伝蔵荘日誌
             【伝蔵荘日誌】

2017年5月3日: 憲法9条と原発ゼロ T.G.

 日本の将来には少子高齢化と言う越えがたい壁が立ち塞がっている。これがために国の先行きが暗い。真綿で首を絞められるように、確実に国力が衰えていく。今のところこの壁を乗り越える方法は誰も見つけられない。少子化ほど深刻ではないが、ほかにも越えがたき壁がいくつかある。そのうちの代表的なものが、福一事故で生まれた原発に対する拒絶感と、70年来床の間に飾ってきた憲法9条の平和主義だろう。どちらも現実にそぐわない理想論でありながら、国民の多くに根強い願望が植え付けられていて、乗り越えがたい壁になっている。世論調査で原発ゼロ、護憲の是非を問えば、大多数が賛成に回り、反対は少ない。

 ネットジャーナルのアゴラに池田信夫氏が原発ゼロは将来世代への「代表なき課税」と言う問題提起をしている。彼の主張によれば、福一事故の影響で原子力産業に逆風が吹いている。これがため日本の東芝は破綻し、フランスの大手アレバも経営危機に陥っている。冷静に考えれば原発事故の健康に与えるリスクは石炭火力発電による健康リスクよりはるかに小さいが、今や原発は政治リスク化していて、政府は何事も決定せず逃げ回り、電力会社も新規建設しない。既存原発は老朽化しており、脱原発など目標にせずとも、放っておいても2040年には事実上原発ゼロになる。その頃の電気料金はどうなっているか。

 大和総研の推定によると、原発を再稼動しないですべて止める「原発ゼロ」シナリオの場合、産業用の電力料金は2030年には2010年の2倍近くになり、製造業はほとんど国内では成り立たない。原発を再稼働させるベースシナリオでも1.5倍である。製造業は海外移転すればいいが、成長率が下がって雇用は失われる。再生可能エネルギーは、さらにコストが高く、火力のバックアップを必要とする。それに必要な化石燃料輸入に年間4兆円の国費が垂れ流しになる。原発ゼロは将来世代への逆進的な「課税」であり、日本人自らが原発を止めて貧しくなることを選択している。この選択権は将来世代にはない。小泉元首相などが盛んに原発ゼロを言い募るが、年寄りの無責任を通り越して、反社会的偽善である。

 20年後には中国やロシアの原子力開発が進み、世界の原子力産業の中心になるだろう。彼らは地元対策や安全対策にコストをかけないので、原発による電気代は日本よりはるかに安くなる。原発ゼロを推し進めると、日本から原子力技術が不可逆的に失われ、取り返しがつかない。日本は中国ロシアのエネルギーに依存せざるを得なくなる。日本のエネルギー安全保障は大いに揺らぐだろう。GDPは低下の一途を辿るだろう。

 もう一つの壁は憲法9条である。理想は美しいが、現実には対処できない。床の間の飾りにはもってこいだが、実用にはならない。「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した」ところで、すぐお隣に核ミサイルを東京にぶち込むと、あからさまに恐喝する国があったら何の役にも立たない。それが分かっていても、世論調査をすると憲法を変える必要がないが過半数になる。9条に限れば大多数だ。これはおそらく原発ゼロより根強いだろう。憲法改正は遠い先のことだ。もしかすると永久に出来ないかも知れない。その前に日本が潰れていて。

 実際問題として北朝鮮の核武装は日本にとって国の存立を脅かす一大脅威である。一衣帯水の所に、日本に悪意を持って核開発を続けている国がある。ことあれば日本に撃ち込むと脅しをかける。イスラエルやインド、パキスタンも、各々の仮想敵国向けに核兵器を持っているが、国名を名指しして撃ち込むなどと脅さない。そういうあからさまな暴言を吐くのは三代目の将軍様だけである。それなのに、安倍がやっとの思いで安保法制を通し、今回の北朝鮮危機に臨んで護衛艦を米艦防護に向かわせると、さっそく民進、共産から反対の声が上がる。新聞テレビも反対を言う。北朝鮮への挑発をやめろ、交渉と対話で解決しろと。挑発しているのは相手の方で、交渉と対話は何度もやっても効果がなかった。分かっていながらそう言うのは、日本がどうなろうと憲法9条だけは守れと言うことである。

 前にも書いたことだが、北朝鮮の核はアメリカにとって脅威ではない。中国もロシア、ヨーロッパも韓国も脅威ではない。金正恩も自国領土と思っている韓国に核を落とすわけがない。唯一脅威なのは日本だけなのだ。オバマはそれで放置した。トランプは内政の失敗を外交で取り戻そうと、さもアメリカ本土に届く核ミサイルが今にでも出来そうなことを言って北朝鮮危機をあおり立てている。そんな大層なものが金も技術もない北朝鮮に作れるわけがない。作れるのはせいぜい日本に届く核ミサイルだけだ。金正恩がぽっくり死なない限り、北朝鮮の体制は崩壊しない。核とミサイル開発をやめさせる方策はない。この期に及んでトランプ、プーチン会談で6カ国協議再開の話が出るのがその証拠である。

 韓国には近々親北大統領が誕生する。おそらく北朝鮮に宥和策をとるだろう。一気に統一までは行かないとしても、緩やかな連帯を組む可能性もある。核を持った反日国家連合誕生である。日本にとってまさに悪夢、疎ましさは慰安婦像の比ではない。それを見届けたアメリカは在韓米軍を引き上げるだろう。アメリカにとって韓国防衛は膨大な金がかかるお荷物なのだ。北朝鮮問題を奇貨として中国、ロシアと談合し、手打ちを済ませたアメリカは、かねてからのトランプの狙い通り、極東アジアから手を引き始めるだろう。日本は単独での国家安全保障を考えなくてはならなくなる。悪意を持った半島に核が存在したままの状況で、9条でがんじがらめに手足を縛られた日本に何が出来るだろう。そうなっても美しい憲法だけは守り続けるのだろうか。

 自分達の世代はこの先そう長く生きるわけではないが、先のある若い人たちにとって、将来は明るくなさそうだ。その災いの種をまいてほったらかした責任は我々世代にある。まことに申し訳ない。

目次に戻る