治療に進む。手術が出来ない場合は放射線治療になる。日誌を読むといかにも過酷な治療で、読んだだけでストレスになる。羽鳥湖のSa君は検便で潜血反応が出て、再検診で大腸内視鏡検査と胃カメラ検査をやらされたという。幸いどちらもガンは見つからなかったが、胃からピロリ菌が見つかり、駆除のため抗生剤を飲まされたと言う。要するに身体をいじくり回されたのだ。その間に受けた苦痛やストレスも少なくなかっただろう。(写真はクンブ氷河のアイスフォールとエベレスト)

 以前ガン治療で著名な近藤誠医師が、文藝春秋に余命の短い老人には健康診断や人間ドックは要らないと言う自説を書いていた。健康診断は病人を増やすだけで有害無益。たとえガンが見つかっても75歳を過ぎた高齢者には適切な治療法はない。体力的に手術は難しく、身体を弱める。抗がん剤や放射線治療は苦痛を与えるだけで延命効果はない。QOL(生活の質)を下げ、かえって寿命を縮めるだけと言う。言われてみれば確かにその通りだ。昨年親しくしていたご近所の同年配のご老人が亡くなった。レントゲン検査で末期の肺癌が見つかり、余命半年と言われた。抗がん剤治療で一時は持ち直したように見えたが、1年後に亡くなった。要するにその程度の延命効果しかなかったのだ。最後は声も出なくなっていたが、抗がん剤の副作用でさんざん苦しめられたのが、寿命をわずか半年延ばせられたことの代償なのだ。

 彼ら友人知人の悪戦苦闘を見ていて、ガン検診を受ける気がなくなった。健康でどこも悪くないのに体中を痛めつけられる。ストレスもかかる。何のための検診か。医療のことをよく知っているGP生君にメールでそのことを伝えたら、「80近い老人に規定通りのガン検査をして、例えガンが見つかっても年齢的に標準治療はむりです。例え初期であっても、ガン細胞を持っていることを知ってしまえばストレスになる。ストレスは免疫力を下げ、寿命を縮める。良い選択をしたと思います。」と返事があった。さっそく医院に電話して、今週末予定のガン検診をキャンセルした。いっぺんに気が軽くなった。今のところ身体は快調で、快食快眠快便。酒も美味い。自覚症状としてどこも悪いところはない。小便も普通に出る。7年前に大腸内視鏡検査を受けた時はすこぶるきれいな腸だった。多分今もそうだろう。もうしばらくはのんびり元気に暮らせそうだ。この先ガンになったらそれが寿命と覚悟しよう。(写真はエベレスト頂上)

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