伝蔵荘日誌
             【伝蔵荘日誌】

2017年7月4日 都議選と都民ファースト T.G.

 都議会選挙で小池都知事の都民ファーストが大勝し、自民党が惨敗した。オルグ政党の公明、共産は組織票の威力でしぶとく議席を維持したが、民進党は虫の息である。もうしばらくすると消滅するだろう。それにしても都民ファーストとはおかしな党名である。トランプのアメリカファーストをもじったのだろうが、あれはスローガンであり党名ではない。小池氏はこの先もこの党名になじまない呼称を使うつもりなのだろうか。

 今回の選挙をマスコミは小池 vs 安倍の戦いとか、奢れる安倍一強にお灸を据えたなどと囃し立てる。特に森友、加計を持ち出して安倍攻撃の中心的役割を担った朝日、NHKはそういう筋書きにしたいのだろうが、まるで見当違いである。安倍憎さが高じて単なる地方選挙を国政選挙と取り違えている。今回の都議選は昨年の都知事選の延長戦であって、安倍、小池の戦いなどではない。いつの世も日本のジャーナリズムは軽佻浮薄である。

 前任者の猪瀬、舛添が低次元のスキャンダルで自滅した。並の政治家ならそれをアンチテーゼにして都知事選に打って出る。しかし政治経験豊富で老獪な小池氏はそういう普通のやり方ではリベラル好みの都民に受けず、民主党に勝てないと踏んだ。それで攻撃目標に選んだのが豊洲、オリンピックの金権政治である。当時三兆とも四兆とも噂されいた青天井のオリンピック予算に切り込んで、「一丁二丁の豆腐屋であるまいし、」と演説で小気味いい啖呵を切った。それに対して自民党は旧態依然の建設官僚上がりの候補者を立て、惨敗した。その結果、オリンピックを食い物にしていた元首相やその取り巻き、都議会に巣くっていた内田某など、頭の黒いネズミどもが白日の元に曝され、大方の都民の知るところとなった。今回の都議選はその続編、総仕上げなのだ。断じて安倍一強との戦いなどではない。

 国民の政治成熟度が低い日本では、解散総選挙で外交内政が争点になったためしがない。民主党政権を例外として、政権与党が負けるのはスキャンダルか金権政治に国民が愛想を尽かしたときだけだ。政治オンチの日本人も、昔から自民党の金権体質は大嫌いである。マスコミは今回の選挙でさも森友加計が響いたように言うが、それは間違いだ。森友加計はスキャンダルではあっても、巨額の贈収賄が伴う疑獄ではない。安倍は加計森友から一銭ももらっていない。テレビ新聞が安倍攻撃のスキャンダル報道をしつこく繰り返したが、今回都民が問題視したのは都政を食い物にした自民党都議連の金権体質の方である。千億で出来るはずだった豊洲に6千億も注ぎ込ませた内田某一派のいかがわしさである。小池はそういうヤクザな連中を今回の選挙で叩き潰した。豪腕というか、実にしたたかでいい度胸。女にしておくのがもったいない。

 今後の国政への影響は単に安部政権の支持率低下などではなく、政界再編への動きだろう。そのトリガーを今回の選挙で小池が作った。小池はもともと防衛大臣経験者で、憲法改正論者、かつ核武装容認派であり、従軍慰安婦問題や靖国参拝はで安倍以上の右派政治家である。そういう意味で安倍とは基本線でケミカルが一致している。今後政局で安倍と対立することはあっても、間違っても民進共産のような左翼政党には与しない。その証拠に今回の選挙で民進党には反安部票が流れず、自民党以上に惨敗した。民進は近いうちに消えてなくなるだろう。

 にわか仕立ての都民ファーストがナンボのものか分からぬが、政治において数は力である。小池はこの勢いに乗じてやがて国政に打って出るだろう。それが彼女の最終目標だろう。都政に関する仕事はひとまず終わったと思っているだろう。大阪の橋下維新の会は国政に関与しなかったが(今の維新の会はまがい物である)、小池は都民ファーストの数の力を引っ提げて国政に乗り出すだろう。自民党に戻ってそれをやれば安倍との党内抗争だが、新党を作れば政界再編の鍵になる。おそらく小池はそれを狙っているに違いない。安倍一強体制もすでに5年。賞味期限は切れかかっている。いずれは交代しなければならないが、今の自民党にそれを引き継げる人材が見当たらない。経験と政治センスから見て、小池が有力な後継候補になる可能性は高い。

 はなから政権奪取など念頭にない公明、共産は論外として、民進党にももうそのエネルギーはない。要するに政権交代可能な野党がなくなってしまったたのだ。今の日本の政治にとって最も良くない状況である。安倍一強が問題ではなく、政権交代可能な対抗勢力が見当たらないことが問題なのだ。だから安倍も油断する。森友加計で扇情的な安倍批判を繰り返したマスコミも、それに踊らされた国民も、そのことを忘れている。理念なきスキャンダル報道を繰り返し、日本の政治を弱体化するだけの結果を生んだマスコミの罪は深い。9年前にも同じことがあった。朝日新聞は民主党政権の生みの親を豪語した。彼らマスコミが愚昧な民衆を扇動して作った無能政権は、日本を危うくした。今の状況がそれに似ている。小池がこの窮状を救ってくれる本物の白馬の騎士であればいいのだが。

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