伝蔵荘日誌
             【伝蔵荘日誌】

2017年6月4日: 軍歌と戦争の想い出 T.G.

 8年前に書いた伝蔵荘日誌、「戦争の記憶」を読んだGP生君から次のようなメールが届いた。

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「T.G.君へ、
 以前、君の日誌で軍歌のサイトを教えて貰いました。今でも気持ちが落ち込んだとき、PCにセットしたヘッドフォンでYouTubeの軍歌を聴いています。軍隊経験があるわけで無し、終戦時5歳であった子供が、戦時中に聴くわけはありません。それなのに聴いていると何故か懐かしさを覚えると同時に、共感をしていることに気がつきます。何故なのでしょう。君のような軍歌を聴いた幼児体験はありませんから不思議です。Ok君あたりから右翼だと蔑視されることは必定ですね。軍歌のメロディーには日本人の心を揺さぶる何かがあるのでしょう。軍歌のCDを買おうとあちこちの店を回りましたが、現代の若者向けのCDばかりで、演歌すら片隅に追いやられています。昨日、ネットで見つけた軍歌のCDを注文しました。ヨドバシカメラのサイトです。全44曲が2枚のCDに収められています。目的は車の中で聴くためです。良い精神安定剤になるでしょう。 GP生より」

 それに対して次のような返事を送った。

「GP生君へ、
 日誌にも書きましたが、僕は軍歌だけでなく、なぜかあの時代の日本や歴史がそれほど忌まわしいものには思えないのです。軍歌と同じでむしろ懐かしい記憶です。あれだけ戦争にいたぶられ、苦しめられ、危うく死にかけたのに、どうしたことか我ながら不思議です。戦後70年経った今の日本には、僕程度の過酷な戦争体験者はそう多くはないはずです。にもかかわらず、憲法改正や共謀罪法案などが俎上に上がるたびに、マスコミや野党がやたら戦前の軍国主義時代への回帰だと誹謗するのは、意味が分かりません。彼らは本当にそう思っているのでしょうか。その時代を経験したわけでもなく、単なる脳内妄想ではないか。戦前日本が悪い記憶ではない僕にとって、どうにも理解できません。戦前は言われるほど悪い時代ではありません。今と違ってある意味日本文化が色濃く残るいい時代だった。こういう考えも右翼なのでしょうか。

 確かに父親が戦死し、大空襲で焼け出され、戦争未亡人の母親との戦後は悲惨なものでしたが、そういう不幸はいつの世もあるもので、戦前日本に特有のことではありません。今さら戦前日本を否定し、貶めても始まりません。戦争はある種歴史の必然であって、日本人がことさら野蛮で残虐で好戦的ゆえに起きたわけではないのです。歴史的に見れば、あの時代の日本に戦争をしないという選択肢はありませんでした。誰がどうやっても戦争になりました。それを今さら批判、否定しても始まりません。そういう歴史の必然をいつまでも引きずる日本人のメンタリティに、いい加減愛想がつき始めています。戦前を悪い時代と切り捨てるのは、韓国が併合時代を全否定して歴史から抹殺するのと同じ愚かさです。これでは韓国のおかしな歴史認識を嗤えません。

 CDショップが消えたので、軍歌だけでなく、今では好きなクラシックやジャズのCDも手に入りません。最近はもっぱら図書館で借りた古いCDをコピーしています。これも文明の退化でしょうか。  T.G.より」
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 GP生君と小生は共に真珠湾攻撃前年の生まれである。二人とも東京大空襲、名古屋大空襲を経験している。父親が赤紙招集されたことも共通している。小生の父親は戦争末期にフィリピンで戦死したが、GP生君の父上はシベリアに抑留され、終戦の数年後に帰国された。実際問題として、当時の日本では大都市部を除くほとんどの日本人が、我々のように空襲に遭うこともなく、白い米を食べて平和裡に暮らしていた。徴兵制度はあったが人口比較で対象者はそう多くはなく、ほとんどが親兄弟を兵隊にとられることもなく、戦争で死ぬこともなかった。我々のような戦争体験者や原爆被害者でさえ、80近くまで無事に生きながらえているのだから、今の大方の日本人はそれ以上に幸福に暮らせてきたはずだ。にもかかわらず、戦前の日本をことさら汚らわしい暗黒時代のよう貶めるのはどういうことか。

 小さな呉服店を営んでいた父は、母と結婚して出征するまでの8年間に、小生を含めて6人の子供をもうけた。子煩悩で子供を可愛がり、当時は珍しかった蓄音機を買って、子守歌代わりに軍歌を聴かせていた。大方の家庭も同じで、いずれも子だくさん。5人、6人は当たり前だった。そういう時代が庶民にとって軍国主義に怯える暗黒時代であるわけがない。日々の生活に希望があったからたくさん子供を生んだのだ。国を守る気概があったから、子供に軍歌を聴かせたのだ。ろくに子供も生めず、保育園に落ちると「日本死ね!」などと国に悪態をつく。そういう昨今よりよほどいい時代だったと言えるのではないか。

 戦争はないに越したことはないが、避けられない現実でもある。人間の文明がいくら進んでも戦争は起きる。中東の混乱や北朝鮮を見れば分かる。今の日本は、怖いものを見たくない駝鳥が、砂の中に首を突っ込んで見ないようにしているのと同じだ。戦前を邪悪な時代と切り捨て、平和憲法を呪文のように唱えていれば平和が続くと錯覚している。戦前を否定するあまり、国の骨格を忘れ、日本の良き文化伝統も切り捨ててしまった。のっぺらぼう日本の国民は、子供を生み育てる目的も、国を守る価値観も失ってしまった。かって中国の李鵬首相がオーストラリアの首相に、「日本という国は30年先地上から消えている」と言ったそうだが、あながち間違いではない。今のままではそうなりそうだ。しっかりしてくれよ、日本人。

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