伝蔵荘日誌
             【伝蔵荘日誌】

2017年5月11日: 安倍の九条加権批判と「民進党はなぜダメか」 T.G.

 時々目を通すネットサイトに、最近の安部首相の憲法改正発言に対する批判 と民進党批判記事が載っている。自分の憲法感や民進党批判とはやや趣が異なるが、基本的な部分では考え方が合致していて興味深い。

 最初の“安倍晋三デタラメ九条いじり”の禍根と害毒”である。中川八洋・筑波大学名誉教授の手になるもので、前の日誌にも引用したアゴラというネットジャーナルに載っている。リベラルな傾向の強いサイトにしては、極めて右翼的で国粋主義的な憲法論なので、その落差に驚いた。最初にアゴラ編集部の但し書きが付いていて、「安倍首相の「2020年改憲」構想表明に対し、アゴラ執筆陣の多くが概ね肯定的なようですが、保守論客の中には異なる受け止め方をする方もいます。執筆陣や読者の皆さんの議論の参考にしていただければと思います。」とある。

 今までの自民党の9条改正案は、戦力保持と交戦権を禁じた第2項を削除するもので、大方の護憲派には受けられられなかったが、今回安部が示した案は、第2項を残したまま自衛隊の存在を明記すると言うユニークな改憲論で、リベラルなアゴラ執筆者にも受けが良く、賛同する意見が大方である。それゆえ、もう一方の極右的改憲論を載せてバランスをとろうと言う目論見だろう。

 その中川論文である。冒頭から人格攻撃をまじえて安倍を口汚く罵る。「安倍晋三の“スーパーお馬鹿ぶり」とか、「憲法第九条の異様な改悪」、「選挙勝利手段としての憲法改正」、「憲法改正の私物化」、「安倍晋三は日本を憎悪している」などなど、クソミソに貶している。挙げ句に「安倍晋三こそ、日本国を永遠に地球上から消滅させる“悪魔の外敵”の極みである」とおどろおどろしい完全否定である。

 この罵詈雑言だけを読むと、まるで安倍攻撃が社命の朝日新聞かガチガチの護憲学者が書いたもののようだが、内容は真反対である。憲法九条を完全否定し、「第九条二項がある限り、日本の国防は病人的弱体化が進行し、国民の倫理道徳は退嬰し潰える。“血と歴史が祖先から子孫へと継承される共同体”である国家とは、国民の“祖国への献身”をもってその生存と存続の生命と力を得て、またその生命の再生をする。この“祖国への献身”の中で最枢要なものは、外敵から国土を守る国防である。」と、右翼も真っ青の極右に近い論述である。これが元大学教授かと驚くほどだ。

 にもかかわらず、基本的な論点は大いに賛同できる。論文が指摘するように、日本国憲法の最大の問題は九条にある。平和主義や不戦論は理想論ではあるが、一種の情緒、気持ちである。間違ってはいないが、せいぜいが前文で述べればいいことであって、それを条文で細かく規定するところに無理がある。立憲主義のもとで憲法は国家指導者の政治行為を縛るものだ。いくら自衛は許されると言っても、「陸海空軍その他の戦力はこれを保持しない。国の交戦権はこれを認めない。」と明確に規定してしまったら、安全保障に関して政治は何も出来ない。自衛隊も存在できない。この第二項を残したまま自衛隊を明記するというのは無理がありすぎる。言語矛盾の極みで法律にならない。

 おそらく安倍もそれは分かってやっているのだろうが、彼の狙いはそうすることによって国民に根強い憲法改正の抵抗感を薄めることにあるのだろう。事実リベラルな口うるさいアゴラ執筆陣に受け入れられているところを見ると、その効果は明らかだ。国会で民主党などが盛んに旧態依然の改正反対をぶっているが、どうにも迫力がない。ここは安倍の作戦勝ちと言っていいい。山のように動かなかった改憲議論が動き出している。しかしながらとりあえずの突破口であることは認めるとしても、9条を残したままの自衛隊明記は感心しない。憲法に対する国民の幻想や誤解を増幅しかねない。手練手管の誤魔化し改正と言って過言でない。やはり平和論不戦論は趣旨説明の前文にとどめ、9条(の少なくとも二項)は全面削除するべきだ。それが真っ当な改憲だろう。

 続いて「民進党はなぜダメか」である。二階堂ドットコムというブログの記事である。普段はアウトロー的スタンスの、斜に構えたエキセントリックな暴露記事ばかりのブログで、こういう理路整然とした政党批判は珍しい。二階堂氏は党費も払っている自称民進党員だそうだが、今回の民進党批判はなかなか鋭く、ツボに嵌まっていて面白い。今の民進党の欠点、問題点を余すところなく網羅的に指摘している。1.時代についていけない、2.幼稚すぎる、3.幕の内弁当で政策に矛盾が多い、4.蓮舫が幼稚→もうここがダメ、5.一部のアホな議員の国会質問が目立ちすぎる、7.何一つ悪い奴らを暴けない、などと駄目な点を箇条書きに細かく説明していて、いちいち同意できる内容である。

 党首蓮舫がよほどお嫌いらしく、二重国籍問題を含め蓮舫批判は手が込んでいる。中でも秀逸なのは「2位じゃダメなんですか」失言についてである。世の中にバカ大臣の失言はいくらもあるが、そんなものはすぐ忘れられる。しかしながら蓮舫の有名な「2位じゃ駄目なんですか」は、6年経った今でも大方の国民が憶えている決定的失言だ。こういう愚かで印象の悪い人物を党首に据えていては支持率は落ちるばかりと言う指摘は的を射ている。

 最近仕入れる情報はネットばかりだが、まあ面白いので両方とも読んで下され。

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