伝蔵荘日誌
             【伝蔵荘日誌】

2017年6月24日: 改正組織犯罪処罰法 U.H.

 今国会で「改正組織犯罪処罰法」が成立した。組織犯罪に対処する上で国際協調がやりやすくなることに加えて、少子高齢化によりますます国家財政が窮していくと思われる先行きに対して、多少なりとも犯罪防止に要する費用の圧縮が期待され、同慶の至りである。

 野党や一部マスコミは、内容が曖昧で恣意的な捜査に繋がるとか、監視社会が強まるとか、国民の不安を煽るアピールを繰り広げた。また法審議の進め方が説明不足で、権力の行使によって強行採決されたという批判も繰り広げられた。治安の維持、安全の確保という要請と、市民の自由と権利、プライバシーの擁護という要請は相反する故に、慎重な合意形成が必要なのに進め方が横暴だという指摘もされた。しかし反対論を繰り返すばかりで、当該法整備の背景への斟酌や、どのようなメリット・効果などがあるかについては全く触れようとせず、法の功罪を冷静に判断しようとしなかったことで、与党側の強行採決を招いたとも言える。

 今回の経過の中で、またまた朝日新聞などの一部マスコミの対応はひどかった。「問う『共謀罪』」という20人以上へのインタビュー記事を掲載したが、あたかも国民はほとんどが反対していると言わんばかりの偏りであった。日経新聞の「識者に聞く」コメントが賛成反対同数の記事であったのと比べられたい。

 話は飛ぶが、第二次世界大戦の敗北後、占領軍は我が国のそれまでの軍国主義体質を徹底的に破壊しようとした。軍隊や官僚機構の解体のみならず、財閥解体や公職追放などによって社会経済の構成要素に対しても処置を施した。その後の我が国はすっかり毒気を抜かれたばかりでなく、社会主義的価値観に偏った民主思考によって、左方に強く引きずられた趨勢を永く背負ってきたものである。労働組合、教育界、報道・出版界は言うにおよばず、行政執行の場においてすら社会主義的価値観が横行し、企業の経済活動の重要性などを軽視する傾向が続いた。

 占領側の米国等は、早々に我が国に「軍国主義復活」の恐れが無いことを確認して、自由主義陣営の一翼を担うことを期待したが、滑稽なことに我が国の社会やマスコミは政府による政策の悉くに対して「復古・右傾化の兆候」として反発を繰り返してきた。自衛隊の創設、60年/70年の安保、教育基本法から、ずっと下って先頃の集団的自衛権行使容認に至るまで、野党やマスコミの論調は一貫して政府への反対に終始したが、その視点は「戦前への回帰を恐れる」といわんばかりの妄想に基づき、国際情勢の変化や経済社会の実勢に背を向けた論理を展開してきた。今回もそうした反応の一局である。密告社会になるとか、プライバシーの侵害に繋がるとか、誇大な指摘が甚だしい。

 戦後の70余年、保守勢力においては行き過ぎた不健全とも言える「左傾化状態」をせめて中道レベルに引き戻そうという努力が続けられた。自由主義体制下における国際協調・協力の視点から国内体制を整えて行こうとする努力も重ねられた。社会経済の変化に対応したリアリテイ性の回復に努めようとしてきた。しかしそれに対する野党や一部マスコミの対応は、是々非々というような立場ではなく、「悪しき時代への復古の営み」、とか「戦争をやりたがっている」というような飛躍した反応のもとで反対行動が継続されてきた。今回も性懲りなく反対論が展開されたわけで、与党側が見切り発車を行うのも当然かと思われる。

 確かに国会審議の進め方に大きな問題があることは感じられる。我が国では、与党が法案を事前審査し、一旦委員会や本会議に提案された後はひたすら修正されることなく成立するべく進められる。野党側が問題点を見つけても政府・与党はなかなか向き合おうとしない。そのため野党は政治論戦や日程戦術を繰り広げるばかりで、内容を前進させることはほとんど出来ない状況である。つまり国会での審議は儀式と化しているのだ。この点は自民党政権に限った現象ではなく、民主党政権下でも同様であった。聞くところによると、ドイツやフランスなどでは、素案的な法案が上程され、与野党による国会議論を通じて成案化されていくようである。

 今後、憲法改正に向けた手続きが進められるであろうが、国会審議の場で内容のある審議が行えるように、法案修正が可能となるように、法案上程から成立への過程を改善することが、我が国の民度向上のために欠かせない観点と思われる。

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